Issue#03 I I Dreamed A Dream CHAPTER 1 03
映画レビュー:『羅小黒戦記』
基本的には「『日常』のような絵柄のキャラクターが、画面狭しと躍動するバトルアニメ」という認識で構いません。
ストーリーの大半はあってないようなロードムービーとして展開され、
その根底にある「人と自然の対立」というテーマも、全年齢向けに極めて優しく描かれたものです。
しかし、本作の真価は、一見すると他愛のないエピソードの積み重ねが大きな感動へと結実する終盤にこそあります。
最後に至って 、ストレートでありながらも胸を打つ物語性が立ち現れる構成は見事です。
すぐには特定の登場人物に感情移入できなかった方も、ぜひ長い目で物語の行く末を見守ってみてください。
もっとも、アクションシーンのクオリティが終始、驚異的なレベルにあるため、退屈とは無縁なまま上映時間のすべてを過ごせるでしょう。
個人的に注目していたのは、クライマックスの空中戦における風の表現。キャラクターを叩きつける風圧の描写には、本作が多大な影響を受けたであろう『ドラ
ゴンボール』や『NARUTO -ナルト-』すら凌駕するほどの執念が宿っています。
総評として本作は、かなりの満足度、いかなる但し書きや条件もなく、誰にでも自信を持っておすすめできる一作です。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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*
その年の7月、札幌はアスファルトが陽炎を立てるほどの熱気に包まれていた。梅雨が明けた列島を覆う湿った空気の
中、ヒグマの目撃情報はついに市街地にまで及ぶようになる。
だが、そんな状況を無視するかのように、政府と警察は「致死的武器の使用抑制」方針を打ち出した。過熱する世論に
配慮したその新基準は、クマへの対処を、原則として新開発の猛獣用テーザーや麻酔銃に限定し、猟銃の使用を最終手段と
する、というもの。
言うまでもなくそれは、死の危険性と隣り合わせの現場から、最後の牙をもぎ取るにも等しい決定だった。
その日も、郊外の住宅地で「体長2m超」の通報があった。早朝から集まった警察、猟友会、獣医師の間に、じっとりとした緊張が漂う。
「いいか、絶対に撃つな。まずはテーザー、次に麻酔だ」
陣頭指揮にあたる警部の声が、夏の空気そのもののように重くのしかかる。猛暑だけのせいではない、汗の滲む顔で、警官たちは非殺傷銃の安全装置を外した。
その時、住宅裏のブロック塀の隙間から、黒い巨体が現れた。
包囲網に臆するどころか、一直線にこちらへ向かってくる。駐車場のフェンスが、まるで網のように歪められた。
「来るぞ、テーザー用意!」
最前列の若い警官が、震える手でテーザーライフルを構える。思考が追いつかない。熊が地を蹴る。距離が、一瞬でゼロにな
る。テーザーの電極針が、風に毛先を波打たせながら迫りくる巨体に触れたか、触れないか――その刹那、衝撃がすべてを粉砕した。
「――ッ、ぐ!」
警官の身体が宙を舞い、数m先の路上に叩きつけられる。アスファルトに背中を強打し、くぐもった悲鳴が漏れ
た。
仲間が銃口を向ける。だが、指が引き金にかからない。脳裏に焼き付いた「非殺傷」の3文字が、生存本能にかけた枷
となる。ほんのコンマ数秒の躊躇。
その静止した時間を破ったのは、猟友会の射手が放った1発の威嚇射撃だった。轟音に驚いたクマは、そこでようやく雑木林
へと身を翻す。
現場に残されたのは、アスファルトにうずくまる若い警官と、火薬の匂い、そして規則の無意味さを問うような、重苦しい
沈黙だけだった。
救急車のサイレンが鳴り出す。警部が、やり場のない怒りを奥歯で噛み殺している
と、部下の1人が絞り出すように尋ねた。
「警部……」
「……なんだ」
「俺たち、こんなことで本当に何かを守れているんでしょうか?」
……警部は答えなかった。答えられるはずもなかった。
ゆえにその問いは、アスファルトの陽炎のように輪郭を得ぬまま立ち上っては、ただ昼前の空気に溶けていくしかなかった。やがて、遠ざかるサイレンの
音も、男たちの無力な沈黙も、すべては狂おしいほどに鳴り響く蝉しぐれの奥へと吸い込まれていった。
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