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神憑き兵衛の下剋上(クーデター)  作者: 光命
第1章 破壊神の復活
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第10話 新たな戦いの地へ

義元は起き上がると思いっきり背を伸ばす。


「うーん。

 久々に楽しめたわ」


その顔は負けた将とは思えないほどすっきりしていた。


「ところで、お前の本当の名前は?」


覇洵(はじゅん)は義元に確認をする。


「あたい?

 あたいはイシス」


『石臼?

 けったいな名前ですな』


兵衛(ひょうべい)は天然なのか聞き間違えなのかで勘違いをしている。


「イシスだって。

 あたいの名前はイ・シ・ス!」


イシスは顔を膨らませて怒っている。


「あのなぁ、兵衛。

 聞き間違いにもほどがあるぞ」


『はぁ、あまり聞いたことがない名前でしたので……

 申し訳ねぇです』


兵衛は頭の中で何度もお辞儀を繰り返しているようだった。


「まぁ、それはいいとして、イシス。

 お前はオレを封印したらしいな」


信長が言っていたことを思い出した覇洵はそれを問いただした。


「はっ?

 何それ?

 あたいは全然関係ないよ」


「……それは本当か?

 嘘をついていたら承知しないぞ」


「本当だよ本当。

 あたいは強い男には嘘つかないわよ」


イシスは覇洵に色目を使いながら、封印のことを否定した。


「やっぱりか……

 あいつ嘘つきやがったな。

 まんまと嵌められた」


悔しがる覇洵は顔を真っ赤にしている。


『御屋形様が嘘を仰るとは思えねぇのだがのぅ……』


あの場の話を信じていた兵衛も落胆していた。


「ますますあいつをやらないと気が済まないな。

 おい、兵衛!

 今から信長のところへ行くぞ!」


『えっ?

 今からですかい。

 一応まだワシらは御屋形様の所属ですし……』


「そんなことは関係ない。

 オレがやるっていってるんだから、やるんだ」


気にはやる覇洵はこの後すぐにでも信長と一戦交える気のようだ。

その様子を見ていたイシスが間に割って入る。


「なぁ、あんたさ。

 信長なんかより、封印に関係していそうな奴に心当たりあるけど」


「えっ、まだお前みたいな奴はいるのか?」


信長と義元以外には居ないと思っていた神々が他にもいる事実に驚く覇洵。


「あれ?

 あんた何も覚えてないのか……

 封印されて忘れちゃったのか?」


覇洵も封印された悔しさは残っていたが、それ以外の事はあまり覚えていなかった。

暴れれば、神々も黙っていないだろう、姿を現すだろうと考えていた。

それがもうこの地に来ているとは思わなかった。


「そ……そんなことは、どうでもいいんだよ。

 で、なんでこんなところに他の神もいるんだよ!」


図星なことを言われて気恥ずかしさが出てきた覇洵だったが、怒ったふりしてその場をつないだ。


「いやさ……

 あいつら全員来て各地のお殿様になって、戦争を楽しんでいるよ」


驚愕の事実を知った覇洵と兵衛。

一人二人ぐらい来ているだろうとは思っていたが、全員だとは思わなかった。


「はっ?

 全員来ているのか?

