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神憑き兵衛の下剋上(クーデター)  作者: 光命
第1章 破壊神の復活
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第2話 相棒は神様?

覇洵(はじゅん)と名乗ったその男は取り囲んでいた敵を次々と殺し始めた。

その速さは人のものとは思えないほどだった。

次々と倒れる敵兵に、敵軍は勢いを失いはじめていた。

撤退を決めて逃げ始めていた足軽大将も


「形勢逆転だ。

 あいつに続けー!」


踵を返して、再度敵軍に向かうように指示をした。

それを聞いた味方の兵たちも敵軍へと雪崩れ込んでいった。


「うーん。

 あっちから来たのは味方か?

 邪魔なんだけどなぁ」


覇洵は苦虫を噛み潰したような顔で応戦に来た味方を見た。

味方は勢いを増して敵兵たちに襲い掛かっていた。

それを見た覇洵は深呼吸をした後に、大声で叫んだ。


「死にたくない奴はこの場から離れろー!

 あと十数えるうちにだ。

 その後は、オレは知らないからな」


そう言うと両手を上に掲げて、大きな声で数え始めた。


「いーちっ、にー、さぁーん……」


その声を聞いて、慌てて逃げる十数名の兵たち。

ただほとんどの兵は気にせずに敵と応戦をしていた。

足軽大将はと言うと、自分は後ずさりしながら


「引くな、いけーいけー」


と配下たちには進むように指示をしていた。


「きゅー、じゅー」


数え終わった覇洵は両手を下ろすと


「さてと……

 ここからは容赦なくいくぜー!」


刀を振り上げて敵へ突っ込んでいった。


――ズサー

――ズバーッ

――ガシャーン


敵を次から次へと倒していく。

腕が胴体から切り取られ、血が噴水のように宙に舞った。

いや、敵だけではない、応戦する味方もすべて切り捨てていく。

人の身体が紙切れのようにズタズタにされていった。


「ギャーー」


死ぬ間際に叫ぶ悲鳴が戦場に響き渡る。

それもあちこちで。

その悲鳴の先には覇洵がいた。


瞬く間にその戦場の最前線は血の海に変わっていく。

土も草もみな赤く色づいていく。

そして、しばらくすると覇洵一人のみが立っているのみだった。

最前線は敵も味方も関係なく数百名の切り刻まれた兵たちが横たわっていた。


「まぁ、こんなもんか。

 まだまだ全力を出すには、こいつでは力不足。

 それでも、これだけ動けるのは日ごろから鍛錬しているからな」


赤く染まった大地の上でニヤニヤしながら血塗られた刀を眺める。

眺め終わると、素早く刀を振る。

血がさらに大地へと積み重なっていく。


「そろそろこいつが起きる頃か……

 今日はここまでかな」


そう言うと覇洵と名乗った男はその場に崩れ落ちた。

それからしばらくすると、倒れた男が目を覚ました。


「あれ?

