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神憑き兵衛の下剋上(クーデター)  作者: 光命
第1章 破壊神の復活
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第6話 三河侵攻の裏に潜むもの

織田信賢の軍勢を破った信長軍は勢いに乗り、翌年に信賢を攻め立てた。

岩倉城へ総攻撃を仕掛けて追い詰めていく。

城を取り囲み、兵糧攻めを敢行した。

信賢は抵抗するも、毎日のように鉄砲や火矢で攻め立てられて、困窮していく。

三ヶ月ほど立とうとしたところで、力尽き降伏となった。

これで信長による尾張統一が完遂された。


兵衛(ひょうべい)もこの戦いには参加していた。

しかし、兵糧攻めということもあり、特に肉弾戦が行われず……


『これじゃ、オレの出る幕はなさそうだ』


覇洵(はじゅん)は戦いが一方的な状況につまらなさそうにしていた。

挙句の果てに


『信長のところ行こうぜ。

 こんなつまらないところにいてもなぁ』


という始末だった。


『覇洵様、こちらの御大将のところへ行っても、その場で首が撥ねられるだけです。

 それに、行く理由もないしのぅ……』


兵衛は、覇洵の提案には尻込みし、目の前の戦に集中していた。


『ちぇっ、つまんねぇな』


そこから覇洵はあまり口出しもせず、そのまま兵衛の好きにさせていた。

兵衛も持ち場での働きを懸命にしていくだけだった。


その後も大きな動きはなく、信賢が降伏し戦は終わっていたのだった。


尾張統一を成し遂げた信長は、次の目標を三河に定めた。

三河を支配しているのは大国で大大名の今川氏。

まだ小国の信長にとっては分不相応の相手だ。

それでも躊躇なく突き進む信長は三河へ出陣するのだった。


当然兵衛にも招集がかかる。

覇洵もそれを喜んでいた。

何故喜んでいるかというと……


『だって、強い者に挑むって醍醐味じゃん。

 それに……

 信長にもまた会えそうだしな』


とのことだった。


『覇洵様はやっぱり戦いが好きですなぁ。

 もしかして戦闘の神様かなにかなんですかのぅ』


覇洵が喜ぶ理由になんとなく納得する兵衛だった。


信長は三河への出陣前に砦を三つ築いていた。

今川の手に落ちていた鳴海城の動きと周りの城をけん制するためである。

その戦略は上手くいった。

砦を警戒した今川勢の動きは鈍くなる。

その隙を突いて、信長は三河へ侵攻した。


一方、兵衛のいる部隊はというと……


「悪いが俺たちは留守番となった。

 砦を守る任務に付けとのことだ」


足軽大将が言い渡された任務は砦を守り、鳴海城からの警戒をすることだった。

その言葉に覇洵は


『えーっ!!

 オレたちの方が良かったんじゃないの?

