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第16話 戦闘訓練とは名ばかり

 ダンジョン配信だ何だと言っても、その目的はダンジョンの調査である。


 配信者同士が戦ってもけが人が増えるだけ。

 ダンジョン配信を管轄するギルドにとって何のメリットもない。


 それゆえにギルドは配信者同士での私闘は自衛でない限り厳禁として、もしそれを破れば永久BANの対象にもしている。


 しかし……まあ、配信者はミーハーや血の気が多い者も多い。


 いさかい、トラブルなんてものは日常茶飯事。

 だからと言ってダンジョンの外で暴れられても困るのはギルドだ。


 ゆえにギルドは配信者のうっぷんを晴らすために、「戦闘訓練」を名目としてダンジョン内にある場所を用意した。


「おーし、いっちょやったるぜ!」


 不敵に笑ったシキータが拳を打ち合わせる。


 俺たちとナンパ連中が移動したのはダンジョン内にあるアリーナだった。


 配信者同士で戦闘訓練を名目にダンジョン内の安全なフロアに建設された場所で、拡張現実(AR)技術とダンジョンの技術を利用し、各種スキルを疑似的に再現して『実戦さながら』の模擬戦をすることができる。


 ……ま、もっぱら使われるのは()()()()なんだけどな。


『うおおおおやっちまえぇーっ!』『ナンパ野郎なんかに負けるなよ!』『ちゃんと守れよ兄ちゃん』『そういや連中って……』『つかシキータの対人戦は見るの初めてか?』『モンスター相手は戦ってたけど、大丈夫か?』


「……本当に、大丈夫か?」

「心配性だなぁ兄ちゃん。だったら兄ちゃんが代わりにやるか?」

「いや……」

「おい、さっさとしやがれ!」

「はいはい、んじゃ行ってくるぜ。兄ちゃん」


 相手はリーダー格の男だ。

 シキータは軽い調子で俺の背中を叩いてから、男の待つ十五メートル四方のバトルフィールドへと入った。


 配信者はシキータ一人なので相手も一人だ。

 そこらの体育館と変わらないアリーナであるが、ダンジョン内のため配信は続いている。


 連中にもフェア精神の欠片くらいはあるようで、取り巻きの連中はフィールドの外でリーダー格の男を応援していた。


「……その鼻っ柱をへし折ってやる。降参するなら今の内だぞ」

「ハッ、言うじゃねぇか。さっきの薄ら寒い言葉よりよっぽどいい」

「その軽口が言えないくらいヒーヒー言わせ――」

「上等だぜ。アタシは二日酔い以外で音を上げたことがないんでね」


 挑発の応酬。

 どうやらそれはシキータに分があったようだ。


 相手は自らの不利を悟ったのか舌打ちをして話を打ち切り、奴の得物らしき大剣を構える。


 しかし、シキータの方は微動だにしない。


「……? おい。早く武器を構えろよ」

「いらねぇよ」

『「は……?」』


 この場にいる全員が絶句した。


 俺やチンピラたち、そしてコメントまでもが唖然とする中、シキータはいつも通りのたたずまいでニヤリと犬歯を垣間見せた。


「アンタ程度に武器を使うまでもねぇ。アタシに武器を使わせたらその時点でアンタたちの勝ちでいい。アンタたちがさせたいこと、なんだってしてやるよ」

「は――っは、ははっ!」


 ()()()()()()()()()()


 あまりにも露骨なシキータの挑発はリーダー格の男の堪忍袋を的確に打ち抜いた。


 男は乾いた笑いを漏らしてから――沈黙。


 刹那の沈黙を挟んで、全身にみなぎらせた力で床を蹴飛ばした。


「だったらぶっ殺してやるよ、くそ(アマ)ああああぁ!!」


 模擬戦開始のブザーが鳴り響く。


 先手はもちろん男の方だ。

 フライング気味に飛び出した男は、身体強化のスキルを施した膂力をもって大剣を振り上げて一気にシキータへ迫る。


 対するシキータの動きは鈍い。


 それは油断か、はたまた()()か。


「おい待――」

「おせぇっての!」


 シキータと同時に()()()に気付いた俺が制止の声を上げるも、すでにリーダー格の男は《《実体の大剣》》を振り下ろしていて、


 空を断つ大剣の衝撃がフィールド全体を揺らした。


「…………――――」


 ()()()()()()()()()()()()


 男が振り下ろした大剣がフィールドの地面を砕き、粉塵が彼らを隠す。


『は?』『なんだ今の?』『模擬戦でこんなことがあるのか?』『まさかスキルそのまま使ったのかよ』『普通にアウトじゃん』『てかシキータは無事なのか!?』


 衝撃に吹き飛ばされながらもその瞬間をとらえていたカメラゴーレムから困惑したコメントたちが飛び出してくる。


 俺は取り巻きたちへ食って掛かった。


「お前ら、スキルをそのまま使ったな――」


 アリーナで行う模擬戦で使用するのは本物同等の機能を備えた疑似スキル。

 実際にダンジョンで使っているモノと切り替えて模擬戦に挑むことがルールだ。


 しかし、あのリーダー格の男が振るった大剣は、間違いなく()()()()()()()()


 偶然などありえない。


 こいつらは、明確な害意をもってシキータを攻撃したのだ。


「おいおい、こりゃちょっとした事故だって!」

「ただの不可抗力だよ。好んで危険行為なんてするわけないだろ!」


 取り巻きたちもあわてたような口調で俺の抗議をかわすが、その口元には嫌味たらしい笑みが隠しきれていない。


 こいつら、手口が慣れてやがる……


 おそらく、こうした騙し討ちをしたのは一度や二度ではないのだろう。


「けが人死人なんて、ダンジョンじゃそこまでありえない話じゃねぇだろ?」

「俺たちを舐めたバチが当たったんだよ」

「――お前ら、本気でそんな言い訳が通ると」

「おっと、ここはフィールドの外だ。私闘は永久BANだつって邪魔してきたのはアンタのはずだろ。に~ぃちゃん?」

「あの女みたいに痛い目見たくなかったら、テメェがやることは分かってんだろうな?」


 あまりにも露骨な挑発に、俺は大きく嘆息を吐き出した。


 ……見下げ果てた連中である。


 グレーゾーンであるナンパはおろか、まさか不意打ちでシキータを襲うとは。


 これは明確なルール違反だ。


 だれがどんな思いで、ダンジョン配信という枠組みを作ったのか。


 だれがどんな思いで、ダンジョンのルールを定めたのか。


 この男たちは、何一つとして知らない。

 いや、知ろうすらしないだろう。


 罪悪感も一欠片すらなく、ダンジョン配信をただの遊びだと捉えたまま、自分たちさえ楽しく過ごせればいいと無邪気に生きていくのだろう。


「お前たちは――」


「……ああ、まったく。やってくれやがったなチクショウ」


 凍てつく空気を吸い込んだ俺がそれを吐き出す前に、粉塵の中から声が聞こえた。


 吐き捨てるような女の声。


 俺がハッとして視線を向けると、舞い上がった粉塵が薄れてその先にいたシキータが男の振り下ろした大剣を受け止めていた姿を目の当たりにした。


 武器は使っていない。

 この期に及んで自分の宣言を守っている。


 シキータが大剣を防いだのは……()()()のみ。


 その場を一歩たりとも動くことなく、白刃取りの要領で大剣の一撃を防いでいたのだ。


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