Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 1
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740(本家)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658(4,5p目にキャラクターのコンセプトアートあり)
https://www.pixiv.net/artworks/132158061(さなの顔 別のキャラだけど大体これ)
サブタイトルの元ネタ:同名のゲームより
最近の更新時間帯:夜?
【大切なお願い ぜひご一読ください】
有名な作品と無名の作品の間に存在する大きな隔たりは、実のところ作品そのものの出来不出来によるものではなく、主として宣伝や口コミの
量によって生じるものです。率直に申し上げて、この理屈には「ひとえに」という言葉を付け加えてもなお言い過ぎではないほどの確かさがあります。
人類80億に向けて十分に宣伝が行き届いた作品は、ほぼ間違いなく――その確率は99パーセントを超えるほど――時代に大きな潮流を生み出すでしょう。
そこで私は一つの試みとして、この信条に基づき、今作については例外的に積極的な宣伝を解禁したいと考えています。
そもそも『ソーミティアユニバースnovel/series/8245320』として発表してきた一連の作品群において、私はこれまでそのようなことを一切行ってきませんでした。
簡単に言えば、私の人間としての本質は老子やヘンリー・ダーガーのような「隠者」に近く、物語が有名になることは少しも魅力的な刺激ではなかったからです。
したがって今回の「積極的な宣伝」という方針は、本タイトルに限って言えば、とある理由によって思い立った気まぐれな味変――そして、先に掲げた論理を具体的に実証してみようとする試み、ということになるでしょう。
つまり、私はこの作品に、これまでの拙作にはなかったある種の「公共性」を感じているのです。
私の創作活動とはそもそも、内向きに完結したものであり、作品の公開はオフラインRPGを攻略し終えた後のセーブデータを配布するようなもの――常にささやかな、主として潜在的な同行の士に対する社会貢献のつもりで行ってきました。
ところが今回、この作品に感じる公共性は非常に大きく、それゆえに積極的な宣伝という手段を選ぶ価値さえあると考えたのです。
もっとも、宣伝という営みは、GAFAMの例を持ち出すまでもなく、世界中から優秀な人材が集まる分野であり、彼らでさえ日夜、人に商品を認知させるために四苦八苦しているほどです。
そうしたことを思えば、宣伝とはそもそもそう容易に成し遂げられるものではありませんし、それに気を取られるあまり、作品そのものの質が損なわれてしまっては本末転倒です。
また当然のことながら、人の死や災害といった不幸に便乗するような形で話題を集めることは避けたいと考えています。
あくまでも節度を保ちながら、この作品に私自身が感じている公共性に見合うかたちで、慎ましくも積極的に伝えていければと思っているのです。
そこでお願いがあります。
ファンの皆様のお力を、ぜひこの作品にお貸しください。宣伝の主力を、どうか”外部委託”させてください。
SNSでのリポストや当ページのブックマーク、いいね、友人・知人へのお薦めなど、積極的な“布教活動”を通じてこの物語を広めていただければ、これ以上に心強いことはありません。
皆様の熱意こそが、この物語に新たな息吹を与え、遠くまだ見ぬ誰かの心にまで届けてくれると信じています。
どうかその情熱を、この作品と共に分かち合っていただければ幸いです。
よろしくお願いします。
The Most Magically Chaotic Quartet on Earth!
