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神憑き兵衛の下剋上(クーデター)  作者: 光命
第1章 破壊神の復活
4/10

第4話 殿(しんがり)

砦の中は敵味方入り乱れ、激しい戦闘が繰り広げられていた。


「ここはもうダメだ。

 撤退だー!」


味方の声だろうか……

あちこちでここを引くようにと叫んでいる。


「たっく、なんだよ。

 こんな面白い状況で、撤退なのかよ。

 ここを覆してこその戦ってもんじゃないのか」


兵衛(ひょうべい)と意識が入れ替わった覇洵(はじゅん)は、

乱戦の中、敵を足止めしつつ、次から次へと倒していた。


それでも敵は砦の中に我さきにと大挙して突っ込んできていた。

覇洵はその勢いに乗る敵も蹴散らしていく。

その戦いっぷりはまるで戦場に降り立った異形のようだった。

一閃した刀で数名が真っ二つになり血しぶきを上げる。

振り下ろした刀は敵を両断し、その勢いのまま背後の土壁を深々と裂いた。

飛び散った鮮血が砦の柱を染め上げる。


それでも覇洵がいる所以外は敵が優勢になっていた。

逃げ回る覇洵たちの軍を追いかけ回したり、砦の中の食料などを奪い取っていた。

多くの残存兵が逃げていった中、覇洵は一人残り敵と応戦していた。


「ほら、もうオレ一人しかいないぞ。

 腕に覚えがある奴はオレのところにこい」


刀を振り回しながら、砦の中を闊歩する覇洵。

そこまでに覇洵の戦いを見ていたものは恐れおののき、近寄ってはこない。

そこに一人の兵が近づいてきた。


「お前は少しは強いのか?」


覇洵は少し期待して、その兵に話しかける。


「これでも儂はこの部隊一番の侍じゃー」


そう名乗ると刀を前に出し突きを繰り出した。


「だが、残念だな」


覇洵は余裕をもってその刀を躱す。

そしてニヤニヤとしながら刀を振るう。


「これが一番じゃたかが知れているな」


肩から斜めに腹まで切り、返す刀で首を撥ねられた。

人とはこれほど脆いものかと思えるほど簡単に。

一人で挑んだこの部隊の一番という侍はあっという間に倒されてしまった。

その様子をみた敵兵たちの一部は


「お……鬼じゃ

 こいつは鬼じゃー!」


と叫び、逃げ去っていった。

覇洵は鬼と言われて機嫌が悪くなる。


「鬼?

 笑わせるな。

 オレはあんなのとは違う。

 ……これでも一応、神様なんだぜ?」


覇洵は怒りが膨れ上がっていたこともあり……

その言葉を放った敵兵を追いかけて、なぶり殺しにした。

よっぽど気に食わなかったのか、拳で殴って十分な苦痛を与えてから殺した。

覇洵のその拳から血が滴り落ちていた。


「おっと、やりすぎたな……

 また兵衛が文句言いそうだ」


敵を殴った拳が紫色に変わっていることに気づいた覇洵はバツが悪そうに苦笑いをした。


その後、しばらくすると味方も生き残った兵はすべて逃げていった。

敵の兵も少なくなっていき、一部しか砦には残っていないようだった。

覇洵は砦内を歩き回り、残党を容赦なく討ち取っていった。


「しかし……

 本当に弱い奴らばかりだ。

 弱い者同士が争って何をしているんだか……

 ……そうじゃなかったな。

 これは……」


人の世界で絶えず起こる戦い。

現にこの国でも争いが絶えない。

そうなっている原因は……


とそんなことを考えている覇洵のところに、人の気配が近づいてきた。

とっさに構えをとった覇洵は、感じる気配にただならぬものを感じた。


「この気配……」


死体を踏みつけながら入ってきたその人は、立派な鎧を着た侍とその従者たちだった。


「おぬし、何者だ!」


その侍は刀を構える覇洵を睨みつける。


「オレか?

 オレは覇洵。

 見ての通り、一介の足軽だ……

 たぶんな」


「たぶん?

 で、その足軽が、何故ここに残っておる?

