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犬っころ、走った

 ナトセの森、って。あれだよね。村東のはずれらへんのことだよね。魔女? 魔女ってあれか。イズ……、じゃなくてゼノ騎士様の友達且つほっぺにミミズ腫れ作った人。

 あなた? あなたって? 夫とか、そういうのじゃのうて相手を指す言葉?

 あた、し?

 ……えー? いやいや、あたし精霊様に怒られたことないもん! 会ったすらことないし! 大体地面揺れてるのってどう説明するんだよー。最近もたまに揺れるし?

 てか。……は? は? あたしぃ、意味わかんないんですけどぉ~。

「……どうなさいました?」

 女王様が優しく微笑んで尋ねて来られます。どうなさいました、じゃなくてね? あの、ね? あたし魔女じゃねんだよおおおおおおおおおお! と、一国の頂点に言えるはずもなく……ていうか。

 いや、心当たりっていうか。ね? ま、あり得ないとは、思ってるけど? もっしかしたら、ってのがあるじゃん? きっとあり得ないべ? な?

「記憶が、なくなっておりまして」

 ゼノ騎士様が、ポツリと言った。いや、みんなに聞こえるけど。

 ……はれ? はれれれれ? え、え、えーっと? あたしの、ことだよね?

「え、あ――」

 混乱した頭で、とりあえず何かを言おうとして――柔らかく、そして温かい何かで後頭部をやられ。何か、懐かしさと既視感を感じつつ、あたしの意識は消えたのです。


 パチッと目が覚め、目の前に映るは薄暗い天井。……ここどこ? 白そうな天井だ。こんな天井がある家、村のどこにもないんだけど?

 村のどこにもない。……あ、れ? あたしさっきまで王宮にいなかった? えっと、女王様があたしをま、じゃなくて。

「あれれーなんにもおもいだせないぞー?」

 少々棒ながらも、しらじらしく呟いてみた。……あたし、ホントになんにも覚えてないよっ! きっと覚えてないよ! 覚えてないことを希望します、ええ。

 とりあえず体を起き上がらせて状況を確認いたします。

 月明かりが洩れて部屋の中は真っ暗ではありませんので余裕で見えます。ま、村育ちのあたしには慣れたものですよ。

 そして薄暗い中、とても感激した。

 やばい……! この一部屋、あたしの家の大きさと同じぐらいだ!

 何ここ、豪華! ここって多分王宮だよね? うわーやっぱ金持ちって違うね! てかあたしが乗ってるのってなんだ? あ、ベットってやつ? なにこれ柔らかい! 地面とは違う! 柔らかい! 柔らかい! とにかく柔らかい!

 調子に乗ってその上で少し跳ねつつ、布――いや、多分布団っていうやつ――を触ってみる。ふむふむ、布とは違う手触り……。なんだこれ、中に空気でも入ってるのかな? あと綿とかそういうの。やっばい高級すぎる! ま、じゃなくてなんにも覚えてないけど色んな事忘れて興奮しちゃいますよ、ええ!

 なんとなく右手を右に、左手を左に下ろして――違和感に気が付いた。

 右は柔らかいベットに良い感じの布団。だが、何か、左が違う。

 柔らかい。柔らかいの、だ、が。なんかもふもふしてる。そんで温かい。

 え、何?

 何か嫌な予感がするので、ゆっくーりと首を回せば。

 白い、獣がいた。てかシロがいた。

「ほゎっ」

 そこにシロがいたことに驚くとともに、それに気が付かなかった自分に驚く。え、村出身のこのクンクンさせて、シロの匂いを嗅ぐ。別に変態じゃないんだからね!

 ……獣臭が、しない!

 そういえばシロと川辺で会ったときも獣臭しなかったなーと思い返しつつ、シロってなんか違うな、と考える。なんで獣臭せんの?

 シロはどうやら寝ていたらしい。ま、あたしが触ったことによって起きてしまったようだけれども。ごめんね。もうちょっと寝てていいよー。……目、冴えた感じ?