Quarteto Magico
issue02 UNDERTALE
CHAPTER 1
この日、主を失った蛇蠍山とその周辺――どこまでも続く針葉樹の樹海を包んでいたのは、けしてただの闃寂な暗がりではなかった。
たしかにある時点までは、そこにはなお、氷雨の日にも似た冷気と、地上に定着した雲海とでも呼ぶべき、霧の混沌が広がっていた。
樹々の梢は静けさのなかでかすかに揺れ、苔むした地面には幾重にも積もる朽葉と露、そして虫たちのか細い呼吸が重なり合い、
平野の空気はひときわ重く沈んでいる。
幾千万もの針葉の先端は、眠りこけた空気にそっと寄り添い、その底知れぬ感覚は、しばしば、この地に“この世ならぬもの”さえ
引き寄せてきた。
そんな、薄暗くとも大らかな秩序の支配が――莫大な力によって、唐突に、しかも容赦なく引き裂かれることとなったのである。
森の一角を貫いたのは、世界そのものさえ震撼させる崩落の音だった。
直径数100mにも及ぶ範囲の地表が、遠くから寄せる重たい波のように膨れ上がり、岩盤には網目状の亀裂が走った。
土は湿った苔ごとむしり取られ、木の根が苦しげにねじれ、その土台となる赤茶けた地層がむき出しになっていく。
やがて断裂したそれぞれの大地は粉々に砕け、轟きを伴って激しく回転しながら宙へと突き上がった。
砕かれた大地は、見る者に地球の深奥との直結を直感させるほどの暗い大穴に、抵抗らしい抵抗もほとんど見せないまま呑み込まれていく。
土砂と岩屑と絡まり合った巨木の濁流が、きめ細かな砂の斜面を途切れなく滑降していけば、
一帯には地響きがたえず起こり、大いなる樹海の輪郭すらさかんに揺らいで見える。
すると次の瞬間、森という森が、長いあいだ没頭していた眠りから――いっせいに覚醒したかのような、劇的な光景が立ち現れた。
茶褐色の粉塵が、噴火めいた激しさで天空へと舞い上がり、砂嵐となって森の全域を覆い尽くしたのだ。
その、たえず揺れ動いて空の青ささえ侵さんとする不定形な幕の向こうでは、輪郭もおぼろな影たちが、
黒々と盛り上がり、崩壊する針葉樹の海原を切り裂いて、次々とその姿を現していく――。
数100台にも及ぶ「メタルスラッグ」が、それぞれに固有の砂煙を棚引かせて地上を進攻する。
『スターウォーズ』のタスケン・レイダーや、『ボーダーランズ』のバンディットを思わせる蛮夷の仮面と防砂用のローブ――その上から、金属片を雑多に貼り付け、スクラップ片を継いで銃の形に設えたような、見たこともない様式のブラスターライフルを手にした兵士たちが、地底性の巨大ナメクジを改造した有機的な戦車にまたがっているのだ。その機械部品を埋め込まれた軟体動物たちの両腰には大型の2連レーザー砲が装着され、臀部には高出力エネルギーシールドのジェネレーターが取り付けられ、動き出した砲口は一斉に森の奥を眈々と狙う。
さらには、赤々としたマグマを孕んだ溶岩石を積み上げて作られたかのような、全長40mに及ぶ人型の巨人たちが現れる。
その姿はつま先から頭頂まで常に荒削りかつ、信じがたい剛力と共にあり、2体が1組になって横並びに闊歩すれば、ただそれだけのことで
大地自体がどよめいた。
彼らの両手には、地球の奥底の熱で直接鋳造された極太の鎖がそれぞれ1本ずつ握られ、その鎖の先には不自然に溶接された砲塔や、いびつな装甲板をつぎはぎにして造られた陸生の軍艦――全長200mはあるだろうか――が連なっている。
鉄と溶岩が混ざり合う不規則な質感の塊が、指のない扁平な足で砂利を擦りながら進み、
赤熱したひび割れからは仄かな光が滲み出して、砂嵐に包まれた進軍の壮大な軌跡に、縦長の幽かな影を刻む。
そうした怪物と、艦艇の出現が3度と繰り返されたのち、
その後方からは、過積載の武装を抱えたドリルタンクや、タカアシガニを思わせる巨大戦闘プラットフォームが、
荒々しく砂煙を巻き上げながら列をなし、無数の鉄の脚と履帯が大地を刻む音だけが、次第に森の静けさを飲み込んでいった。