 なんでこんなところ守らないといけないんだよ』


と残念がる。


『ワシたちは言われた通り動くだけじゃしのぅ。

 覇洵様は暴れ足りないじゃろうが……』


兵衛は覇洵の気持ちを汲んで言葉を掛けたが、覇洵は聞かずに悔しがるばかりだった。


「そういえば、今回は珍しく御屋形様が直接差配を言い渡しておったらしい。

 俺たちの部隊を真っ先に砦の任務に就けとおっしゃられたとのことだった」


それを聞いた覇洵はさらに頭の中で喚き散らす。


『やっぱ、オレがここにいることを知ってワザとだ、あの野郎!』


『御屋形様に対してあの野郎と言わねぇでくだせぇ。

 ワシの首が飛びますわ』


『頭の中じゃ聞こえないから大丈夫だって。

 入れ替わった時も言わないでおくよ。

 たぶん……』


『たぶんじゃ困ります。

 絶対言わないでくだせぇ』


兵衛は首元に寒さを感じて、ブルっと震えた。


その後、兵衛がいる部隊は終始砦の中での待機だった。

けん制が狙いということもあり、敵との衝突もなく、睨み合いが続いているだけだった。

そう言うこともあって、戦いも皆無な状況だった。


『あーあっ、退屈だー退屈だー』


覇洵は砦の守りに入ってから数日……

ずっと頭の中で繰り返す。


『覇洵様、さすがに五月蠅いのですがのぅ』


『だってさ、何も起きないじゃん』


暴れたい覇洵は何かにつけて争いを起こしたいようだった。

とは言え、兵衛は覇洵の気持ちが少し分かるような気がした。


『確かに何も起きんですな。

 それはそれでとは思いますが、まずはお役目を果たすことが先決じゃしのぅ』


――――


そんなやりとりが合った夜の事――

今日の夜は番がなかったため、眠りについた兵衛がむくりと起き上がる。


「さてと……

 あいつが寝ている間なら動けるし、信長を追うか」


覇洵は兵衛が寝た隙に、体を乗っ取り動き始めたのだった。

つい先日までは寝ている間はしっくりせずに動きにくかった。

それも今では思い通りに動かすことが出来るようになっていた。

どうやらちょくちょく夜中に意識を入れ替えていたようだ。


さっそく覇洵は速度を上げ信長を追いかけた。


「ほぅ……

 あいつも頑張っていたからな」


だいぶ先を行っている信長に追いつくために覇洵は少し肉体に負荷をかけた。

いつも以上に強化をしたのだが、それに体がついてきた。

兵衛も兵衛で日ごろから常に鍛えていたのだった。

そのおかげもあり、予定より早く三河吉良の地に着いた。

ただそこで見たものは……


「ここにあるものすべてに残らず火をつけろ!」


「高価なものはすべて奪いつくせ!」


「逃げる者もすべて殺し尽くせ!」


信長の兵たちが略奪、火つけ、虐殺を繰り広げていた。

赤子の泣き声が響く中、笑いながら火をつける兵の姿。

倒れた老婆を踏み越え、壺を抱えて走る兵もいた。


「こんなことして何になるんだ。

 そこらの盗賊とやってること変わらんじゃん。

 何を考えているんだ信長は……」


覇洵は燃え盛る炎を見つめ呟いた。


「だが、まずは信長だな」


村のあちこちを走り回って信長を探す覇洵。

逃げ惑う村人ややりたい放題の兵たちをかき分けて進むが信長の姿は見あたらない。


「ここには来ていないのか?

 いや、神や天使たち、あいつらなら、絶対にこの場にいるはずだ。

 それとも信長には憑いてないのか?」


その時、離れたところから妙な波動を感じた。


「あの丘か……」


覇洵はその感じた気配の先へ向かった。

するとそこには馬に乗り村を眺める一人の男がいた。

後ろには炎が照らす灯りがゆらゆらと蜃気楼のように揺らめいている。

村を覆いつくす炎を見て男は高笑いをしている。

それが一掃、狂気を醸し出す。


「お前が信長か?」


その男は覇洵の方を向くとニヤリと笑った。


「どうだろうな。

 俺様が信長だったらどうする?

 そうでなかったら?」


信長らしき男は質問に質問で返す。


「お前に神は憑いているのか?」


さらに満面の笑みになる男。


「神?

 何のことだ?

 俺様が良く言われるのは『魔王』なんだがなぁ。

 それとも俺様が神に見えるのか?」


覇洵はその男の返答にイラっとする。

笑顔なのも気に食わない。


「だ・か・ら!

 神の、あいつらの手先かって言っているだよ!」


少し怒気が籠った声でその男を問い詰める。

その怒りが伝わったのか、うっすらと頭の奥で兵衛の意識が起きる気配がした。


『……ん……』


覇洵は少し気になったが、今は目の前のことだと考え、男を睨みつける。


「……

 手先か……

 まぁ、手先ではないと言うことだ言っておくよ」


その男はおちゃらけた顔でそういうと、覇洵の横を過ぎ去っていった。

過ぎ去る間際にその男は


「これであいつの面子を潰せたはず。

 あいつの化けの皮も剥がれる」


と呟いた。

その男はわざとこの言葉を覇洵に聞かせているようだった。


「ん?

 あいつって誰だ?」


覇洵は男をさらに追いかけて問い詰めようとしたが、体は上手く反応しなくなった。


「兵衛のやつが起きかけているのか。

 ちいっ……

 次は会った時は必ず正体を暴いてやる……」


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