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犬っころ、中った

 重い鎧を付けたまま、水の流れに逆らいつつ鍛錬する騎士様。

 やっぱり鍛錬には慣れてるんだろうな……。一つ一つの動作が綺麗だ。

 今日の気温はそれほど高くないものの、お昼頃に何か太陽の下でやるとしたら話は別。そりゃあ汗だって掻く。

 手を突き出せば汗が飛び散り、足を上げれば水が舞い上がる。……綺麗だな。

 水を飲み終えて元の木陰に戻る。することもなく(逃げたかったけれど)両足を揃えて待っていれば、一時間ぐらいして騎士様が帰ってきた。顔と髪の毛は川の水で洗ったらしい。

 やっぱり美形だ。かっこいいのに弱気ってすごいな。少しキュンと来た。

 騎士様が竹筒に川水をいれながら質問してくる。……その竹筒、あたしん家のじゃん? 色々持ってきましたね……。

「お待たせして申し訳ございません。今から森の中を抜けて、タリ草原へ移動します。おそらくそこで他の騎士が待っていると思うので。体調はどうですか?」

 タリ草原? タリ草原って、魔女の家の向こうの山の向こうにあるやつ? 村から行くには遠回りするしかないから、子供からしたら遊ぶには不向きな場所である。けれど、何かだだっ広い場所が必要な時にはそこを使うこともあった。

 暖かくなれば花を咲かすけど、井戸は掘れないわ川に来るには遠回りが山を越えなきゃいけないわで人が住むにはあまり適さないところである。

 ……あー、人目につかないほうがいいのかな? 人目につかないように行動する、か。何するんだろうねー。でもそれならさっきの場所でもいいと思うんだよね。魔女の家の近くとか、誰も来る人いないし。みんな避けるから。

「大丈夫です」

 と、答えた瞬間。お、お腹がああああああああ! ぴーごろごろ!

 か、顔には出さないぞあたし! 偉い! 多分……生水飲んだせいだ! お腹壊した! 大丈夫って言ったそばからなんという……。やっぱり油断して生水飲んじゃだめだ。あたしのバカ!

「では行きましょうか。疲れたらシロの体に乗れば大丈夫ですが……乗ったことのない人だと難しくて疲れやすいんですよね」

 そりゃそうでしょ。走る獣の上に乗るんだ。体力がないとダメだし、慣れなきゃね。

 でも少し憧れる。ちっちゃいときに近所のおばあちゃんから聞いたお話で、『草原をかける少女』というのがある。その話の中の一つの場面で、少女が広い草原を馬に乗って駆けてく場面である。

 あたしの村は普通の村だから、馬だっているし、乗せてもらったこともある。けれど走らせたことはないし。

 大体、シロの上に乗るとなると手綱とかがないじゃないか。どうやって乗るんだろうね。あともし今の状態で乗ったら色々漏らす気がする。そんなことには絶対しない!

 歩き出した騎士の後ろを着いていく。……お腹ああああ! お願い、もって! お前はいい子だ! お前ならできる! ……いや、無理!

「すいません、ちょっとお手洗い行ってきてもいいですか?」

 ていうかそこらへんの草の茂み。

「あ、は、はいどうぞ」

 じゃあ行くか。

どうしよう! シロについてきてほしいけどついてきてほしくない! どうしようどうしよう! 森の中だからいつ獣に襲われるかわかんないけど、狼って臭いにも敏感だよね!? どうしよう!

「ここらへんはシロの縄張りですので、安心してどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 用を足すのにもなんか色々気をつかわれちゃってもう恥ずかしいです。狼って縄張りとか作るんだっけ? 忘れちゃった。

 とりあえず右へ。草木の茂る森の中は足袋じゃ歩きにくいな。とりあえず二十歩って所で。周りに誰もいないのは当たり前なんだけど、キョロキョロ見渡してからいざ!

 ……ふぅ。ホント、生水なんて飲むんじゃなかった。

 身近にあった手頃な草で後処理をして立ち上がる。左に戻ればいいんだ――って、あ! キョロキョロした際にちょっと足場の向き変えた!