 それも戦っているなんて……」


「あいつら、ここの奴らを使って、権力争いしているんだよ。

 次の長を決めるための」


イシスはまたとんでもない事実を二人に伝えた。


「勝手にあっちでやっていればいいことを……

 こっちを巻き込むなんて……」


怒りが沸々と湧いてくる覇洵。

兵衛はもっと高貴な方たちだと思っていた神々の行いに、開いた口が塞がらなかった。


「あたいは……最初はそんなの興味がなかったんだけど……

 あいつらに好き勝手やられるのも気に食わないからさ。

 ちょっと参戦しようと思って……」


「ちょ……ちょっと待て。

 頭の中が追いつかん」


ブツブツ言いながら、覇洵は今まで聞いたことを頭の中で整理を始めた。

好機と思ったイシスはその間に覇洵にすり寄って抱きつき始めた。

それに気づかずしばらく考えていた覇洵がいきなり声を出す。

驚いたイシスはパッと離れていった。


「ということは……

 オレの封印と関係があるってことなのか?」


どうやらあまり整理は出来なかったらしい。

イシスが順番にかみ砕いて話を始めた。


「百年毎にさ、天界の『えら~い奴』を決める会があるのよ。

 で、今回は地上で戦争させて、誰が一番強いかで決めようってさ。

 バカじゃない?」


イシスは神々の決定に呆れて、ため息をつく。


「なんとなくわかった。

 まぁ、あちこちにいるなら、呼び出す手間もなくていいな」


「あんたを封印した奴らをあたいは知らないけどさ。

 たぶん、来ている奴らの中にはいるはずよ」


「そのうちの一人は阿渡……信長ではないだろうな?」


覇洵は阿渡の言葉に疑念を持っていた。

イシスのことは完全に嘘だったようだし、『俺様は関係ない』の言葉も嘘だろうと思っていた。


「阿渡かい?

 あたいも直接見聞きしている訳じゃないからね。

 ただ、あいつは主流派ではないから、直接は関係しているとは思えないけど」


「そうか……

 あいつは気に食わないが、そういうことにしておこうか。

 で、その主流派はどこにいるんだ?」


まずは封印した奴らが先決と考えた覇洵は、イシスに主流派の奴らのことを聞き出す。


「そうね……

 あちこちいることはいるけど、まずは武田かな」


甲斐・信濃を支配する強力な大名・武田信玄の名を上げた。


「じゃ、そいつをまずぶっ倒しにいくぞ。

 兵衛、聞いているか?」


『聞いておりますが、どういうことですかのぅ』


「だから、信玄を倒しに行くって」


覇洵の行動力に驚かされる兵衛。


『また急に……

 それは御屋形様のところ離れるということでしょうか』


「そうだ」


『いや、このまま脱走したとなれば、ワシは打ち首になりますぞ。

 さすがにそれは……』


兵衛は信長の下を離れることに躊躇いを隠せない。

ただ覇洵の思いも理解はしていたので、葛藤していた。


「なら、ここで死んだことにしてみてはどうだ?」


イシスはまたとんでもない話をしてきた。

確かに表立って死んだことにしておけば、罰を受けることもないだろう。


「まぁ、そういうことにしておけ、兵衛。

 あいつが騙されるとは思えないが、居ない理由にはなるだろ」


『はぁ……

 それで大丈夫ですかのぅ』


「大丈夫、大丈夫。

 あたいが、死体を作っておくし。

 義元と相討ちしたように見せかけておくよ」


『それで本当に信じてくれるかのう……』


「平気平気。

 あたいの偽装は完璧だよ」


『ワシが死なないのであれば、それはそれで……』


それで良しとしている訳ではないが、渋々覇洵とイシスの話を受け入れる兵衛。


「じゃ、イシス。

 あとは頼んだ」


そう言ってその場を離れようとする覇洵に、イシスは悲しそうな顔をして腕を掴む。


「あんたが動けるようにいろいろとするんだからさ。

 あたいも連れて行ってよ」


「はぁ?

 なんでお前を連れて行かないといけないんだよ」


「だって……

 あたいの初めてを……」


モジモジしながら顔を赤らめて話すイシス。


「何が初めてだ。

 オレは何もしてないって」


「あたいはさ……

 あたいに初めて勝った奴と一緒になるって決めてたんだよ」


「そんなこと知るか!」


腕を振り払い先へ進もうとする覇洵だが、なかなかイシスの手が離れない。


「ねぇ……

 あんた、お願いだよ」


甘い声で物をねだる女の子のような声を出すイシス。


「勝手にしろ!」


覇洵はやけくそになり、イシスの同行を許可した。

イシスは満面の笑みを浮かべていた。


『覇洵様……』


兵衛があきれ顔をしているのが分かった覇洵は言い訳をしはじめた。


「だってイシスなら神々のことも多少は知ってるだろ。

 だから連れて行けば利用できるかもしれないしな」


『あいわかりました、覇洵様……』


「まだ疑っているだろ!

 それ以外の他意はないからな」


やがて偽装工作を終えたイシスが合流し、共に出発する。


「よし、信濃へ行くぞ。

 主流派だかなんだか知らんが、オレがまとめてぶっ倒すだけだ!」


覇洵と兵衛の神々への下剋上(クーデター)はまだ始まったばかりだ。


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