探偵と助手と、割れた壷
初めまして。もしくはお久しぶりです。
吉善です。
今作品は、探偵と助手が活躍する推理小説!
……と言いたいところですが、今回は死人は出ません。
推理小説と言えるのでしょうか。
それでは皆様、お楽しみください。
某日、某新幹線内。
とある男女二人が、ある車両へと足を踏み入れた。
「いやー、良い旅でしたね。佐奈原君」
「そうですね。先生」
そう会話をする二人。
片方は、ふちの無いメガネをかけた細身な二十代後半ぐらいの男性。
もう片方は、前髪を切りそろえたショートヘアに、身長百五十センチほどという小柄な、二十歳前後と思われる女性。
そしてその二人の手には、それぞれ大きな旅行カバンが一つずつ。
一見、旅行帰りの若い夫婦かカップルに見えないこともないのだが、二人はそういう関係ではない。
探偵事務所を経営する男性と、その助手である女性。
――つまり二人は『探偵と助手』なのだ。
「それにしても、本当に宿泊費や交通費など全てを出してくれるとは……」
「ええ。実質、お土産代くらいでしたね」
そんな会話を続けながら、乗車券に書かれた番号の席を見つけ、腰を下ろした二人。
荷物を足下に置いたりして一息ついたところで、助手の佐奈原朱里は席を探す途中で見かけた、営業マン風の男性を横目でチラリと見た。
景気が良いのだろうか、その男性は高級そうな真新しいスーツに身を包み、機嫌の良さそうな表情で、足を組んで読書をしている。
それを見た後、佐奈原の隣に座っている探偵の中宮博志をちらりと見る。
ポロシャツと安物のジーンズという、安上がりな服装。
外出用の服などほとんど持っておらず、さらには新しい服を買う余裕もなかったため、たとえ旅行の時でさえ、中宮はそのような服装になってしまうのだ。
「あそこにいる男性。……景気が良いのでしょうねぇ。ウチと違って」
佐奈原がそのセリフを言った瞬間、ぶふっ! と、中宮ちょうど飲み口に口をつけていた缶のお茶を吹き出してしまった。
中宮の服装と比較して言ったのであろうそのセリフ。
『ウチと違って』の部分で佐奈原が振り向き、その視線が中宮に突き刺さったからだ。
中宮探偵事務所はお世辞にも景気が良いとは言えず、最初は中宮の生活費を削りに削っていた。
だがそれも限界に達し、ついには佐奈原への給料を滞納するはめになってしまっていたのだ。
……ところで、そんな中宮と佐奈原がなぜ旅行になど行けるのか。
それは、一か月ほど前に受け持ったある仕事の依頼料が、事の始まりだった。
本来は現金で受け取るという取り決めだったのだが、依頼主が突然現金の用意をする事が出来なくなり、その代わりとして中宮に手渡されたのが、箱根にある有名旅館の宿泊券と新幹線のチケットだ。
本来は換金して佐奈原への給料の滞納分に充てる予定だったのだが、連れて行ってくれるなら給料の滞納分は全額チャラにすると佐奈原が言ったため、今回の旅行が決定したのだ。
そして二人は温泉巡りの旅を終え、後はゆっくりと帰宅するだけ。
そんな二人の身に、何一つ前触れも見せず、事件は降りかかってっきた。
それは、中宮がお手洗いのために指定されていた席から外れ、再び席へ向かって戻っていた時だった。
ガッ!