 おぬしは、織田軍のものではないのか?」


少し不思議に感じた侍は覇洵に問いただし始めた。


「オレの事をいろいろ聞く前にだ……

 まずはお前が名乗る必要があるんじゃないか?」


覇洵は侍の矢継ぎ早の質問に嫌気を刺した。


「何を足軽風情が言うか!」


周りの従者が口を挟んできたが、それを侍が止めた。

その従者は頭を下げると、一歩下がっていった。


「私は、松平家次。

 品野城の守りを任されたものだ」


なんとその侍は今回敵対した軍を率いる大将だった。

家次は砦の戦が落ち着いたころを見計らって様子を確認しに来ていたのだった。


「なんとも好都合だな。

 これでお前の首を取れば、この戦は勝ちになるしな」


覇洵の顔が満面の笑みになる。


「まぁ、待て。

 おぬしが私の首を取っても状況は変わらないだろう。

 何せこの砦には誰一人残っていない」


「そんなことは関係ない。

 オレはオレのすべきことをするだけだしな」


大勢が決したこの状況でも大将の首を取ることに固執している覇洵。

家次はそのことが不思議だった。


「すべきこととは?」


「オレ様の名前を天下に轟かせることだ。

 神が出しゃばってくるぐらいにな」


その言葉を聞いた家次は顔色を一変させる。

家次は覇洵の中に何かを感じ取った。


「この男と二人で話がしたい。

 お前たちは、他の場所を見て回れ」


「しかし……

 この男は危険です」


従者は食い下がるも、家次は鬼のような形相で指示をする。


「いいから、行け」


その顔を見て強張った従者たちは、逃げるようにそこから出ていった。

人払いを済ませた家次はさらに覇洵を問いただす。


「さてと、覇洵と言ったかな……

 おぬしは、今さっきなんと言ったのかな」


明らかにさっきまでと様子が違う家次に、覇洵は何かを感じ取った。


「お前……

 この匂い……」


家次の胸元に顔を近づけた覇洵はさらに続ける。


「この雰囲気……」


今度は家次の顔の辺りまで舐めまわすように見始める。


「やっぱりな……

 この匂い、空気、全部がそうだ。

 お前、あいつらの手駒だろ」


家次は不敵な笑みで覇洵を見やる。


「あいつらとは何のことかな?」


さらに睨みかえした覇洵は


「あいつらとはあいつら──天界のことだよ」


と言い返す。

その言葉に何かを悟った家次は観念したように正体を告げ始める。


「おぬしは、私の事がわかるのか?

 何故わかったのかは不明だが……

 ただ知ったからには生かしてはおけぬ」


家次の背から黄金の光が噴き出した。

そして、光は羽ばたくように展開し、羽根となった。

その光に照らされて、彼の瞳が淡く輝きを帯びた。

その様は神性そのものが形になったような異様な光景だった。


「やっぱりな。

 お前は天使兵だろ」


覇洵はさらに顔が崩れるほどの笑顔になる。


「見つけた……

 あいつらとの接点を……」


そのまま家次に切りかかっていくが、飛んで避けられてしまった。


「おぬしは覇洵と言ったな。

 天界でそのような名前の者は聞いたことがないが……

 お前はいったい何者なのだ」


どうやら家次は覇洵の名前を知らないようだった。

飛びながら思案している家次に覇洵は


「オレの事なんかどうでもいいよ。

 どうせ死ぬんだしな。

 お前が死ねば、あいつらも動くだろ。

 それがオレの目的だ」


と言うと、大きな飛躍で下から刀身を突き刺しにいった。

間一髪で避ける家次だが、避けきれず翼に傷を追って、下に落ちてしまった。


「あの方々はたかが私の死ぐらいでは動きませんよ。

 私のようなものはまだまだいっぱいいますからね」


「へぇー、そうなのか。

 じゃあ、お前のようなやつを百も二百も斬り伏せてやれば、さすがに動くだろ」


倒れ込んだ家次を踏みつけると、覇洵は思いっきり刀を振り下ろした。

家次は横になりながらも刀を抜き、刀身を横にして覇洵の刀を受け止めた。


――キーン


鳴り響く鍔音。


「それでも動きません。

 あの方々たちは。

 何かの考えで動いていらっしゃるはずですから。

 下っ端な私たちにはわからない崇高な目的のために」


覇洵の刀を押し返して立ち上がった家次は息をふぅーっと吐くと、覇洵に刀を向けた。


「まあ、そうかもな。

 だが、お前には……

 餌になってもらう」


迫りくる刀身を寸前のところでかわし、すぐさま下から切り上げる覇洵。

内腿からそのまま腰、腹へと切り上げられた。

家次はかわし切れずに傷を負うが、まだ致命傷には至っていない。

切られた傷から血がだらだらと垂れ流している。


「痛っ」


そして膝をガクッと落とし片膝をついてしまう。


「これも躱すのか。

 ここに来て一番の歯ごたえだぜ。

 じゃ、その名誉を讃えて一つだけ教えておく」


覇洵は跪いた家次に刀を向け


「オレはあいつらにここに追放された神だ。

 だからあいつらには貸しがあるんだよ」


叫ぶと首から腹にかけて刀を一閃する。


「うぎゃーっ」


断末魔の叫び声を上げる家次。


「死ぬ奴に話しても仕方ないけどな」


覇洵は死んだ家次にそう言うと、急いで砦から脱出していった。

結果的に覇洵は殿を務めたことになった。

急いで部隊に追いついたころには兵衛が意識を取り戻した。


今回の戦は負けだったが、覇洵にとっては大きな収穫がある戦いだった。


『やっぱり想像通り、ここにあいつらが絡んでやがるな。

 となると……

 強い奴らはほぼあいつらに関係ある奴らだな』


覇洵は笑いが止まらなかった。

雲をも掴む感じの神との接点が、戦いの中にあることがわかったからだ。


『覇洵様はえろぅご機嫌がいいのぅ……

 ただ頭の中で大声で笑うのはやめていただきたいのぅ』


兵衛は覇洵の機嫌の良さがよくわからず、ただただ響く笑い声に苦笑するしかなかった。


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