第10話:特効薬
本部に戻ると案の定、沙紀さんの機嫌の悪さはマックスだった。
「戻りました」
大祐が声をかけると書類から目線を上げて沙紀が返事をする。
「おかえり。どうだった?」
「一応、警官として東京で生活する上の警告はしておきましたが」
「はっ!アイツラがそんな警告聞くと思う?」
「思いません」
春の事件以降、大祐は沙紀と共に現場に出る機会が増えてきた。その中のいくつかの事件に彼等の一族が関わっていたのだ。
そしてその現場に来る向こうのお偉方がそろいもそろって俗物(沙紀さん談)ばかりで困っているのだ。
「大体、えらそうなこと言うわりに何もしてないじゃないの。何が我々は昔からこの国を守ってきたんだ、君達みたいなぽっと出の人間には分らないのだよだ。あのハゲジジィ、私達があんたのしてることしらないとでも思ってるのかっての!!」
沙紀さんが言うハゲジジィと言うのは有名な国会議員だった。
「まぁまぁ、今日会った疾風君達は素直でいい感じでしたよ」
「・・・・・・・タロ。子供だからってなめてたら痛い目みるわよ。彼は藤堂の人間だもの」
「何か知ってるんですか?沙紀さん」
「あの一族がいくつかに別れてるのは知っているでしょ?そのうちの一つの跡取りなのよ、あの坊やは」
「かなりの大物ってことですか?」
「大物になる予定ってとこかしらね。どう育つかはこれからによるでしょう」
大分落ち着いてきたのかな。
沙紀の様子を見て大祐はホッとする。
「こんにちは。出前です」
そう言って現れたのは、杉浦だった。
「杉浦?どうしたの?」
「出前の注文がありましたので。どうぞ、沙紀様」
杉浦に渡されたどんぶりを受け取り、沙紀は蓋を開ける。するとそこには・・・・・・。
「プリンだ。えっ?いいの?」
「はい。大熊刑事からです」
「どうぞ、食べてください。今日は忙しかったですからね」
「ありがとう」
そう言って嬉しそうにプリンを食べる沙紀の姿を見て大祐は安心する。
(これで完全に戻ったかな機嫌)
タイトルは沙紀の機嫌を治す特効薬・プリンのことです。
丼サイズのプリンをニコニコと食べるってすごいなと思います(笑)
でも、世の中にはバケツサイズもあるらしいから、それに比べると小さいのかなぁ。