「あっ!」
何かにつまずき、中宮は転びかけてしまった。
通路に置いていた誰かの荷物につまずいてしまったようで、目の前には先ほど佐奈原が、景気が良さそう、と言った男性。
どうやら、彼の荷物のようだ。
「あっ……。すいません」
すぐさま謝る中宮。
つまずいただけとはいえ、謝るのは常識。
無意識ながらも、謝ればトラブルにはならないと中宮は思っていた。
だが次の瞬間、そのつまずきにより状況は一変した。
「なっ……! 何やってんだあんた!」
思わず中宮は、え……? と言ってしまう。
中宮の予想を裏切るかのように、その男性は驚きと焦りを同時に表現したかのような表情をした。
慌てた様子で、中宮がつまずいた荷物を確認し始める。
その荷物を見て、中宮は男性がなぜそのような表情で慌て始めたのかを悟った。
高さ二十センチほど、横幅はそれぞれ高さよりも若干長いくらいの木箱。
男性がその木箱のふたを開けると、その中から布で出来た袋のような物が現れた。
「あの、もしかしてこれ……」
「壷だよ!」
恐る恐る訪ねる中宮に、男性は怒鳴り口調でそう返した。
袋の中身は、高級そうな壷。
それも、先ほどつまずいた衝撃で壷の半分が割れ、いくつかの破片と化していたのだ。
もちろん、食いつないでいくのがやっとな中宮に、高級そうな壷を弁償する財力などあるわけがない。
その破片の一枚を男性が取り出し見せた途端、中宮の顔色がみるみるうちに青くなっていった。
「どうしたんですか? 先生」
背後からした佐奈原の声に、中宮は思わずビクッとした。
席に戻ろうとしていたはずの中宮の様子がおかしいのに気付き、佐奈原は様子を見に来たのだ。
「あんたこの人の連れか。今から俺が届ける大切な壷を、この男が割っちまったんだよ!」
「え、壷っ!? い、いくらなんですか、その壷は……?」
割れた壷を見てそう訪ねる佐奈原に、男性は大きくため息をついてこう答えた。
「……二百万だ」
「「に、二百万っ!?」」
その壷の金額に、中宮と佐奈原は思わず声を揃えた。
二人に壷のような骨董品を目利きする能力はないのだが、二百万と言われればそう見えなくもない。
どうしたらいいのか分からずおどおどする二人。
どうやらこの男性は骨董商らしく、この壷を骨董市に出品する壷の中で一つ会場に送り忘れていた物を自らの手で運んでいた途中だったのだという。
「とにかく、弁償してもらうからな!」
当然のことであるが、男性は中宮に壷の代金二百万を請求してきた。
とはいえ、もちろんそんな大金を持ち合わせているわけもなく、この場ではとりあえず、お互いの連絡先を交換する事にした。
そして中宮と段例の連絡先を交換……。
しようとした、その時だった。
「中宮か?」
「げぇ……っ! 糸田警部!」
中宮の背中から、男性が声をかけた。
その声の主は、今まで何度か共に事件を解決に導いてきた中年刑事、糸田警部だ。
正直、知り合いの刑事に取り締まられるのはいい気分ではない。
何とも気まずい状況に、中宮と佐奈原の顔が引きつる。
それと同時に、壷を割られた男性も驚いたような表情をし、顔引きつらせた。
「い、糸田警部。これはまた最高のタイミングで、なぜこんな場所に……?」
「ああ、休暇を取って久々の家族旅行中だ。隣の車両にいるのが窓から見えたから少し挨拶に……」
「ああ、そうですか。こちらは何も起こっておりませんので、引き続き家族との時間をお楽しみ下さい」
会話の流れで糸田警部を追い返そうとする中宮。
だが、壷を隠そうと糸田警部の前に詰め寄ったり、何も聞いていないのに『何も起こってない』と返したりと不自然な点が多かったため糸田警部か不審に思い、割れた壷はあっけなく見つかってしまった。
それから、十分後。
糸田警部による事情聴取が一通り終了。
あとこの場でやれる事と言えば、割れてしまった壷の状態を確認し、器物破損を証明する写真を撮る事ぐらい。
とりあえず壷を確認しようとしたその時、壷を割られた男性が糸田警部にこう声をかけた。
