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神憑き兵衛の下剋上(クーデター)  作者: 光命
第1章 破壊神の復活
9/10

第9話 義元vs覇洵

「?

 お前が義元なのか?」


神輿から出てきた女性にびっくりした覇洵(はじゅん)は思わず確認をしてしまう。


「いかにも。

 あたいが義元だよ。

 どうだ、驚いたか!」


手を腰に当て自慢げに話す義元。


『えーっ!

 今川の殿さまが女だったとは……』


兵衛(ひょうべい)は思わず頭の中で大きな声を張り上げてしまった。


「うるせぇ、兵衛!

 頭ん中で大声出すな!」


『ワシはそれをいつも聞いていたのですがのぅ……』


「……

 今はそんなことは、どうでもいいって。

 まずは、こいつの相手だ」


覇洵は気を取り直して、義元を睨みつける。

それを見た義元は


「あぁ……そういうことかい。

 あいつの差し金か。

 わかったよ」


とボソッと呟いた。


もともと義元は謎に包まれていることで有名だった。

屋敷でも簾の奥から顔を出さない。

戦場でも指揮は神輿の中からで、姿をほとんど見かけない。

実際に実在するのかとも噂されていた人物だった。

それが、この世の者とは思えないほどの美女だったとは。

兵衛はその姿に見とれてしまうほどだった。


「おい、兵衛!

 いつまでぼーっとしているんだ。

 いくらきれいに見えたって、敵だぞ敵!」


『そうでしたな。

 でも、ワシがぼーっとしていても、戦うのは覇洵様ですが……』


「頭の中でぼーっとしてられると、気になって仕方ないんだよ」


『そうですかい。

 申し訳なく……

 以後気をつけますでのぅ』


義元と対峙しながらも、覇洵と兵衛のやりとりが続いていた。

義元はそんな覇洵たちを見て、笑いはじめる。


「はははははっ。

 あたい抜きで二人でおしゃべりかい。

 敵を目の前にしてやることじゃないだろ」


どうやら義元にも兵衛の声は聞こえていたらしい。


「コイツの声が聞こえているとなると、お前も神憑きか?」


普通の人にはこの頭の中の声は聞こえないはず。

覇洵は確信を持って、義元を問いただした。

すると思わぬ返事が返ってきた。


「神憑き?

 そんなことあるか」


神憑きであることを義元は否定した。


「じゃ、いったいお前は何者だ?」


覇洵は戸惑いながらも再度確認をした。

すると義元は妖艶な笑みを浮かべて


「あたいは憑いてなどいないよ。

 神そのもの、あたい自身が神なんだよ」


その瞬間、空気が張りつめた。

冷たい緊張とともに、甘い香りが風に乗って漂ってきた。

異質な空間に変わった戦場に戸惑う覇洵。

その間に義元は覇洵との距離を詰めて鼻が当たるほど近くに顔を持ってきた。


「くっ……速い」


一瞬何が起きたかわからなかった覇洵。

ハッと思い、急いで義元との距離をおく。


「ふふふふふ……」


「お前、さっきわざと攻撃しなかったな。

 オレが対応できなかった時に隙があったはずだ」


覇洵は義元が己を見逃したことが気に食わなかった。

またその意図も分かりかねていた。


「ククククククッ……

 あなたは強いの?

 あたいを喜ばせてくれるの?」


義元の目は獲物を狙うかの如く鋭く、覇洵に照準を合わせている。

しかし、目の鋭さとは裏腹に口元は口角があがり、不気味な笑顔になっている。

そしてそのまま、他に目もくれずにゆっくりとこちらに向かってくる。


「ちぃっ……

 あいつは戦闘狂かよ。

 あの目、完全におかしいぞ」


『覇洵様がそう言うのですかのぅ。

 戦いの時は同じような顔をしておいでかと思いますが……』


兵衛から見ると義元の狂気じみた顔は覇洵と似たように感じているようだ。


「同じじゃないって。

 そもそもお前は今までオレが戦っているところ見たことないだろ」


『はぁ、直接は見ておりませんが……

 なんとなく、そういう雰囲気は感じております』


「オレをあんなやつと一緒にするな!」


戦いの最中とは思えないやりとりをする覇洵と兵衛。

それを聞いていた義元は


「あたい抜きで何楽しそうに話をしているんだ?

