第14話 ダンジョン配信にトラブルはつきもの?
ダンジョン配信者シキータ。
元より日本人でないことから、配信者としてのHNは持たず本名で活動しているらしい。
配信は大手の動画サイトと連携しているので、そこでのチャンネル登録者数は数千人ほど。
現在のようなダンジョン配信の形式になって、たしか五年くらい。
すでに人気どころの配信者やグループは固まっていて、新人配信者の人気が伸び悩むようなケースも多い。
そんな中で、こうして異世界人としてノウハウのない状況から一年程度でここまで伸びたと考えればむしろ上出来の部類だろう。
……ま、シキータは美人だしな。
それくらい人気は出ているだろうさ。
見た目がよく、さらにラフな配信スタイルも逆にウケがいい。
リスナー層の大半も男性だが、所謂「アイドル売り」というものをしているわけでもないようだ。男の俺がサポーターとしてダンジョン配信を同行することについてコメントから大きな反感が出てい来なかったことからもそれは伺える。
ただ一つ。問題があるとすれば……
……俺、コイツと一緒に暮らすんだよな……
入居当日にこうして配信に出かけたせいですっかり忘れていたが、言ってしまえば俺はこれからリスナーの推しと同じ屋根の下で生活する異性ということになる。そんなもの、俺がファンの側に立っていたら拒否反応の一つくらいは出ていたことだろう。
流石に黙っておくべきである。
そう俺が決意を新たにした矢先――
『兄ちゃんって事務所で同棲してるってガチ?』
「ん? ああ、元いた会社の社員寮も追い出されちまってなぁ。行くとこないってんで社長ちゃんが提案したんだ。ちょうど今日からいっしょに暮らすぜ」
その三歩先を歩いていたシキータがあっさりとバラしていた。
ダンジョンの入口から少し歩いた地点。モンスターに遭遇することなく探索している間の雑談でのことだった。
コメントの質問に対し、俺が止めに入ろうとするよりも先にあっさりとシキータが認めてしまったのだ。
『おいシキータッ! なんで俺が同じ事務所で暮らすことバラしたんだ!?』
すぐに俺は抗議の声を――いや、ダンジョン配信中にサポーターが前に出るのはむしろ俺がコメントの矛先になるだけ。
サポーターはアプリにある念話スキルで行うのが通例なのでそれを使って抗議をするが、シキータに言動を訂正する様子はない。
「あん? まるっきりホントのことだしいいじゃねぇか」
しかも念話でなく肉声で反論してきた。
カメラに背を向けてニヤリと悪い笑みを向けてくるシキータ。
コイツわざと……
『マジか』『境遇はおいたわしいけど絶許案件』『くぉれはクロです』『もうヤった?』『今日からだから今夜じゃね?』『これからお楽しみ?』『もう全員に手を出したとか?』『今のもひょっとして内緒話ですかぁ~』
タラリと額に冷や汗がにじむ俺に対し、コメントはもう爆発だった。
驚きと混乱、そして俺への嫉妬や問いが爆発のようにカメラゴーレムから飛び出しては消えていく。
もう個別の反応は見えなかったが、賛否で言えば「否」の方がたぶん多い。
シキータはそんなコメントらを見ながら俺に肩を組んできた。
コイツやっぱり火に油を注ぐつもりか……!?
