第13話:左京
目的の店までは車で向かった。
普段、電車派の沙紀さんもこの格好では無理だと踏んだらしい。
案内された店は、歌舞伎町のはずれにあるお店で普通の街中にあるお店だった。
「ここよ。はぁー、視線が痛い」
ぼやく沙紀を横目で見た大祐は、無理もないと思う。
先ほどから地元の住人達から好奇の視線を送られかなりナーバスになっている。
店の前に立ち、大祐は店の外観を眺める。
いたって普通の喫茶店という感じがした。
店の名は、ローズ。
沙紀は、視線から逃れるべく店の中へと入って行く。その後を大祐は慌てて追う。
中に入るとアンティーク調の家具が配置されていて、重厚な雰囲気が流れている。
ちらほらとお客もいるが、一度こちらに視線を寄越しただけですぐに視線をずらす。
「いらっしゃいませ」
現れたのは、足首まであるスカート姿のメイドだった。
(本物のメイドって感じだ)
「左京はいる?」
「はい、奥でお待ちになっています。どうぞ」
そう言ってメイドは、二人を奥の個室へと案内する。
「お客様がいらっしゃいました」
「ありがとう。お茶を持ってきてください」
「はい」
メイドはお辞儀をすると部屋から出て行く。
「お久しぶりですね?お嬢様」
「・・・・・・・その呼び方は、やめろと言っているでしょ。左京」
「いいじゃないですか。僕にとって貴方は仕えるべきお嬢様なんですから」
ニコニコと笑いながら執事姿の男は、沙紀達に椅子に座るようにうながす。
(本当に執事だし)
目の前にいるのは、自分より少し年上の男性。茶色の髪に細い銀色のフレームの眼鏡をした紳士と呼ぶに相応しい雰囲気を持った人物だった。
「彼が大熊君ですね?」
「はっ、はい。って何で自分のことを?」
「クスクス。僕の職業は知っていらっしゃるでしょう?」
「あ、そうでしたね」
「一度お会いしたかったんですよ。この気難しいお嬢様のバディに収まっている人物とはどんな人かと」
「そうですか」
「想像通りの人物で納得です」
「左京!本題に入りたいんだけど」
「まぁまぁ、お茶でもゆっくり飲んでから仕事の話をしましょう」
コンコン、ガチャリ。
ちょうど先ほどのメイドがお茶を乗せたワゴンを持ってくる。
左京は、そのワゴンを受け取ると優雅な手つきで二人に紅茶を入れてくれた。
「お嬢様には、こちらを特別サービスで」
その言葉でもしやと思う。そしてティーカップの横に置かれたの物を見て思わず笑ってしまう。
大祐の予想どおりそこに置かれたのはプリンだった。
左京が沙紀をお嬢様と呼ぶには理由があります。
そのうち話に出せたらと、出せなかったら短編にでも。
ただ、沙紀の家の執事だって訳ではないです。