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犬っころ、鍛えた

 あたしの目の前におりますは、騎士様と白い、あたしと同じぐらいの大きさの狼。騎士様のお名前は、失礼ながら忘れてしまいました。ってことで呼びかけるときも騎士様でえっか。そして白い狼。……なんか、今の今まで名前がなかったっぽいっていうか。

 一応名前はシロ。先程付けられた名前でございます。白いからシロって名付けたんだろうなー。付けられた本人、いや本犬(?)も不服そうにガルルル言っております。……お二人さん、相棒じゃなかったんですか? っていうか相棒ってなんですかね。生き物と人間で相棒って? どういうことなんだろうか。

 いやはや、そういう諸々は置いときまして。

「あの……ここは、どこでしょうか?」

 あ、なんかこう質問すると、後ろに「あたしは誰ですか?」って付けたくなるね! なんか不思議。騎士様のような目上の人じゃなかったらふざけて言ってたかも。

 そして、質問したはいいものの、実は検討がついてます。ただね。確認って言うか。

 綺麗なせせらぎの流れる川。対岸といいますか、向こう側が山なのですよ。で、その山には少なからず見覚えがあります。あれです、田畑に水を引いてる川から見える山、を右から見てる感じ。そんで流れる川の方向は右から左。……ここって、もしかして。

「東の森のはずれです」

 てへっ、あたしったら頭良い! 当てちゃった! ……当てちゃったようわああああ!

 魔女の住処ってここらへんですよね!? ここに来るまで森通ったんですよね!? どうやってここまで来たんですか!? 獣に襲われませんでした!? 騎士様剣とか持ってませんじゃないですか!

 大体、騎士様、体がすっごいひょろいんですよ。

 上半身裸だったときに見たんだけど。いや、ジロジロ見たわけじゃないけど、自然と目に入るじゃん? そのときさ、見えちゃったんだよ。ちゃった。ここポイント。

 痩せている部類に入る感じの体。けれど健康そうな体。騎士って、そんな体でなれるの? あっ、そうだ。騎士様犬だったんだ。鍛えてないから筋肉無くなっちゃったって感じかな?

 おぉーっと、話が逸れたー。なんだっけ。何考えてたっけ? そうだ、どうやってここまで来たんですか! そしてあたしはどうしてここに連れてこられたの!?

「無理矢理連れてきてしまって申し訳ございません。実は、あ、魔女の家に用がありまして、ここに寄らせて頂きました」

 心の中の質問に答えて下さいました。いや、ちょっと違うの。あたしを家に置いてきて下さればよかったじゃないですか。なのに、こんな。しかも麻袋に入れられてたってどういうことですか! そんな気にしてないんですけど。

 でも、訊いてもなんか無駄そう。……尋ねるの、やめとくか。

 そ、それで、ま、魔女の家に用って何事でありまするめか!? するめか!?

