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第7話「やっぱり怪しい配信事務所じゃないか!」

「では、改めましてイスナ――諏成(すなり)さん」


 ローテーブルを介して対面に座ったクローリスがしれっとした顔で告げる。


 ラッカリカの事務所にやってきてからしばらく。


 色々とトラブルはあったものの、俺はとうとう交渉の席に着いていた。


「結局、説明はアンタがするのか?」

「はい。これでも事務所の経理をはじめ手続き関連はすべて私の管轄ですので。それに、せっかく推しが来たのですから説明は私以外にはさせません」


 いやアンタに推される筋合いはこれっぽっちもないんだけど?


 一応、これは社会人同士の真面目なお話……ということにはなるのだが、相手がこんな調子である。


 もはや敬語もへったくれもなかった。


 というか、思ってたんだが……


「……そんなに似てるのか?」

「それはもう! 瓜二つと言っても過言ではありません!」


 身を乗り出してクローリスが自身のスマホを差し出してくる。


 表示されているのはゲーム画面だ。

 眼鏡をかけた美形な男のイラストがあった。


 大正ロマンな世界観なのだろう、軍服姿で刀と暗器を格好良く構えている。キリっとした顔つきで眼鏡をクイッとしたイケメンであった。


「…………似てるか?」

「ま、所詮は絵と現実だしなぁ。ちょっと美化しすぎな感じはする」

「あら、イラストとしてデフォルメしたらイロウくんもこんな感じじゃない?」

「わ、私はイロウさんもこれくらいカッコいいと思いますよ?」

「何を言うんですか皆さん!? トレードマークである眼鏡をかけていないというのは悔やまれますが、この方こそ二次元の世界から飛び出してきたイスナロ様に他なりません!!」

「他なるんだが?」


 これもう人選ミスだろ。


 俺は生まれてこの方ずっと三次元を生きてるよ。


「クローリス~? いい加減にしないとそのスマホのデータ消しますよー?」

「――し、失礼しました!」


 隣に座るラッカリカにたしなめられてクローリスが慌てて佇まいを直した。


 ちなみに、今更だが席順は対面のソファにラッカリカとクローリスが。そして俺の左右にはシキータとトリントが肩をくっつけて座っている。


 窮屈だし熱いんだけどそれにツッコミをしたら余計に拗れそうだったのでもう黙っておくことにした。


「んん。我々の現状について、諏成(すなり)さんはどこまで把握しておられますか?」

「経営が芳しくないってのはラッカリカから聞いてる。月給は歩合で完全週休じゃなくて賞与も確実に出るわけじゃないってくらいだな」

「なるほど。ではまずは概要をご説明します」


 俺の皮肉をさらりと流してクローリスが続ける。


「私たち――弊社、配信事務所エピライブは設立して一年程度の新参、弱小ともいえる事務所となります。同郷のよしみで集まったメンバーですので、諏成(すなり)さんは初めての部外者ですね」

「まだ入ると決めてはないけどな」

「あらぁ? 美少女が寄ってたかってるハーレムなのに、ひょっとして好みの子はいなかった?」

「そうだぜ兄ちゃん。よりどりみどりじゃねぇか」

「アンタたちは美少女ってより美女じゃないか?」


 少なくとも酒飲んでるシキータは成人してるはずだろお前。


 左右の茶々に反論してから俺はクローリスへ向き直る。


「それで、メンバーはここにいるアンタたちで全員なのか? ラッカリカの他に所属してる配信者はいるんだろうな?」

「あ、他にもいますよ。いますが……」

「……メンバーは私たちを含めて全員で七人。まあ、うち一人は町の外に旅行へ出かけてから行方不明になっていますが」

「行方不明って……」

「バ、バイタリティがすごい方なので生きてはいますよ。きっと! おそらく!」


 それでいいのか……?


 まあ、便りがないのはうんぬんかんぬんとも言うし、俺はその人物と面識があるわけでもないのでとやかく言うこともできないのだが。


 ますます不安になるラッカリカの物言いをよそにクローリスが言葉を続ける。


「……彼女のことはいいとして、現在の所属配信者はラッカリカを含めて四人います。その内二人は現在――そこの部屋に引きこもっています」

「引っこもってる……?」

「そーなの。真夜中にトイレやシャワーには出てきてるみたいだけど」

「ダンジョン配信どころか家から一歩も出ていません」


 それはもうクビにした方がいいんじゃないか?


「というわけで私たちは現在、色々窮地に立たされているのです」

「まあそうだろうな」


 今すぐにでもお暇したい気分だ。


諏成(すなり)さんにお任せしたいのは、配信者のプロデュースを中心に彼女たちのマネジメント、そして配信における各種サポートになります」

「……ほとんど雑務みたいなものだな」

「あれ、プロデューサーってそういうものでは?」


 違うと思うぞラッカリカ。


 俺もその手の界隈はあまり詳しい方じゃないけど、もう少し偉い立場のはずだ……


 小首をかしげるラッカリカはスルーし、クローリスはスマホの電卓アプリを立ち上げて慣れた手つきで数字を打ち込んでいく。


「細かい手当や補助などは後で計算するとして、基本給はこちらになります。最初にラッカリカから説明があったとは思いますが、なにぶん不安定な職種ゆえ……しかし、おそらくインフラ整備士よりもいい待遇をご用意できるとは考えています」

「ふむ……」


 確かに……額面で言えばインフラ整備士時代よりもいい条件だ。


「その他、諏成(すなり)さんのご要望には可能な限りお応えするつもりです。この時点で何かご不明な部分はありますか?」

「……まあ、おおよその現状は分かったよ」


 言って、俺は改めてラッカリカたちを見回す。


 そろいもそろって美人美少女ばかり。

 彼女らの日本人離れした美貌は美人局でなくとも油断すればコロッとやられてもおかしくはない。


 外見だけで言えば、この中の誰が配信をしても十分に人気が出ることだろう。


 だからこそ、俺は……


「答えを出す前に、アンタたちに訊きたいことがある」

「……なんでしょうかイロウさん?」

「いや、大したことじゃないんだ。もしもアンタたちが嫌な思いをしたって言うなら答えなくてもいいし、この話自体を破談にしたっていい」


 ラッカリカの方へ向き直り、俺はゆっくりと息を吸う。


 ……質問は、本当に大したことじゃない。


 この町――ライバータウンではありふれたことだ。


 別にこんな真面目な調子で確かめるようなことでもないし、別に確かめなければいけないなんてこともない。


 ただ、確かめておいた方がいい。


 そんな直感に従って、俺は彼女らに問うた。


「アンタたち、異世界人か?」


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