 ワシは何を……」


兵衛(ひょうべい)が辺りを見回すと……

敵味方関係なくズタズタに切り裂かれた遺体が転がっていることに驚愕する。


「これはワシのしたことなのか……」


後方に退いていた足軽大将が前線が静かになったことが気になり、様子を伺いにきた。

そして、前線の光景を見て唖然とする。


「いったい何が起きたんだ……」


立ち尽くす兵衛を見つけると、駆け寄ってきた。


「おい、お前。

 これはどうなっているんだ?」


「……

 ワシにも全く分かりません。

 気が付いたらこうなっておりました」


「どうであれとにかく敵は全滅したな。

 味方も相当数やられたが……

 儂らの手柄になるな」


足軽大将は残った十数名の兵たちを呼び寄せ、亡骸を埋葬するように指示をする。

敵味方なく埋葬すると、みなで手を合わせて戦場を後にした。


他でも戦いの激しさは増していたが、この戦場での勝利が味方の機運が高まった。

勢いに乗った味方の軍勢は、織田信賢の軍勢を打倒し、勝どきを上げていた。


その日の晩――

戦場近くの野営地の端で兵衛は眠りに就こうとしていた。

うとうととしていたところにどこからともなく声が聞こえてきた。


『よぉ、兵衛』


「はい?」


ビクッとなった兵衛は起き上がり返事をする。

だが周りを見ても誰もいない。

誰だろうと思いつつ、再度横になるとまた声がする。


『そんなにビックリしなくてもいいだろ。

 オレだよオレ』


周りに誰も居ないのに声が頭の中に響き渡る。


『誰じゃな

 ワシに話しかけてくるのは』


兵衛は心の中でそう思っただけだったが……

語り掛けてくる声が反応した。


『オレだよ、オレ。

 と言っても分からないか。

 この場合、初めましてなのかな。

 オレは覇洵。

 お前の中にいる別人格と言うか、なんと言うか……』


『はぁ……

 その覇洵と言う方が……

 ないようですかの』


兵衛は状況にあまりピンと来ていないのか驚く様子はなかった。

たぶん、想像できない事態だったのだろう。

そして、状況を飲み込めないまま、淡々と受け答えを始めた。


『驚かないんだな。

 お前、度胸だけはいいな。

 気に入ったぞ』


『それはありがとうごぜぇますだ。

 で、その覇洵様がワシに何の用で?』


『昼間の件はすまなかった。

 久々に滾る状況で、お前が気絶したから、思わず手が出てしまった』


覇洵は兵衛に謝り、その時の状況を話した。

驚く様子もない兵衛だが、状況がまだ飲み込めてないようだった。


『……と言うことで、あれは全部オレがやったんだけど……

 まぁ、肉体はお前だし、お前のやったことにしておいてくれ』


『それはそれでワシはいいのですが……』


『「いいのですが……」の後はなんだ?』


状況が呑み込めていない中でも、ふと疑問に思ったことがあった兵衛。

覇洵にいくつか聞きたくなっていた。


『覇洵様はいったい何者でしょうか?

 いつからワシの頭の中でおいででしょうか?』


『オレのことか?

 オレは神だ!

 戦いを司る神と言われている。

 一部ではだけどな』


『神』と言う言葉を聞いて目を丸くした兵衛。

頭の中に神が憑いている事実に慌て始める。

そしてだんだんと状況が理解できてきたようだった。


『お前、その反応……

 今更驚くのか?』


『か……神って、それは嘘じゃねぇのか?

 ワシの頭の中で神が何をしておるんじゃ』


『お前に嘘をついてどうするんだ?

 まぁ、神と言ってもこの国で信仰されている神ではないしな』


『それでも、神は神だしのぅ』


急に手を合わせて拝み始める兵衛に覇洵は慌てる。


『拝むなって。

 信仰の対象じゃないって言っているだろう。

 気恥ずかしい』


周りを見回した兵衛。

少し離れた兵と目が合って、気恥ずかしさを感じて、拝むのを辞めた。


『まぁ、そんなことはどうでもいいから。

 お前の質問に答えたし、ここからはオレのお願いだ』


『いや……

 まだもう一つの質問に……』


聞く耳をもたない覇洵は話を続けた。


『オレをこんなところに封印した神たちとの決着をつけたいのだが……

 ただ今のオレにそんなことが出来るのか、まだ何もわからない。

 なので、そのことはいったん置いておく』


『はぁ』


しっかり聞いているのかわからないような返事をする兵衛。


『それでだな、オレはまだまだ暴れ足りないから。

 これから戦場に行くときには、お前の身体をオレに貸してくれ』


その話を聞いた兵衛は少し考えて


『それは別にかまわんが、あまり無理はしてほしくないの。

 ワシの身体だしの』


と条件を付けた。


『それはわかった。

 お前が壊れたらオレも動けないしな。

 ということで、交渉は成立!

 じゃ、オレは寝るわ』


覇洵は一方的に話すと頭の中にあった意識が消えていった。


「あの、ワシのもう一つの質問は……」


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