「そうだそうだ。え~と、どこの配信だったか……まあいいや。どっかで誰かがアタシらの誰でもいいから付き合いたいとかコメントあったじゃん?」
『お、おい待てシキータ。お前まさか』
嫌な予感がする。
思わず念話のまま制止しようとしたが、やはりシキータに聞く耳はない。
かくなる上はと俺が声を上げようとした先に、シキータが高らかに宣言した。
「あんときも色々言ったような気がするが……アレ撤回する。このサポーターやってる兄ちゃんよりも強い奴だったら、アタシは考えてやってもいいぜ?」
「はあああああああああぁぁぁぁあぁぁッッッ!?!?」
『『『『おおおおおおおおおおおおおッッ!!!!』』』』
俺の声とコメントたちの反応が同調した。
……その温度差は天と地ほど違っていたが。
「ま、今んとこお姫ちゃんはダンジョンにゾッコンみたいだがなぁ。アタシもこの兄ちゃんみたいに強そうな奴が好きだからな!」
「ちょ、お前――むぐ」
『なんで俺が当て馬にされなくちゃならないんだよ!?』
『おーおー、口塞がれたからって念話で抗議かい?』
だったら俺に弁明の余地を寄こせ。
というか念話使えるならちゃんと念話で相談しろ。
『悪いが、最初から兄ちゃんを使うつもりでお姫ちゃんの話に賛成してたのさ。お姫ちゃんが姫が本格的に配信をするようになってから、結構その手の厄介なリスナーも多くてねぇ』
『…………厄介?』
『よくある話だろ? アイドルとファンの垣根を超えて~とか』
『お前はアイドルじゃないんじゃ?』
『……ダンジョン配信者と似たようなモンだよ』
「というか兄ちゃん、思ったより筋肉あるんだな。みんな見ろよ、服を着てたらちょっとひょろっとしちゃいるが、服の下はがっしり細マッ――」
「だからって俺の服をめくるな!」
『うほ、いい筋肉』『マジかー結構鍛えてるなぁ』『またBANされるぞ』『男の上着脱いでなんでBANの危機があるんですかねぇ』『つーかなんで女配信者が襲ってる側なんだ?』
というか誰か一人でも止めろよ!
面白がるようなコメントとなぜか俺の筋肉談義に花を咲かせながら、シキータは器用に俺の方へ目配せをして念話をしてくる。
『こんなのでも、元いた世界じゃお姫ちゃんの警護をしていた騎士団長だったもんでね』
『……本当にこんなのだな』
『細けぇことはいいさ。アタシや他の面々はテキトーにやり過ごせるが、お姫ちゃんは見ての通り世間知らずだからなぁ。兄ちゃんっていう成功体験もあるし、悪い奴にコロッと騙されやしないか気が気じゃねぇんだ』
『だから、俺を当て馬に?』
『直接お姫ちゃんに行かれるよりはちょうどいい防波堤になるだろ?』
……なるほどねぇ。
元インフラ整備士である俺はあまり意識していなかったが、ダンジョン配信者は人気商売でもある。
熱意が暴走してしまったファンが強引な行動に走る、というのは残念ながら現実にあるリスクだし、だったら適当な矛先をこちらで作ってしまうというのも頷ける。
『配信者の身の安全を守るのもプロデューサーの仕事って言うだろ?』
確かにシキータの言う通りだ。
異世界で騎士団長をしていただけのことはある。
俺は元インフラ整備士で、今はダンジョン配信者のプロデューサー。自分で言うのもなんだが、インフラ整備士は単身でダンジョンに潜る以上それなりに出来る者が多い。
だからこそ、シキータは俺に目を付けたのだ。
『……分かったよ。ラッカリカの身を守るためなら好きにしてくれ』
『アタシのことは?』
『ダンジョンの内じゃ自分で自分の身を守るのは常識だろ』
『へえ、ならダンジョンの外じゃアタシも守ってくれるのさ?』
『…………お前が守らなきゃいけないくらい弱かったらな』
シキータが声を上げて笑い俺の背中を叩いた。
それから彼女は俺を放してから「う~ん」と背伸びをする。
「さて、話すモンは終わったし兄ちゃんで遊ぶだけ遊んだ。時間もちょうどいい頃合いだし今回の配信はそろそろ――」
俺で遊ぶのを予定に入れるな。
そう、俺が不満を漏らそうとした寸前であった。
「お、なんかすごい美人さんハッケーン!」
第三者の声が、俺たちに投げかけられた。