極めつけは、地表そのものを豪快に削り取る勢いで進撃する、全長1200m・体幅90mのメタリック・モンゴリアンデスワームだ。
その長大な姿は鈍い金属光沢に覆われ、うねりながら進むたび、ワームの大きすぎる身体に引きずられるように地面も渦を巻き、螺旋状に盛り上がっていく。草木や岩は、そのねじれる土壌ごと巻き込まれ、続々と地下に呑み込まれていった。
ワームの肩にあたるわずかな膨らみからは、装甲化された触手が10本以上も伸びている。
それらは普段、身にきつく巻き付いたまま本体と連動し、細かな岩盤や土壌を絶え間なく掘削していた。
その体表には、無数の傷痕や凹凸が刻み込まれ、進軍のたびに日光を断続的に反射しながら、遠目にも異様な光彩を放つ。
やがてワームが頭部を高々ともたげると、鋼の皮膚を持つ10数の触手が曲線を描きつつ、一斉にほどけて砂嵐の中へと伸びていく。
ややあって、その至大なる肉体がたとえようもなく雄大な滞空の跳躍を敢行する。
全周から鋭い歯が放射状に迫り出す彼の特異な口蓋が、大地を打ち据えたその瞬間、
すさまじい規模の砂の波濤が軍勢の背後に轟然と立ち上がり、周囲の空気までも激しく揺り動かした。
触手が追うように地中へと突入し、獲物を探るかのごとく慎重な動きで砂塵をかき分けていく。
その先端からは、ときおりほのかな電光が閃き、渦巻く砂煙のなかで一瞬だけ青白い光が点滅した。
……すなわち、この怪物の進撃――ひとつの巨いなる虫が、地球そのものを舞台にして行う蠕動こそが、連鎖する崩壊を地表に呼び起こし、
森という森を粉塵の嵐で塗り潰していく、終わりなき破壊の中核にほかならなかった。
軍勢の、すべての兵器群がこぞって奏でる直管排気の爆音は、金属の胴体に反響して彼ら自身の耳膜を激しく打ちつける。
その音は、まるでこの軍勢そのものが上げる笑い声のように、周囲の空間を圧倒していた。
灰色の煙が靉靆と空に揺らめき、太陽の光は濃密な粒子によって汚染され、昼間の視界を乳白色に曇らせていた。
湿気を含んだ空気は排気の油と混ざり合い、肺の奥底まで苦く沈み込んでくる。
混沌と轟音、そして抗いがたい圧迫感が、蛇蠍山の麓一帯を強引に呑み込んでいく。
死者の行進よりもなお不気味で、おぞましさに満ちたこの進軍は、世界の一隅が根こそぎ異質なものへと塗り替えられていく、その只中の光景だった。
機械化された蛮族たちのパレードは、濁りを帯びた明るさのなかに、どこか白昼夢めいた非現実の手触りを残している。
だが、あまりに激しい騒音と砂煙の暑苦しさ、そして排気煙の暴力的な密度が、この場面に幻想の美しさや安らぎを差し挟む余地を一切与えはしないのだ。
……これらすべての光景の先頭に立つのは、「テラリアン」と呼ばれるこの地底人たちの中でも選りすぐりの精鋭を魚鱗の陣形に従えて、エイプハンドルが付いた特製のメタルスラッグを駆る男――「テラリアキング」だった。
この地下帝国の専制指導者は非常な矮躯でありながら、筋骨自体は異様なほどに隆々とし、並外れた存在感を放っていた。胸元まで無造作に伸ばされた髭は銀の縁取りが入り、顎から腹にかけて堂々たる波を打つ。巌のような輪郭の顔には深い笑い皺が刻まれ、鋭いサングラスの奥からは陽気さと老獪さを帯びた視線が覗く。
肩から重ね着したレザーとデニムのベストは、アメリカのバイカーギャング「ヘルズエンジェルズ」を思わせる派手なワッペンと
金属リベットで飾られ、たくましい胸板を際立たせている。両肩には骸骨を取り囲んだデスワームという意匠のタトゥーが踊り、
指や首元ではごついリングやチェーンのアクセサリーが重たい光を放っている。手には分厚い指ぬきグローブ、腰には重厚なベルトとツールバッグ――そして、油と泥にまみれたジーンズも、老練な威厳と誇りをどこかに漂わせている。
足元のウェスタンブーツには拍車が付き、インナーイヤーのイヤホンから流れる「モーターヘッド」のプレイリストに合わせて、
時折ごきげんにメタルスラッグの背を蹴ってみせる。ハーレー風のハンドルを軽々と操る彼は、エンジンの唸りにすっかり五感を同調させていた。
