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第10話 再就職先は美少女ハーレム?

 仕事をクビになって、その日の内に再就職先が決まった。


 加えてスカウトである。

 それだけでも夢みたいな話なのに、再就職先はかわいいかわいい女の子だらけだときた。


 どんなラブコメだっつの。


 こちとら社会人である。

 そういう「ある日突然~」みたいな話は青々しい学生の時分に妄想するべきものであって、大人になってからでは気苦労の心配ばかりが先だってしまう。


 やれ本当に美人局とかじゃないだろうな、とか。

 女所帯に男一人はフツーに肩身が狭い思いしかしないだろ、とか。


 ……俺も年を取ったもんだよ。

 まだ二十代だったと思うんだけどなぁ……


 ま、ここまでの事実だけを並べれば夢のような再就職先だが、現実はこう続く。


 崖っぷちの配信事務所。

 そして、クセ者揃いの異世界人たち。


 しかも所属するダンジョン配信者は半数が引きこもりでもう半数が配信BANされて活動制限されているときた。

 さらに言うなら労働条件は不安定で、ほとんど流される形で承諾した俺もあの後少しばかりは後悔したモノである。


 けれど、次の仕事どころか次の住まいのアテすらないのが俺の現状でもあるし。


 人生には時に腹をくくって新たな場所へ飛び込むのも重要なのだ。


 準備や契約など、慌ただしく駆け回っている内に一週間も時間が過ぎ去り……俺は再びラッカリカたちの配信事務所へと訪れていた。


「……本当に俺も入居していいんだよな?」


 何度見ても普通のマンション……というか実際にマンションなのだが。

 入居当日になってすでに荷物もほとんどは先に運び込んでいるというのに、まだ現実感がない。


 ……一応、ロビー近くでスマホをいじりながら観察していると、住人らしき若い男性など数人が出入りしているのを確認できたのでラッカリカたちが言うように男女兼用の物件なのは確かなようだ。


 色々と職を転々としてきたが、正直に言えば新生活というのは苦手だ。


 新しい生活、新しい環境、まだ見ぬもろもろ……


 まるでちょっとした冒険の第一歩である。


「……俺の冒険は、もう終わったんだがなぁ」


 人生とはうまくいかないものだ。


 とはいえ、すでに社員寮も引き払った後だ。

 両親含め親戚もいないので俺にここを引き返す道はないようなものである。


 その事実を痛感しキリキリと痛む胃のあたりを抑えていると、マンションの出入り口からひょっこり顔を出してきた少女と目が合った。


「あ、イロウさん! お待ちしていました!!」


 ラッカリカだ。

 プラチナブロンドの髪を日差して輝かせて俺にブンブンと手を振ってくる。


「もう、お昼前には家具類などが届いていたのにイロウさんがぜんぜん来ないからまさか逃げら――道に迷ってるんじゃないかと心配しましたよ!」

「……ああ、少し迷ってたんだ」


 ここまでの人生という道にだったが。


 今更になって逃げようとかなんて思考もほんの少しだけあったのでギクリとする俺の手を掴んでラッカリカがマンションの中へ招き入れる。


 俺が初めて事務所を訪れた時と同じだ。


 ……確か、あの時は玄関を開けるとシキータが寝てたんだよな。


「ただいま帰りました!! イロウさんが来」


 ラッカリカが俺の手を掴んだまま玄関の扉を開ける。


「ふう、さっぱりした……」


 そう、たしかこうしてばったりと――


「え」

「あ」


 俺の声に相手方の声が重なった。


 声はあの時と同じくシキータのもの。

 だが、今回はちゃんと起きていたらしい。


 ちょうど洗面所から出てきたらしいシキータの驚いた顔が俺の方へ向けられる。

 どうやらシャワーでも浴びていたのだろう。初対面時のポニーテールは解かれていて、彼女の特徴的な赤い髪がしっとりと水に濡れて艶を放っていた。


 続けて俺の目に入ったのは――()()

 元よりシキータはラフな格好でそれなりに露出が多かったが、その比じゃない。


 裸だったのだ。


 パンツと首から下げたバスタオルだけが彼女の火照った身体をギリギリ隠し、それ以外の健康的な均整の取れた美しい全身がありありと俺の前に――


「……わ、悪い!」


 と、そこまで目の当たりにして俺は慌ててシキータから目を背けた。

 彼女から返って来る言葉はなかった。


 それは当然のことだ。

 俺はすでにシキータのほぼ生まれたままの美しい姿をこの目に焼き付けてしまった後……いや、よく考えろ。シキータは以前ほとんど初対面だった俺に平気で自分の胸を揉ませてくるような女である。


 慌てた俺をからかうようにこれ見よがしに見せつけようとしたり、あるいは「見せたんだから兄ちゃんのも見せな!」とか言って俺の服を脱がしてくる可能性も――


 なんて、俺が警戒した矢先だった。


 ダッ!

 ドタドタ……バタン!


「……あれ?」


 いっこうにシキータからの声が聞こえず、俺は視線を玄関へと戻す。


 そこにはもう彼女の姿はなかった。


 ひらりと舞ったバスタオルが床に落ちる。

 奥にあるリビングへの扉が開け放たれているのを見るに、どうやらシキータが自室へ戻って行ったらしい。


 ……予想していなかった反応だった。


「何だったんだ、今の……」

「あ~、えと、いえ。イロウさんは別に気にしなくていいですよ。今日のシキータはまだシラフだったはずですから」

「は? 素面?」


 それでどうなると言うのか。


 いや今は平日の昼下がりだし酔っぱらってる奴もそうそう――ダンジョン配信者はその限りじゃないな。業務から何もかもが不安定な職と言えば事実だし。


 シキータの事も気になるが、俺はまだ入居初日だ。

 手荷物は少ないが部屋の片づけもあるのでラッカリカに背中を押されながらリビングへと足を向けた。


「おや、イス――諏成(すなり)さん。ようやく来ましたか」

「あ~、その。クローリスさん? いい加減、名前――あー、いいですもう」

「クローリスで結構ですよ。その方がオレサマ感あっていいので」


 やってきた俺を出迎えたのはクローリスだった。


 ちょうど仕事中だったらしい。

 テーブルの上に置いた書類やノートパソコンから顔を上げてたクローリスが俺の方を見る。


 ……一週間経っても俺のことをイスナロなるキャラと呼び間違えそうになるのはどうにかならないものか。むしろ一週間も経ってこれならもう無駄か……


 少しばかりうんざりとしていると、クローリスはどこか納得いった風に頷く。


「なるほど、どおりでシキータが慌てて部屋に戻ったわけですか」

「……なあ、アイツがシラフだとなにがあるんだ?」

「それは――」


諏成(すなり)入浪(いろう)どの!!」


 疑問の答えが、当のシキータによって遮られた。


 彼女の部屋の扉がバァン! と開け放たれてシキータが姿を現す。

 

 先ほどまでの裸ではなくジーンズとTシャツを合わせた格好だった。

 裸のままじゃなくてよかった……と俺が内心で胸を撫で下ろしていると、シキータはずんずんと俺に近づいてきて――


「大ッ変――申し訳ございませんでした!!」


 彼女は俺に土下座してきた。


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