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第12話 ギルド

 とにもかくにも。


 BANが解除されたのなら、配信をするのがダンジョン配信者というもの。


「なんだか、すんごい長い時間がかかった気がするな……」

「あん? ウチからここまでバスで三十分もなかっただろ?」

「いや、そういう話じゃなくて」


 まさか荷物を置いてからすぐに配信をすることになるとはな……


 ラッカリカからシキータに配信するようお達しをされて小一時間ほど。俺はシキータと共に事務所を出てダンジョンの入口にやってきていた。


 所在地は山の中腹くらいで、ライバータウン全体で見れば町の北側に位置している。


 行政機関や繁華街など一般市民の多い区画は町を横断する河川を挟んだ南側にあるので、この辺にいるのは配信者をはじめとしたダンジョンの関係者か、彼ら彼女らをターゲットにした飲食店などの従業員くらい。

 今はちょうどおやつ時くらいで、夕方にかけてダンジョン配信が増えていくのが通例だ。


 俺たちの他にも配信者らしき連中が歩いていく先にあるのがダンジョンの入口――


 正確に言うなら、ダンジョンの入口があるギルドの本部があった。


 ギルド。

 正式名称は「ダンジョン管理組合なんとかほにゃらら」とか長くてお堅い名前なので正式な書類以外はみんなそう呼んでいる。


 その外観はちょっと古くなった地方の役所などに近い建物である。

 配信者たちからは「もっとギルドっぽい建物じゃないと映えない」などと不評であるが、残念ながらそこはお役所仕事。機能面以外のアップデートには時間がかかるようであった。


「さ~て、と。それじゃあ」

「待った。どこに行くつもりだ?」


 ギルド本部の正面はちょっとした広場になっている。


 そのちょうど中央、後少しでギルドへ入ると言った所でしれっと回れ右をしようとしたシキータの肩を掴む。


「……あ、やっぱりダメ?」

「どこへ行くつもりなのかは知らないが、ライバータウンでダンジョン配信ができるのはギルドだけだ。何か必要なモノがあってもギルド内でだいたい揃う」

「ちえっ、真面目ちゃんめ」

「やる以上は仕事だからな。遊びに行くのは終わってからだ」


 ピクン。


 シキータの肩が揺れた。


「仕事が終わった後なら、何してもいいって?」

「ん? そりゃいいんじゃないのか?」


 ダンジョン配信が終わったのなら俺の仕事は終わり。


 シキータのプライベートに関与する理由はない。


 大方、どこかへ一杯飲みにでも行くんだろう。

 この辺は配信終わりの配信者たちをターゲットにした居酒屋なども多い。そんなところまで面倒を見る契約はしていなかった。


 ……と、軽い調子で頷いたのが運の尽きだった。


「なら、今日は兄ちゃんのおごりだな!」

「はあッ!?」


 なぜ俺がおごらなきゃいかん。


「いいじゃねぇか! 飲みニケーションってやつだよ! や~、普段はクロの奴に禁止されちまってるが、兄ちゃんに連れてってもらったってならアイツも文句は言えねぇだろうからな! パーッとやろーや!」