「あの……。この壷を出品する予定だった骨董市に割れてしまった事を連絡したいので、デッキの方に行ってもいいでしょうか?」
中宮が壷を割ってからの事を思い出してみれば、確かにこの男性はまだ骨董市に連絡を入れていない。
糸田警部に断りを入れてから、男性は割れた壷を持ってデッキへと向かおうとした。
その時だった。
「ちょっと待って下さい。壷の状態を確認したいのでそれを置いてから行って下さい」
デッキへ向かおうとしたところを中宮に呼び止められ、男性は少し驚いたような表情をした。
ちょうど同じ事を言おうとした糸田警部よりも早く、中宮が発したそのセリフ。
なぜ、糸田警部よりも早くそう発したのか。
その理由は、ある事を中宮がいち早く察したからであった。
男性がデッキへ向かった後。
一センチから三センチほどのバラバラな大きさに削れてしまった破片を一枚ずつ手に取り、糸田警部と佐奈原が手分けして確認していく。
「これで最後ですね」
「…………? 本当に、これで最後ですか?」
「はい、もうほこり一つありませんよ。先生」
形の残った壷の半分と十枚ほどになったもう半分の破片を確認し佐奈原はそうつぶやいたが、中宮は少し首をかしげた様子でそう言った。
何を思ったのか、木箱の中の割れた壺が入っていた袋を手にとってそれを裏返す。
が、佐奈原の言った通りもうすでに割れた壷の破片は全て確認されていて、裏返したところでほこり一つ出てこない。
それを不思議そうに佐奈原が見ていると、壷を割られた男性が電話を終えてデッキから帰ってきた。
「すいません、遅くなりました。骨董市の方へ連絡したら割れた壷の状態を見たいと言ってきたので、壷を持ち帰らせてくれませんか?」
壷の持ち帰りを要求する男性に、中宮はここぞとばかりに木箱へものを詰め込んで男性に手渡した。
「はい。中に壷の破片をちゃんと入れておきましたので、どうぞ」
中宮の言葉に、男性は中身も確認せずに木箱を受け取った。
その中宮から直接手渡された木箱が、何を意味しているのかも知らずに……。
新幹線下車後。
駅のホーム。
「まさかお前を取り締まることになるとは……。それもプライベートの家族旅行中に」
早速骨董市へ向かうと言って木箱を片手に男性がその場を後にしたのを確認すると、糸田警部はそうつぶやいた。
家族を先に帰宅させ、今や加害者となってしまった中宮を見て意気消沈といった様子の糸田警部。
だがその反面、当の本人はまるで後ろめたい事など何一つないかのように、糸田警部に向かってこう言い放った。
「何を言っているんですか、糸田警部。取り締まられるのは……あの壷を割られた男性の方ですよ」
ええっ!? と、糸田警部と佐奈原は口を揃えてそう言った。
状況を見る限り、加害者は中宮、被害者は壷を割られた男性で間違いない。
それなのに『あの男の方が加害者である』としか取れない中宮の発言。
佐奈原と糸田警部は、もはや意味が分からなかった。
「何か変だったんですよね。あの男性の様子」
「? あの……先生。壷を割られたあの男性に、どこか不自然な点でもあったのですか?」
「ええありましたよ。佐奈原君。不自然な点は……糸田警部、あなたが登場した時です」
「俺がか?」
自分が登場した時に男性の様子が不自然だったと指摘され、糸田警部は思わず自分の顔を指差した。
「ええ。……覚えていませんかお二方。糸田警部が登場した時に、あの男性はなぜか驚いた顔をし、さらには顔が引きつっていた事を」
中宮の指摘に佐奈原と糸田警部が頭の中の記憶を探ると、確かに壷を割られた男性はその時なぜか驚いた表情をし、顔が引きつっていた。
「……確かに、驚いたような表情をしていましたね。……ですが先生、それのどこが不自然なのですか?」
「……人は驚いた時に驚いた表情をします。ならば当然、あの男性は糸田警部の登場に驚いていたのです。ですがその驚くという反応自体が、そもそも不自然なのです」
「……? 驚くことのどこが不自然なのですか? 先生」
