Issue#03 I I Dreamed A Dream CHAPTER 2 02
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「……シノちゃ?聞こえてる?」
ミーティスは、心配そうに友の顔を覗き込む。シノの華奢な体つきに、
自分の大きな図体が不躾なほどに影を落とすのを、その時彼女は感じた。
「……あ、うん、ごめん。聞いてるよ」
あわてて取り繕う友人に、
「なんかさ、今日元気なくなぁい……?」
ミーティスはさらに用心深く問いかける。
「ううん――」
それに、力なく微笑んで首を横に振るシノの姿が、さなの広い胸板をちくりと刺した。
「――そういうわけじゃなくて……。今日、これからおじいちゃんのとこまで手伝いに行くんだ」
「え、おじいさんって……もしかして、北海道の?」
「うん」
シノの祖父が、北海道で名の知れた猟師であることは、ミーティスも聞かされていた。途端に、彼女の堅固な顔つきがぱっと華やぐ。
「すごい!遊びに来たの? だったら今度、おじいさんの武勇伝とか聞きたいな!」
純粋な憧憬に任せて、ぶ厚い手で自身の膝を叩く。ゴッ、と骨が鳴るような鈍い音が響き、鋼鉄製のベンチが小さく揺れた。
「いや、そうじゃなくて……」
しかし、シノの声の諧調は暗く落ちる。その声色と同時に、表情に差し込んだ影を、ミーティスはどうにも無視できなかった。
「もっと、深刻な話なんよ……」
シノはうつむき、ぽつり、ぽつりと語り始める。
「……おじいちゃん、その猟師の仕事がやっていけなくなって。……これはね、もうホント15年くらい前の話らしいんだけど……警察と揉めて、クマを撃つ許可を取り
消されたことがあったんだ。でね、それからもずっと……家にゴミを投げ込まれたり、壁に落書きされたりってことが続いたり、どうやって調べたのか、
愛護団体を名乗る人たちから1日中電話がかかってきたり……。そういう、地味な嫌がらせをされ続けてきたんだって――」
「――そんな時に、この間の新しい規制ができて……もう限界だって。北海道の家引き払って、しばらく前からこっちに
住んで、ラーメン屋を、なんとかやってる。……電話で話した時のおじいちゃん、本当に悔しそうで。自分の生き方全部を、否定されたみたいだって……」
シノが語る15年前の1件は、当時ニュースにもなっていた。
世論が生んだその歪な規制は、彼女の祖父のような一個人の生き甲斐と誇りを奪うだけに留まらず、ひいては、人類社
会と自然との間にあったはずの均衡さえも脅かしていたのだ。
消沈するシノの声。そこに含まれた祖父の無念、そして理不尽な現実に対するやるせなさと悲しみが、ミーティス
の心に直接流れ込んでくるようだった。途端に、やり場のない憤りが湧き上がる。
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