その全身からは、「現代に降り立ったドワーフ」とでも言うべき、土と機械油、そして無骨な自由の匂いが濃厚に立ち昇っている。
「……全体止まれェ!ここらでいい……」
テラリアキングは、しゃがれていながらも鞭の1打のように快活な声を背後の軍勢に投げかける。
そして彼は部下たちの中から特に選りすぐりを引き連れ、あえて徒歩で、蛇蠍山の灰色の大階段を、実に堂々と登り始めた。
その歩みには、分厚い着ぐるみを着て動くような窮屈さが常に付きまとっていたが、それ以上にただならぬ威圧感と、底知れぬ自信が全身から溢れている。
一方、階段の頂上では、シャカゾンビの軍団――プロディジーとハヴォックが、身体中に湿布や包帯を巻いた痛々しい姿で、
恐慌寸前の表情を浮かべ、山麓を見下ろしていた。
「なんか……なんか凄いのが来たぞ!?どうすりゃいい、プロディジー!?」
「落ち着けハヴォック……!だが、ヤバさは間違いなく本物だ……!」
このまま進軍を許せば、山そのものを押し流しかねないほどの、大軍勢の唐突な到来だった。
蛇蠍山の山頂広場では即座に緊急の会議が始まり、カーディB――シャカゾンビの使い魔であるカラスにして、テラー・スクワッドの暫定頭首――が中心となって応対の手筈を整えようとする。
「相手は地底人のテラリアンだ!しかも、ボスのテラリアキング本人が来てやがる。ヤツには顔が効くから俺が行く!お前らはすべての兵器をスタンバらせとけ!……一応な!」
そして、ライフルの銃口を傲慢に揺らしながら灰色の大階段を登り詰めてきたテラリアキングの一団に向かい、
カーディBがただならぬ声で呼びかけた。
「……なんだ、お前!地底人!ボスは今、作戦中でいらっしゃらないぞ!?」
「おぉい、つれないな、カーディBィ……!このあとすぐ『ありがとうございます、テラリアキング様』とむせび泣くことになるのによ――」
テラリアキングはいかつい笑みを浮かべつつも、どこか底知れぬ声色で、滞空するカラスの威嚇に応じる。
そのまま彼は、配下に威勢よく声をかけた。
「――見せてやれ!今日はお前らに鑑定してほしいモンがあってやってきたのさ!」
ちょうどその時、階段を上がりきった部下たちが、2人がかりで担いできた白い石棺を、広場の中央へと恭しく据え置いた。
蓋が“すりこぎ”を擦るような鈍い音を立てて開かれると、濃縮された防虫剤の匂いが一気に辺りへと広がる。
(あっ、この匂いは『ヘヤマモルン』だ……!……うちでも使ってる)
なじみのある刺激臭に思わずクチバシをそらしつつも、カーディBは閉じかけた片目で、しっかりと棺の中身を見極めようとする。
紫のビロードに丁重に包まれたその中身――それは呪物とも、宝物とも、あるいは貴重な漢方薬とも見紛うほどの荘厳さと重みを湛え、
そこへ珍蔵されていた。
やがて明らかになってきたのは、バラバラになった古い人骨と、それをかつて覆っていたであろう洋風甲冑の残骸の質感だ。
どれも大きな焦げ跡にまみれていたが、ただひとつ、“特別”な存在だけが原形をとどめている。
それは、全体に青く仄かな光を宿して、傷跡のペイントが斜めがけに3本走った骸骨……すなわち、この歴史がかった
白骨死体の正体とはまぎれもなく――
「…………!ボスゥッッッ!!!」
カーディBは声を裏返らせ、絶句した。
その見え透いた反応に、テラリアキングは口角を満足げに吊り上げ、あからさまな笑みを浮かべる。
「――というわけで、こいつが今回の依頼品だ。本人評価額は強気に出てみて……そうだな、『1000億ドル』ってとこかな。
いや、もちろん他の基軸通貨で払ってくれてもいいぞ?」
「いっっっっ、せっ……!!!!!」
カーディBの脳裏に、雷鳴のような衝撃が奔る。
その叫びは、笑うしかないほどの驚愕そのものだった。
――シャカゾンビの身柄の引き渡しに、まさかの天文学的な代価が突きつけられた!
テラースクワッドの暫定当主は、はたしてこの事態にどう動くのか……?