「もしかしたら佐奈原君は、僕達二人があの時糸田警部に対し気まずさを感じ、驚き、そして顔を引きつらせたせいであの男性の様子に違和感を覚えなかったのでしょう。ですがあの男性は、糸田警部に対し気まずさを感じることはありません。なぜなら、あの男性は単なる被害者。驚いて顔が引きつることはおろか、丁度良いタイミングで警察が登場したことを、むしろラッキーだと思うことでしょう」
「……! 確かに! 警察が目の前にいた方が、加害者である先生を取り逃がしたりする可能性が減る。あの男性にとって、糸田警部の登場は不幸中の幸いという訳ですね」
「その通り。……他にも、あの男性には不自然な点があります」
「まだあるのか」
もう一つ不自然な点があるという指摘に、糸田警部はそう言った。
今まで佐奈原の方を向いていた中宮が、今度は糸田警部の方を向いた。
「糸田警部。覚えていますか? あの男性は骨董市に連絡を入れようとした際、割れた壷を持ったままデッキへ向かおうとしていたのを」
「ああ。もちろんだ」
結果的には中宮の方が先ではあったが、糸田警部は壷を持ってデッキへ向かおうとする男性を呼び止めようとしていた。
その理由は、割れた壷の状態を確認する必要があったからだ。
「では、なぜあの男性は壷を持ったままデッキへ向かおうとしたのでしょうか?」
「壷を持ったままだった理由……。たとえ割れてしまったとしても自分の物には変わらないから、自分で持ち歩いた……とかか?」
「……いえ。あの壷は割れてしまい、もはや価値のない物となってしまいました。はっきり言って盗む人など一人もいない上、糸田警部という壷を見張ってくれる人までいます。ちゃんと見張ってくれる人がいる状況で、もはや荷物にしかならない物をわざわざ持ち運ぶ理由がありません」
「? だとしたら、あの男が壷を持ったままだった理由は、一体何なんだ……?」
「壷自体には、持ち運ぶ理由はありません。……ただ、あの壷には付いていたんですよ。あの男性の……指紋が」
指紋っ!? と、再び糸田警部と佐奈原は口を揃えた。
「……おそらく、あの男性には前科があり、そして後々壷から指紋を採取されるようなやましいことを、実は行っていた……。前科のある人間は、指紋を採取されていますのでそれで個人を特定されるのを恐れたのかと。僕はその可能性を察知したので、糸田警部よりも先に男性を呼び止めたのです」
「ちょ、ちょっと待った中宮! あの壷を割られた男が何かしら取り締まられるような事をしていると言いたいのは分かった。だが、その証拠は何だ? 証拠がなければ、ただの推測にしか……」
「もちろん、証拠はあります」
そう断言した後、これです、と言って中宮はあるものを佐奈原と糸田警部に見せた。
それは、男性が持って行ったはずの、壷の入った袋であった。
「先生! もしかして、それは……」
「ええ。あの割れてしまった壷です。……実は中身の袋を男性に気付かれないように出しておいたんです」
犯罪スレスレな行為を警部の前で公表した中宮は、袋の中から壷の半分と、それの一部分に合いそうな破片を一枚取り出し、手でその二つの割れ目を合わせた。
割れ目は、隙間なくピッタリと一致……はしなかった。
間違いなく、割れる前にこの二つの破片が隣り合っていたのが分かる。
だがその割れ目には、いくつもの小さな隙間が空いていたのだ。
「お恥ずかしながら、僕も壷の破片を調べるまで気が付きませんでした。……人生で一度くらいは、割れたガラスやコンクリートを見た事があるでしょう。この壷のような固い物体は、割れた際に数センチ程度の破片になる事もあれば……砂粒のような細かい破片になる事もあるのです。ですがこの壷には細かい破片がなく、袋の中にもそれはなかった。おそらく、安価な壷をわざと地面に落として、一、二センチほどの破片だけを一つ一つ、袋の中に入れたのでしょう。そのため、砂のように細かくなった小さな破片が入っていなかった……。これらから推測出来る真相、それは……」
割れた壷の破片を袋に入れ直し、中宮はこう言った。
「あの男性は、詐欺師だったのです!」