 まだまだ余裕がありそうだな。

 あたいに会ってそこまで余裕な奴は初めてだよ。

 嬉しいねぇ……

 もっとあたいを楽しませてくれよ」


そう言うと、さらに狂った笑顔で鉄扇を振り上げて覇洵に迫ってきた。


――カキーン


今度は義元の攻撃を受け切った覇洵。

刀と鉄扇が火花を散らす。

それと同時に稲光が激しく光る。

大雨で薄暗い陣中に二人が照らし出されているように。


「やっぱりあなたは違うのね。

 嬉しいわ。

 だいたい、ここの奴らは、脆くて弱くてどうしようもない。

 全然ワクワクしないわ。

 それは上でも同じだったし」


「お前のお眼鏡にかなってもちっとも嬉しくないね」


覇洵は苦々しげに言い放つも、その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。


「そんなこと言わずに……

 もっと楽しみましょうよ」


義元は鉄扇で刀を押し返すと、手首を返して鉄扇を広げる。

そしてそのまま横から薙ぎ払う。


――ガシーン


金属同士が重なる音がするも、稲妻の光と音でかき消される。

覇洵は横からの鉄扇を刀の峰に手を押し当て受け切る。

一撃一撃が速くて重い。

義元が強いということを肌身をもって感じた覇洵もニヤリとしてしまう。


「前言撤回だ。

 オレもここまで歯応えのあるやつと戦えるとは思わなかった。

 楽しくてしかたないよ」


「あら、嬉しいわ。

 あたいたち、気が合いそうだわ」


さらに雨足が強くなり、雷も激しくなる。

その轟音にもかき消されないほど激しく当たり合う刀と鉄扇。

散る火花も稲光に負けず劣らずのものだった。


お互い距離を取ったかと思うと、一瞬で間合いを詰める。

覇洵の斬撃が義元を襲うもひらりと躱し空を斬る。

後ろにある陣幕がその刀の通り道から上下に分かれる。


義元も広げた鉄扇で覇洵の頭上から縦一閃するが、当たらない。

空振りした攻撃の圧は周りの木々を粉々にするほどだった。


一進一退の攻防を積み重ねていく覇洵と義元。

お互いの攻撃が空を斬る度に、陣や林を破壊する。

辺り一帯はもはや何もない野原になっていた。


『覇洵様も今川の殿さまもすごいですなぁ』


記憶がある中で覇洵の戦闘を見るのが初めてだった兵衛は感心していた。

自分の肉体がここまで動けるものなのかと。


『ワシもお二人のように出来るかのぅ』


兵衛もその高みに行きたいと感じながら動きを追っていた。


「オレが戦っている時に、何呑気な事いっているんだよ!」


頭の中で独り言をブツブツ言っている兵衛に気を取られた覇洵に一瞬の隙が生まれた。


「何よそ見をしているのよ。

 あたいの事をずっと見てくれなきゃ」


義元はその隙を見逃さなかった。

鉄扇から放たれる密度の高い空圧が覇洵に向かっていく。


「くっ、油断した」


それでも覇洵は立て直し、ギリギリのところで躱したかに見えた。

しかし、避けきれずに左肩から血しぶきが舞う。

左腕がだらりとなり力が入らない。


「あらあら。

 でも十分楽しめたわ。

 これで終わりにしましょう」


勝機を逃す義元ではない。

追撃の一閃を放とうとしている。


『覇洵様……危ない……』


兵衛は覚悟を決めて目を閉じてしまう。

ただ覇洵は違った。

まだ諦めていなかった。


「まだまだここからだー」


力一杯の雄叫びを上げる。

金色の光が覇洵の全身から噴き上がった。

雨の粒すらその輝きに焼かれ、周囲が一瞬昼のように明るくなる。


『な、なんですか、これは……』


兵衛の思考も、義元の動きも止まった。


「えっ?」


次の瞬間──

斬撃が閃いた。


――グゥン


その斬撃を喰らった義元は後方に吹っ飛び、山肌にめり込んでいた。


「ふぅ、どうやら勝負あったみたいだな」


義元の近くにいった覇洵は首元に刀を押し当てる。


「……ふふふ。

 あたいの負けだわ。

 まだこんな男がいたのね……」


山肌にめり込んだ義元は、土の中で不気味に笑っていた。

覇洵は眉をひそめながら刀を下ろす。


「……負けを認めるなら、それで十分だ」


その言葉に義元は妖艶な微笑で返す。

そこにはもう戦意は無くなっていた。


『覇洵様……勝ったのですね……』


刀を掲げ、覇洵が叫ぶ。


「義元、討ち取ったり!」


その声が、戦場を瞬く間に駆け巡っていった。


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