「そういうのはアルハラじゃないのか?」

「細けぇこと気にする男だな兄ちゃん。いーだろ減るモンじゃないし」

「減るんだよ奢りだと俺の財布が」


 というか今日引っ越したばかりだから買い出しにも行きたいんだが。


 やんわりと断ろうとする俺へシキータが肩を組んでくる。


 こちらの言い分などどこ吹く風のように、彼女は高らかに拳を振り上げた。


「よーし、そうと決まればちゃっちゃと配信終わらせるぞ!」

「いや何も決まって――おい! 自分で歩けるから肩を組んだまま歩くな!」



 ◇――――◆



 ギルドの正面玄関をくぐると、その先はロビーになっている。


 吹き抜けになった広い空間で、待ち合わせに使えるスペースや各種窓口などがある。

 その中でも目を引くのは、まっすぐ正面に並べられた改札ゲートだろう。


 駅や遊園地で見るようなその改札ゲートの先にあるのが、正真正銘ダンジョンの入口である。


「んじゃ、さっそく入口に」

「待った。配信予約は?」

「してるわけないだろ?」

「じゃあ手続きが先だろ」


 ダルがらみのように肩を組んでくるシキータからは逃れたものの、そのままの調子で改札ゲートを進もうとした彼女の手を掴んで止める。


 シキータが「あ」と思い出したような声を上げた。


 ……忘れてたのかよ。

 もう吐き出すため息もなかった。


 俺はシキータの手を取ったまま、改札ゲートを離れてすぐ近くにある窓口へ。

 数人が列をなした最後尾についた。


「んだよ~、どこの世界でもお役所仕事ってのは面倒だなぁ」

「配信予約ならアプリからでもできるだろ」

「今日は兄ちゃんにかこつけて飲んだくれるつもりだったんだから予約なんてしてるわけねぇじゃん」

「俺を酒飲む理由にするな」


 ……アプリからなら予約をしたついでにSNSで告知もできるため、ダンジョン配信者はもっぱらその機能を使う。


 さてはシキータの奴、普段から使っていないな?


 配信者たちから「突発配信専用窓口」なんて呼ばれることもあってかそこまで待ち時間なく俺たちは窓口に通された。


「こんにちは。お二人での配信ですか?」

「いや、配信はこっちの一人。俺はサポーターです」


 にこやかな笑顔を向けてくる窓口の職員へ俺が代表して答える。


「承知しました。アプリから必要事項の入力とライセンスの掲示をお願いします」


 職員の指示に従ってシキータに任せ、俺は自分のライセンスを見せる。


 ライセンスは配信に限らず、ダンジョンへ入る者の身分証明書みたいなものだ。

 俺がインフラ整備士時代から使っているモノでも問題なく利用可能である。


 必要な確認を終えた職員が処理をする間、俺はふとシキータへ問いを投げた。


「そういえば、普段の配信では何してるんだ?」

「何だ兄ちゃん。アタシらのアーカイブとかチェックしてねぇの――ああ、急すぎる話だったし見てねぇのも無理はねぇか」


 苦い顔の俺を見て色々と察してくれたらしい。


 シキータが優しい顔になって俺の肩へ手を置いてきた。


「別に責めちゃいねぇし、なんてこともねぇよ。テキトーに潜って雑談しながらテキトーにモンスターを倒してるだけだしな。あ、後どこの酒が美味いとか教えてもらったりもしたっけな。そうだ、せっかくだからお取り寄せして飲み比べとかしてみないか? 経費って奴でさ!」

「そういう話はラッカリカかクローリスにでもしてくれ」

「アイツらじゃすぐ却下するから兄ちゃんに頼んでるんだろー?」

「ほら、手続きが終わったみたいだ」


 話を切り上げて、俺は顔を上げた職員へと向き直った。


「お、お待たせしました」


 色々と雑談をしていると、手続きの処理を終えた職員がカウンター越しに四角いブロックを渡してきた。


 これはダンジョン配信に使うカメラ――通称「カメラゴーレム」である。


 ダンジョンで発見された魔法技術の一つであるゴーレムを活用して開発されたモノで、配信中の自動追尾機能や視聴者のコメントを空中に投影して確認しやすくしてくれる優れものだ。


 昔はドローンでやっていた機能だったが、ゴーレムのほうが安価かつ自動で画角調整やモンスターの攻撃を回避してくれるので便利なのだ。


 俺がそれを受け取ると、職員はじーっとこちらの顔を見比べているのに気が付いた。


「……何か?」

「あ、えっと。本当にこちらの方の配信で間違いないのかなぁ~と」

「そうですよ?」

「あ、そ、そうなんですね」


 失礼しました、と言ってびくびくと頭を下げてくる職員。


 なんだか妙な反応だったが、俺たちはたいして気に留めることなく軽くお礼を言ってから窓口を後にした。


「……なーんか最後の方、ぎこちなくなかったか?」

「お前のせいじゃないのか? BAN明けだろ?」

「そうかぁ? ずっと兄ちゃんにビビってる様子だったぜ?」


 なんで俺がビビられなくちゃいけないんだよ。


 首をかしげるシキータの手を引いて、俺は足早に改札ゲートへと向かった。


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