Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 47
家でやる手巻き寿司の最後の方ってリソース管理ゲーだよな
余りがちなかいわれやキュウリをどう配分するかだし
少なくなった刺身に対しては自制心が問われるってワケ
ゲートに没する緑の空洞を脱し、ラバシティに戻ったカルテット・マジコの4人は、数日の間、地底世界にとどまって地上と
の橋渡し役に徹した。その仕事は多岐にわたり、暫定的に新指導者となったヨルシカともども、息つく暇もほとんど見つからない。
おせちは、この混乱の最中にあって、驚くべき政才を発揮していた。彼女は、統治者としてのみずからの経験不足や不向きを悟りながら、
それでも新女王として立つことを余儀なくされたヨルシカの心細さを誰よりも早く見抜き、今後の国家経綸に関するいくつもの要訣を、抜かりなく授けていたのである。
……具体的には、以下のようなことを述べた。
王政は、戦後の混乱を収めるためひとまず継続すべきこと。その当事者たる君はさぞかし不安なことだろうが、
その大業を成し遂げられるのは世界で君だけであり、民衆は君をしのぐ不安に苛まれている。
そうした事実を心に刻み、常に人々の規範として果断に振る舞うこと。また、遺恨を断ち切るために革命派や
クーデター加担者の罪は不問とし、将来的な共和制への移行を約束して手打ちとすること。
そうすれば約束は果たされ、君も最低限の責務をこなして自由の身分となれる。
そして、その約束が口先だけで終わらぬよう、革命派の代表者などもメンバーに含んだ、憲法制
定議会や監査機関をすぐに立ち上げ、具体的な進捗を民衆へ定期的に発信し続けること。
くわえて、元革命派の構成員――すなわち潜在的な不穏分子に対しては、各国の難民受け入れなどに乗じた国外移住の機会
を1度は用意してやること。なぜならば、それこそが思想の折り合いを最後までつけられなかった者たちとのもっとも寛大な別れ方であると同時に、
国内の火種を安上がりかつ確実に消すための策だからだ。
今のところ目立った動きはないが、先王派――すなわち旧体制を支持する人々――の懐柔や融和が、
今後この国にとって最大の課題となり得るだろう。ただし、この件に関しては外部の立場から一律にこうせよと命じることはできない。
あえて助言をするならば、彼らとは事実で戦うべきだ。専制政に基づいたテラリアキングの独断が、
今回、いかに自分たちの国家を存亡の危機に陥れたか。地上世界の怒りを買い、
孤立したかという現実を、感情論ではなく理屈で、繰り返し訴え続けること。
しかしそれと同時に、テラリアは確実に断罪を受けるわけでなく、地上との和解の道がまだ残されていることについても併せて強く主張するべきだ。
そしてその可能性を実現するには、今こそ皆が歩み寄り、新しい体制の構築に参画してもらわねばならないという1点を、念入りに説くこと。
……ただ、説得だけでは動かない者もいるだろう。特に、旧体制下で甘い汁を吸っていた既得権益層は、イデオロギー
よりも経済的な理由で、新体制の転覆を画策してくるはずだ。だからこそ、硬軟織り交ぜた対応が必要になる。旧体制
の有力者であっても、恭順の意を示す者には、そのプライドを満足させるだけの地位や名誉を保証してやるといい。だ
が、最後まで抵抗し、サボタージュやテロといった陰湿な手段に訴える強硬派は、むしろ見せしめとして、躊躇なく断
罪すべきだ。その徹底した使い分けが、まだ揺らぎがちな君の政権の足元を、いち早く固めることになる。
とはいえ、どれほど慎重に取り組んだとしても、再度の武力衝突が起こる可能性は否定できない。
しかし明言しておくと、我らカルテット・マジコはたとえ要請されたところで通常の武力衝突に関与するつもりはない。
大前提として、テラリアの国内問題は君たち自身で解決すべきだからだ。
だが、もしその衝突の背後に、今回のシャカゾンビやキングのように超常的存在が暗躍している、あるいはマルチバー
ス技術が悪用されるといった、君たちだけでは対処不可能な『超政治的』な脅威が確認された場合は例外とする。その明
確な兆候を掴んだ時は、ためらうことなくカルテット・マジコに救援を求めてほしい。介入の線引きは、そこにある。
次に外交について。国民には先ほどのように説明しつつも、国際交渉の場では現実にはそこまで臆する必要はない。地下という
地の利、完全な食料・エネルギー自給率、そして世界屈指の工業力と4億の民。テラリアはまぎれもない超大国だ。交
渉はその地位にふさわしい矜持をもって臨むべきだろう。ただし、それは尊大な態度を取れという意味ではない。侵略行
為に踏み切ったのが事実である以上、交渉の初期段階では、まず真摯な謝罪の姿勢を見せることが重要になる。その上で、
不当な要求に対しては『償い』として技術提供や人道支援を提示し、交渉の主導権を握ること。
仮に国際社会から過去の非を執拗に糾弾されるような場面に直面した場合は、すべての責任を「旧体制の専横」としてテラリアキング個人に帰属させる論調を徹底すること。
新政権としての潔白と変革の意志を前面に押し出し、必要があれば“痛いところ”をすべて前王に押しつけるかたちで、
国そのものへの批判を巧みに回避せよ――これが、超大国としてのしたたかさである。
一部は繰り返しの話になるが、信頼の回復は、テラリア独自の技術や資源を平和利用や人道支援の目的で地上に提供することで成し遂げるべきである。
そうしたソフトパワーの行使によって、国際的な地位を地道に築いていくべきこと。
ただし、もたらされたマルチバース関連の技術については、決して外交の切り札にしてはならない。それは最重要
機密として永久に封印すべき、宇宙を破壊しかねない『神の火』であり、現状の人類にとって早すぎる力に他ならない。
ひとたびその存在が知られれば最後、地上の国家はそれを奪うか、テラリアごと破壊するために、あらゆる手段を講
じてくるだろうから、絶対に秘匿すること。
「……最後に、ここまでくるとさすがにもう当たり前のことすぎて、余計なお世話かもしれないけど――」
マグコア・セントラルの塔頂で、眼下に広がる街の復興模様を眺めながら、おせちはヨルシカに語った。
「――テラリアはずっと鎖国を貫いてきた国だから、お節介ついでに言っておくよ。
地上の国々を『地上』ってひと括りには考えないこと。国ごとに利害はまったく違う。君たちの技術を欲しがる国、軍事力を脅威と見なす国、
あるいは今回の件に全く興味がない国。それぞれの思惑を見極めて、個別に対応を変えていくんだ。そうやって、時
間をかけて味方を増やしていく。
こんな状況下で、それでも友好を申し出てきてくれた国があったら、それはハッピーだよ。よほどのならず者国家でない限り、仲良くしてお
いたほうがいい。国家間の敵味方なんて30年もすれば簡単に入れ替わる。今のうちから、次の時代の“友達”を作ってお
くんだ」
その冷静な分析と未来への洞察に、ヨルシカは始終感服するほかなかった。




