Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 42
止まない雨はないより先に君が着ている服と靴とバイクをくれよ
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「ダメだ、あんなのに付いていったってお菓子もロクにくれないぞ!」
ホットショットは茶化すように叫ぶが、その声はあくまで悲壮に響く。
「ねぇ、いいの?こんなのと合体したら、絶っ対ッ、今の君のままじゃいられなくなるよ!?」
鏡面から溢れ出す底なしの神威が、イムノの右半身を凍てつかせる。だが彼女は恐怖を振り払い、心の底から、そう訴えかけた。
それがマクロブランクの逡巡を打ち破った。
「……ッ!おせち、なんでお前にそんなこと言えるでちゅ!?」
マクロブランクはムキになって言い返す。この時、彼ははじめて感情を取り返したようだった。
「見ればわかるよそんなこと!誰がどう見たってわかる!むしろ君が1番そう思ってるから足が止まってたんでしょ!?
ホントはそんな還り方、嫌なんでしょ?だったら、一緒に考えようよ!
今の君を失わずに、体を取り戻す方法がきっとあるからさ!」
「そうだよ、そっちの方が絶対いいよ!」
スヌープキャットも、迷いなく言葉を重ね、
「マクちゃん!」
ミーティスは、なおさら真摯な瞳でマクロブランクを見つめ直す。
その訴えに、マクロブランクのゼリー状の体が肯定と否定の間でぐにゃりと揺らめいた。
「……もう、そんな悠長なこともう言ってる場合じゃないんでちゅ!チャンスはもう今だけ!短い間だったけど、お世話になったでちゅ!」
しかし彼は、その迷いを振り払うようにそう叫び、意を決してゲートの光へ飛び込む。その途中で、反射的に放たれたミーティスの呪符
が彼の体を絡め取った。後悔を編み込んだ絹糸のように、無数の札が優しく、しかし、それ以上はけして先には進まさぬ意志をもって空中で捕
縛するのだ。
「離せーでちゅ!」
「ごめんね……マクちゃん!」
ミーティスは涙を浮かべ、心から申し訳なさそうに、その小さな体を抱きしめた。
そのあまりにささやかな抵抗が、宇宙の意志をわずかにためらわせる。脳の動揺を映したのか、伸びかけた光の枝が
いちど激しく揺らめき、そして、おそれるように後退した。
「……おせち!」
ホットショットが緊迫の声を上げる。
「わかってる。ゲートを閉じる!」
イムノは即断し、コンソールへと手を伸ばした。
その冷徹な決断を、マクロブランクの聴覚が痛いほど拾い上げる。
「やだやだ、なんででちゅか! わちきは還るんでちゅ! これを逃したら、もう2度と……!」
呪符の檻の中でもがくように、彼は鏡面へと必死に触手を伸ばす。その顔というべき器官が苦痛と絶望に醜く歪み、やがて甲高い嗚咽が漏れ始めた。
その懸命な動きの先に、巨大で柔らかな影が滑り込む。スヌープキャットだった。
敵意はない。ただ、どうしようもない哀れみをその瞳に浮かべ、彼女は進路を塞いだ。その体で、どこまでも静かに、しかし
決然と。
「どくでちゅ!このゲートはワチキが元の世界に帰るための、唯一のチャンスなんでちゅぅ!!!」
金切り声が、草原に悲痛に響き渡った。
「ごめんよ、でもこれだけはなんと言われてもダメなんだ」
イムノは静かに、しかし有無を言わせぬ声音で言い切った。
彼女は、重い遮断レバーを、躊躇なく引き下げる。
鏡面の向こうで、生ける星雲が、まるで運命を悟ったかのように、いちどだけ強く脈打った。
「――」
そして、世界は無慈悲に閉じられた――。