「……待て、せめて先に頭だけは返してくれ!」
気が遠くなるような額に弱り果て、カーディBはせめてもの要求として、そう懇願する。
「あん?」
「魔法の台座に乗せさせてくれ!それでボスは喋れるはずなんだ!」
「ああ、そういうことか。――いいだろう」
テラリアキングは、洗ってもいない野菜のように太く無骨な五指で、青白い骸骨を敬意のかけらもなくわしづかみにした。
それを投げ渡されたプロディジーは、ハヴォックがちょうど持参してきた"魔法の台座"へと向かう。
その台座は瑠璃と金の粒をびっしりと敷き詰められ、サマルカンドの壁面装飾さながらに仕立て上げられた精緻な一枚皿で、
プロディジーは、まるでプランターに土をやさしくかけるような両手づかみで、丁寧に頭蓋を据え置いた。
その瞬間、骸骨の瞳窩がぎょろりと怪しく光った。
「ボス、お帰りなさい!」
カーディBが、主人の帰還をひとまずは喜んでみせる。
「ああ、カーディBか。よくぞ吾輩を、あの海溝の底より見つけ出したな。大儀であったぞ」
「いえっ、あの……めちゃくちゃ言いにくいことなんですけど、
大儀なのはオレじゃなくて……テラリアキングです。あなたの体は、ヤツが回収しました!」
「……なんだと?」
シャカゾンビの表情が、にわかに険しくなる。
「それで、その……あなたの体と引き換えに、金を要求してまして……」
「……いくらだ」
表面張力で限界まで満たされた水面に、さらに1滴を注ぐような不安を胸に、彼はおそるおそる問い返す。
「……1000億ドルです!」
「いっっっっ、せっ……!!!!!」
瞬間、シャカゾンビまでもが声を裏返し、絶叫した。
「そんなもの……!ここにある資産すべて差し押さえたとしても到底足りんわ!」
怒号とともにシャカゾンビの頭は、台座の上で跳ね回る。
その様子を見ていたカーディBは、肩を大きく落とし、羽根をだらりと垂らしていたが、ふと何かに気づき、顔つきを強ばらせる。
「えっ……差し押さえ?まさかその勘定に、俺の鳥籠も含まれてたりしませんか?」
勘のいいカラスの問いに、シャカゾンビの頭蓋骨はぴたりと動きを止め、やけに素直な様子で頷いた。
「ん?そうだな。その通りだが……?」
「そんなぁ!こんなことなら……いっそ帰ってこなくてもよかったのに!」
カーディBは絶望的な顔で頭を抱え、バタバタと羽を鳴らしながら地面を踏み鳴らす。
だが、その嘆きを逃さなかったシャカゾンビが、じろりと鋭い眼差しを向ける。
「……何か言ったか?」
「いえっ、なにも!」
カーディBはびくりと身を強張らせ、即座に背筋を伸ばした。
その場に残ったのは、ひどく妙な静けさと、山を越えて吹き抜ける風の音だけだった。
「内輪もめは交渉の後にしてもらおうか……」
テラリアキングが、低くドスの効いた声でそう言った。
「久しぶりだな、テラリアキング……。お前の行為には……まあ、恩義は感じている。だが、なあ、その――なんとかなりはせんか?」
シャカゾンビが、珍しくも事の明文化を避けながら、譲歩の色を帯びた口調で訴えた。
それを聞いたテラリアキングは、肩をすくめ、ふてぶてしい笑みを浮かべる。
「“なんとか”ってのは……もういっぺん海に投げ込んでほしい、って意味か?」
「いや、違う、違う!もちろん体を返してほしいに決まってるだろう。だが、ほら……金額が金額だ。せめて、もう少し融通を――」
「まさか値引き交渉か?まったく地上ってところは、どいつもこいつも住んでる内に頭が緩んでいくらしいな――なぁ、シャカゾンビ。
地下の、あの気持ちい~い空気を吸ってシャキっとすれば、そんなふざけた提案、俺が乗るわけないってすぐわかるはずだぜ」
「待て待て、額面を値切る気はない。だが、せめて……1年だけ、猶予をくれぬか!」
「――『1ヶ月』だ!」
テラリアキングは、食い気味に遮る。
「お前が好き勝手に体を乗り換えられるのは知ってる。だから先に釘を刺しておく。
今回請求するのはボディの引き渡しじゃなくて、“レッカー代”だってな」
そう言って、彼は分厚い手首に巻かれたデジタル端末――もはや腕時計というより腹帯のように見える代物――のボタンを淡々と押した。
ディスプレイが点灯し、数字が切り替わる。「29:23:59:59」。
日数まで巻き込んだ巨大なカウントダウンが、無慈悲に、淡々と進行を始めたのだった。
「……お前の頭には、爆弾をバッチリ仕込んである。起爆までは、このタイマー1つで自動で管理だ。
爆弾のグレードも、お前みたいな“特権階級のアンデッド”に恥ずかしくない最高級品を選んでやった。安心して身につけてくれよ?――」
テラリアキングは、涼しい顔のまま言葉を継ぐ。
「――外そうとしたら爆発。電波の送受信が一定時間切れても爆発。
そして――いつものように、別の死体に逃げ込もうとして、霊力が規定値を下回った瞬間も“ボン!”ってわけだ。
火力もな、このサイズにしちゃ笑えるほど高い。せいぜい、粉々に吹っ飛ばされる準備でもしておけよ」
「な、なんだと!?……た、頼む!1000億ドルだぞ?」
シャカゾンビの声には、先ほどにも増して懇願の色がにじんでいた。
だがテラリアキングはどこ吹く風。
ツールバッグからバーボン入りのスキットルを無造作に取り出すと、豪快に喉を鳴らして飲み干し、
清々しい音を立てながら、唇からそれを引き抜いてみせた。
「よく聞け。俺はな――金払いの悪い奴と、嘘つきだけは心の底から嫌いだ――」
そう言って、腰のショットガンに指をかけながら、蛇蝎山全体をゆっくりと見渡す。
「――もしお前が、その“両方”を兼ね備えたクソ野郎に成り下がったとしたら……」
その声音は次第に低く、地鳴りのような重みを帯びていく。
「……地下帝国の全戦力を総動員して、この山ごと森を地表から吹っ飛ばす。
お前の財宝も、胡散臭ぇ呪物も、影も形も残さねぇ。……覚えておけ、“口の利けるしゃれこうべ”」
「……わ、わかった。そこまで言うのなら、何としても用意するとも。必ず――」
「期限を過ぎれば、契約も恩義もすべてご破算だ。……1ヶ月。それが俺の“恩情”ってやつだ」
テラリアキングの低く広間を転がる声に、シャカゾンビは舌打ち混じりに苛立ちを吐き出す。
「チッ……!ハヴォック、プロディジー、今すぐ財産目録を洗い出せ!