人を騙し金品を奪う犯罪、詐欺。
そしてその詐欺を行う人間、詐欺師。
それが、あの男の正体だったのだ。
「まさか中宮、あの壷は前もって割られていたというのか……?」
「ええ。狭い通路の上にわざと壷の入った木箱を置いてつまずかせ、割れた壷を証拠に弁償するよう脅すという手口。あの壷は、元から『割れた壷』だったのです」
「…………! だったら……だったらなぜ逃がした中宮! あの場で取り押さえればよかっただろうが!」
「いえ。ここはあえて逃がすべきなのです」
そう言うと、中宮は佐奈原にあるものを要求した。
それは、佐奈原の携帯電話。
一体何をするのかと佐奈原と糸田警部が見ていると、中宮は携帯電話を操作しながらこう説明し始めた。
「あの木箱の中に、壷の入った袋の代わりに僕の携帯電話を入れました。携帯電話という物は進化を続け今や多彩な機能が備わっています。その数多くの機能の一つにあるのが、衛星からの信号を受信機で受け取り、受信者自身の位置情報を知る、全地球測位システム。通称……」
中宮は携帯電話の画面を佐奈原と糸田警部に見せた。
その画面には、今中宮のいる地点からさほど離れていない場所の地図と、少しずつ動き続ける点が一つ。
「GPSです」
後日。
中宮探偵事務所。
『器物破損を装う詐欺集団逮捕』
廃棄寸前のソファーに腰掛け、見出しにそう書かれた新聞の記事に中宮が目をやっていると、佐奈原がその記事の前に顔を近づけてきた。
「やりましたね、先生。まさかあの詐欺師の男性を泳がせて、男性の所属する詐欺集団の居場所を割り出すだなんて、思いもしませんでしたよ」
「……あの手の詐欺は、たとえ少額でも一度お金を払ってしまうと、騙されやすい人物なのだと詐欺師が目をつけ、他にも何かと理由をつけて次々とお金を騙し取っていくタイプです。……なら、その理由付けとして、例えば骨董市の主催者を名乗る人物が『あの壷は骨董市の目玉商品だったから客が来なくなった』と更なる金額を要求してきます。……つまり、あの男性にはその主催者のふりをする仲間の詐欺師がして、さらには詐欺集団に所属していると推測出来ます」
「なるほど。……それにしても先生、なぜあの男性をわざと逃がしたんですか? その場で捕まえたとしても、後で詐欺集団がいることを白状させればそれで済んだのでは……?」
「……いえ。骨董市に連絡を入れると言ってデッキに向かった際、仲間である詐欺集団に、警察に詐欺がばれてしまいそうだ、と助けを求めたのではないかと思いまして……。もしそうなら、その場で逮捕して詐欺集団の居場所を白状させたとしても、その間に詐欺集団はあの男性を切り捨ててどこかへ逃げてしまう可能性があったのです」
「とかげのしっぽ切りというものですね」
「はい。ならば後はスピード勝負。GPSからの情報を元に詐欺集団の居場所を特定し、判明次第に警察が突入。といった逮捕劇です」
佐奈原が感心していると、なぜか中宮は自分が手柄を立てたはずなのに、大きなため息をついた。
「? どうしたんですか、先生。ため息なんかついて」
「……今回、手柄は立てましたが、その……別に依頼を受けていたわけではないので、今回の件での収入が……」
言いづらそうにお金の話をしだす中宮。
それを見て佐奈原は、中宮に勝るとも劣らない大きなため息をついた。
「……分かりましたよ。私の来月分のお給料は結構ですから、家賃の滞納だけは避けて下さいね」
「ら、来月分だけとは言わず、再来月分も無しだと助かるのですが……」
「調子に乗らないで下さい!」
ここぞとばかりに、食いつなぎの可能性を探る中宮。
給料はいらないと言ってしまった事をひどく後悔する佐奈原。
二人のお給料を巡る戦いがいつまで続くのかはさておき、中宮探偵事務所に依頼が舞い込む限り、もしくは事件に巻き込まれ続ける探偵特有の人生が続く限り、この物語は続く。
いつまでも。
いつまでも……。
改めまして、吉善です。
皆様は『自力で』真相にたどり着けましたでしょうか?
では皆さん、またお会いしましょう。