 いやそりゃ、騎士様と魔女は知り合いだとかとは聞いておりますが、大体騎士様左頬にやられてるでございましょう? 仲が悪そうなイメージがございますです。

「こちら、誠に勝手ながら、あなたの家から持ち出させていただいた握り飯です。ここでこれを食べながら待っていてください。私は今から魔女の家に行かせていただきます」

 そうして、あたしの手には握り飯が乗せられました。ふぉう。

今から行くんですか。てっきりもう行ったのかと思いましたが。

 まあちょい待て。少し提案があるんだが。

「あの、一度家に帰らせて頂いてもよろしいか? 村に留まるのは諦めますので、旅の支度がしたいのです」

 ほんと、諦めた。手刀受けちゃいましたしね。

「ああ、それは……。旅は、しませんのでお気になさらず」

「とは?」

「私の存在に気付いた王女様が、他の騎士を呼んで迎えに来てくれるでしょう。ですので、大丈夫かと」

 ……そういうのは早めに言ってほしいものです。

「あと……村のみんなに、いってきますを」

 あたしがそう言えば、騎士様は申し訳なさそうな顔になって、言った。

「申し訳、ござ――」

「はい、わかっております。わがままを言ってしまい申し訳ございませんでした」

 やっぱり無理ですよね。はいはい、わかっておりますよー……みんな、心配するじゃないか。心配掛けるのって、あたしが苦手としていることなんだよ。

「では、私は行きますので、こちらにシロを残していきますね」

 ……え。

 いや、心遣いはありがたく頂戴いたします。騎士様は森の奥に行ってしまわれた……。え、そちらこそシロはいらないんですか!? あ、森を抜けてきたのってシロがいたからか? てか大体、シロってどこで育ったの? なんか色々謎だらけなんですが。

 そうしてあたしは川辺で、シロと二人きりになってしまったわけです。

 そりゃあ、会話入りませんけど……せせらぎの音が聞こえて、綺麗でございますね。

 ちょっと暑い、森に近づきたくない。けど陰に身を寄せたい。

 あたしは、意を決して木陰に身を入れた!

 ……そしたら、シロが付いてきました。もしかして、シロ用心棒みたいな感じになっとるん? ありがとなぁ。

 ひんやりと冷やされて、涼むその場所に腰を下ろす。寝っ転がって、木の葉によって少し狭くなった空を見上げた。吹き抜ける風も冷たい。気持ちいい。

 視界の端にシロを留めながら、耳をすます。木はそよぎ、川はせせらぐ。なんて風情のある……そんで今のあたしの言葉、かっこいー……



 目を開ければ、空が。……外で寝てた? ……じゃなかった。あたし、今外にいるんだったわ。

 もそもそと起き上がれば、お腹がぐぅ~っと音を立てた。そういえば朝何も食べてなかったっけ。ちょうど朝ご飯用意してたし。

「起きましたか?」

「はい……」

 おう!? 顔に出さずに驚いてみた。騎士様に声を掛けられて驚いたんじゃありませんよ? 騎士様の格好に驚いたのです。

「そ、そちらは……」

「ああ、服や装備はもろもろ魔女の家に置いてありまして……引き取ってきたのです」

 人の家に物を預ける程とは、結構仲がよろしかったのですね!

 騎士様の格好といえば、いかにも騎士って感じの服(どう表現すればいいのかあたしにはわからない)に、なんかすごい剣。長い剣を腰に差して、二本の短い剣。

 ところで、剣って重いですよね? ……筋肉のない騎士様、大丈夫でしょうか?

 ぐぅ~。

 再びお腹が鳴る。

 騎士様が、年下の妹に困ったちゃんだねえ、とでも言うように笑った。

 ちなみに、あたしはお腹が鳴ることに羞恥を覚えたことはない。町に降りた際、町娘がお腹を鳴らして恥ずかしがっていたとき、まったく意味がわからなかった。お腹が減ることに何が悪いというのだ。

 村に帰ってきて近所のおばあちゃんに訊けば、「町娘だからねえ」と返された。意味わかんなかった。

 で、年齢が上がっても考え続けた結果。一つ思ったのだ。町娘達は一日三食が普通だそうだ。だからお腹が鳴ると貧乏くさいと思われるのかなーとか考えた。まあ、これはあくまであたしの推測であって、実際どうなのかはわからないけど。

「握り飯、食べててください。私は少し、体を鍛えてきます」

 はい、ではお言葉に甘えて。

 体を鍛える、か。……やっぱ、騎士様自分の体力がないとでも考えたのかな?

 まあいっか。川に入る騎士様を見ながら握り飯をぱっくんと。

 もぐもぐ。

 少し水がほしいなと思いつつ、なんとなく空を見上げれば、寝る前とそんなに太陽は位置を変えていない。

 木陰から出て川の近くへ。火にかけた方がいいのはわかるが、別に綺麗な水だし大丈夫であろう。

 ごくごく。

 そして飲んだ水は、とても苦かったような気がした。


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