表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

xix.

「これで終わりか」

 男が呆れたようにいった。

「楽しむ暇もなかったようだが」

 男は疑わしげに倒れた人影に目をやる。と、突然、人影は燃え上がった。全身が見る間に火に包まれる。白色の輝きを帯びた炎だ。広がって、周辺に漂う霧をも嘗めていく。男は無言でその様子を見た。瞳には抑えようのない怒りがあった。

「もちろん、まだ続きはありますよ。一気に片付けようなんて、さすがに無茶だ」

 男の背後で兄の声がした。奏はほっと息をつく。男が舌打ちして振り返った。

「ほとんどつぎ込んでしまいましたね。あの霧はちょっと厄介だったから、助かりましたよ。また随分と集めたものだ。あれだけでも、ひとつの闇の生き物に匹敵する。さすがですね。だけど人形に封じ込めたから、もう取り戻せませんよ。あのまま浄化します」

 慧は燃え盛る白い炎を目で示す。

「おまえ」

 男は慧を見据えた。

「そう怒らないでください。どのみちあれは、一部が浄化されて力が弱まっていたんだ。弟の仕業ですね。あの霧だけじゃない。あなた自身も、あいつといて少しばかり調子が狂ったようだ。違いますか」

 慧が前に出て、男は後退した。

「ああ、動かないでください。話はまだ終わっていませんよ」

 慧は微かに笑う。その胸で霊符が輝き出した。

「あの力が珍しかっただけじゃない。あいつはあなたと正反対ですからね。それで興味を引かれたんでしょう。あいつからいろいろ蒐集したくなっても無理はない。その上、なかなか好みの反応を見せないものだから、つい執着した。どうしても望んだ姿を見ずにはいられなくなった。けど、霊符もなしにあの霧を浄化するようなやつが、あんな呪いみたいな声をあげることがあると思いますか。あいつが怒ったり恨みごとをいったりするところは、おれも見たことがない」

 慧は言葉を切った。男は霊符の光に魅入られたように動かない。慧は再び口を開く。

「あなたとおれでは、力の差はごく僅かだった。だから、何かに囚われて冷静さを失うのは致命的だ。さあ、これでいよいよお仕舞いです。いったとおり、闇の世界に戻っていただく。弟のことは、もう忘れてもらいますよ」

 男が怪訝そうに目を細めた。慧の胸元の輝きが強まった。まるで兄自身が光を発しているかのように奏には見えた。慧は霊符を取り出し、宙へと投げた。一際鮮やかな輝きが放たれる。男が腕を上げて目を庇った。

 奏も思わず目を閉じた。瞼を閉じても光が感じられる。白い闇の向こうで、くぐもった叫びのようなものが一声した。何かが粉々に壊れる気配が伝わってくる。男が張った結界だろうか。次の瞬間、妖気は消えていた。身体がすっと楽になる。奏は目を開いた。

 部屋には午前の美しい陽光が戻っていた。男の姿はどこにもなかった。家の中に軽やかで澄んだ空気が下りてくる。慧が軽く息をついて、男が消えた場所をみつめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