 思い出せ! 農民ナメんな! 迷子になったことなんてないんだからっ!

 無事に思い出し、左に二十歩いて元の道に戻れたあたしは、騎士様達と合流したのです。

「もしかして、生水飲んであたりました?」

 ……正解です。そういう質問は女性に配慮がないような気がしますが、流石です。

 っていうか。

「騎士様も、そういう経験あるんですか?」

 村のほとんどの人が、幼いころに生水は飲んじゃダメと注意されてるにもかかわらず、大丈夫だと考えて飲んであたっている。こんな歳にもなってあたっているあたしだっていますし。いや、あたし生水あたらない方なんだよね。友達と遊んで、喉乾いたらみんなで普通に飲んでた。その度に結構あたる子とかいるんだけど、家に帰ってわかすのもめんどくさいしね。竹筒の中は基本からっぽにしてたから。

「ちっちゃい頃はしょっちゅうでしたね」

 やはりか。

「騎士になってからは、鍛えてるお陰かあたらなくなりましたけど……。あ、川の水しか飲むものが無いときとかに。先程も飲みましたが、私は大丈夫……で」

 ……あれ? もしかして……?

「お腹、大丈夫ですか?」

「……すいません、ここで待ってて下さい」

 あたった! あたったよ騎士様! 犬になってからは鍛えてないんだろ? 体だってひょろひょろしてんじゃん! なんで飲んだ!

 お気の毒にと思いつつ、笑えて仕方がない。あははははは。

 左に消えた騎士様。……あんな重そうな鎧を着たまま用を足すのか……大変そうだな。うん、絶対大変だよ。剣だって重いしさ。てか脱げばいいのに。……でも結局は持ってることになるもんねー。

 ふらふらと(多分あたしより重度)戻ってきた騎士に同情の視線を送りつつ、再び足を動かす。今登り道だから、多分遠回りしてないんだろうな。

 途中、あたし二回、騎士様四回の用足しタイムを使いつつ、草原に到着したのは太陽が沈む頃でした。

 いやー疲れた。色々疲れた。けれど多分、一番疲れたのは騎士様だ。

 騎士様は今、草原に這いつくばっている。倒れていると言っても等しい。

 人間になりたてのひょろっちい体に無理をさせていたようだ。筋肉もないというのに、鎧をつけて剣を持って。あたしより汗だくだく。……頼りない。

 一番疲れてないのはシロ。けれど喉は渇いてるようなので、騎士様の竹筒を勝手に取って飲ませてあげた。

どうせ騎士様とあたしは飲みませんから!

騎士様の言う待ち人はまだいないようだ。ってことであたしも草原に大の字で寝っ転がる。その心は無心。ていうか色々考えたくない。山道を歩いてるときも無心でしたよ。

このタリ草原は誰も使っていないのにもかかわらず、草がボーボー、なんてことがない。一応誰かの領地なのだろうか? それだったら子供達が余裕で領地の中で遊んでますよーって言いたいわ。

静かだなー……。

サクッサクッて聞こえる。……誰か来た!? あ、他の騎士様!?

こうしちゃいらんないっ!

 まず体を起き上がらせる。このとき、足音の鳴る方に背を向ける。

 騎士様はすでに立ちあがっていた。あたしも慌てて立ちあがります。

 そして、下を向きます。ここ大事。

「よぉ、久しぶりだな」

「うん、久しぶりだね」

 あ、騎士様の口調が弱気っ子だ。

 目の前に立っているであろう騎士様。下を向いてれば敬意を表してるんだと思ってくれる。大丈夫だあたし。

 ……そこで気付いた。どうして騎士様――騎士様が二人いるからごちゃごちゃんなる。ひょろ騎士様とする――は騎士になれたのだろう。いや、強さとか色々無視してさ。

 だって。だってさ。あたし達って、ダメじゃん。

この村の人は。貴族にあまり顔を見せちゃダメなんじゃん。


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