 シロが伏せていた体を起き上がらせると、上半身だけを起き上がらせているあたしよりは高くなる。あ、なんか狼に食べられるときってこんな感じなのかな。なんか食われそうな感じ。比喩じゃなくて、ガチ獲物として食われる感じ。

 クーンとシロが鳴いて、顔をペロペロ舐められた。

 ぬ、ぬぅ甘えるでない。いや、別に舐められることに抵抗は感じないけれども、シロ図体でかいから! なんかちょっと食べられる感じ!

 だってほら、舐められるとかは、たまにイズに舐められ――あ。

 ……ゼノ騎士様の言葉からするに、イズになってた間の記憶ってあるっぽいよねー。……同じ村の年頃の娘を舐めるってどうよ。まあ年頃の娘と言うには耳年増ですけれども。

 そして呑気にそんなこと考えてるあたしを舐めながら、イズがクーンと鳴いたかと思うと――なんか、襟首咥えられた。え? え? ふっ、わぁ!?

「いっ!」

 そのまま宙返りを促されるように投げられ、て? 痛いのは嫌ですから必死にもがいてシロの背中へと着地。う、わ、あ、こ、こわか、た……。

 あたしの足に絡まった布団を回収しつつ、自分の服装が変わっていることに気が付く。

 ……これは、所謂貴族のお嬢ちゃんが着るドレスってやつだろうか? 農民ならず、町娘が着る服よりはとても豪華な感じがする服。

 ……あたしが普通の農民ならどうだろう。よろこんでたのかな? うーんわからん。悪政な感じの領民だったらむしろ嫌悪するのかな? それでも一部は憧れるかもね?

 あたしの村の子でも憧れはもつかもしれない。でも、幼い間だけ。

 どちらかというと、関わりたくない感じがするから、やっぱなんか嫌な感じ。

 だから、なんかこの服あたし嫌だわ。似合わないのはもちろんのことだし、大体あたしの服どこ? いつ着替えたっけ!? え、こっちは本当に覚えてない。

 シロの背中に乗ったまま部屋の中をキョロキョロしつつ、何かもそもそと動くシロから降り下ろされないよう、両手でシロの毛を掴む。ちなみに布団は手と体の間です。

 毛が抜けないかとヒヤヒヤしつつ、痛くしてごめんねと心の中で謝りつつ、シロが何をしているのか見てみれば。

 なんか、窓を開けていた。

 大きな窓。村では見たことのないガラス張り。その大きさは、シロでも通れるほど。

 うん。通れる。

 シロが、その空いた窓から、飛んだ!

 もちろんその背中にはあたしがああああああああああ!

「ふぃっ!」

 あたしの喉からは掠れた声しか出ない。うわあああああなんだこれえええええええええしかも結構高い真っ逆さまに近いいいいいい!

 シロは壁を蹴ってるっぽいうわああああああああああああああああ!

 あ、あ、っはは! 

 白い狼の背中に乗って駆ける少女ってカッコいいね! あ、あっははああああああ!

 風邪が髪の毛を逆立て、浮遊感にお腹が! お腹が!

 着地の衝撃が腰にドクンと来たお陰でシロの背中に這いつくばる。こ、腰が!

 夜明け前なのか薄暗い王宮を走り抜け、あの柵までたどり着き――跳んだ。

 ああ、これが狼の跳躍力なり。

 やべえええええええええぎゃああああああ!

 今さっきで腰が痛いっていうのにもう! ていうかシロさんあなたは何がしたいんですか! うわああああ!

 あたしの心の声は届かず、シロは疾走します。ううう何処行くの!

 風のごとく、王宮の近くの草原を駆け抜けていたシロが急ブレーキをかけた。

 体がそれに逆らえるはずもなく、前へと体をズレそうになるので慌てて毛を握りしめます。

 風のお陰で前をよく見てなかったけど、その風もないのでおそるおそる前を見れば。

「どこ行くつもりかな? いや、連れていく、つもりかな? イズ」

 ゼノ騎士様が、何か異様な雰囲気を醸し出してどこに立っておりました。

 あたしの頭はまだ混乱中です。ええ、色々と。

 ただ、この時点で一つ浮かんだ疑問というのは――いやいや、イズって、あなたのことでしょう?


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