だが――すべての兵器を今ここで明け渡すわけにはいかん。実働戦力まで失っては意味がない。……それから、貴様らの給料も一時カットだ!」
「ええーっ!? なんで俺たちまで……!」
巻き添えを食らったふたりの獣人は、あからさまにショックを受けて抗議の声を上げる。
だがその声に、ほんの少しばかり主人の焦りが乗って聞こえたせいか、ようやく彼らも事態の深刻さを肌で感じたようだった。
そのとき、テラリアキングがくつろいだ調子で会話に割って入る。
「……ああそうだ!支払いは別に現物でも構わん。んでもって、“誠意”と“実行力”のバランスは好きにしたらいい。
1月後にすべてが上手くいってりゃ、こっちはそれでいいんだからな?」
石のテーブルを囲む一同の間には、なおも緊張が残りつつも、どこか妙に間の抜けた空気が漂いはじめる。
青白いシャカゾンビの頭蓋骨は、内心の動揺を必死に抑え込みながら、威厳だけを無理やり貼り付けるように黙していた。
彼は、静物のように身じろぎもせず、しばし思案に沈んでいた。
やがて、地底人たちがぼちぼち席を立ち始めた頃――その絶妙な間隙を突いて、
骸骨は台座の上で下顎を跳ね上げ、声に重みを帯びさせてこう切り出した。
「現物でも構わないのなら……たとえば、“情報”はどうだ。中には価値のあるものもあるはずだ。
……たとえば、オールラウンダーが娘を持ち、そのガキどもがヒーローとして活動を始めた……などという話は?」
だが、テラリアキングは腕を組み、鼻先で乾いた笑いを洩らす。
「お前がそいつらに負けたってことまでこっちはバッチリ突き止めてる。つまり、その情報の買い取り価格は、なんと驚きの0ドルだぁ……」
鷲鼻の下に揺れる髭が、満足気に微かに震えた。
その余裕に、周囲のメタルスラッグ・ライダーたちも小さく失笑を交わす。
だがシャカゾンビも黙ってはいない。
2500年の年輪を背負った彼は、瞬時に気勢を立て直し、声を切らさず応酬する。
「いや――それに加えて、オールラウンダーとその娘たちが、すでに貴様を標的の一角として捉えているという情報を、
わがテラー・スクワッドの諜報網が掴んでいる。もし吾輩が奴らを事前に討てていたならば、決して世に出ることはなかったはずの情報だ。
その点においては、いささか忸怩たる思いを禁じ得ぬが。……詳細が知りたければ、それに見合う“額”を掲示することだな」
その声音には、交渉の主導権だけは手放すまいとする、亡者の執念がこもっていた。
テラー・スクワッドのボスが、地底人の王を相手に口八丁の大立ち回りを繰り広げていた、そのちょうど裏手――
大広間の奥、魔法陣がうっすらと浮かぶ床を擁した薄暗いコンピュータルームでは、カーディBが慌ただしくキーボードを叩いていた。
「……ヤマ張っといて正解だったぜ!ボスが情報を切り札に使うのなんて毎度のことだからな!
どうせまた、ありえねぇヨタを並べるだろうと思ってよ、こっちはその前に、でっち上げレポートをゼロから用意してんだよ!」
モニターに向かい、羽根でマウスを器用につまみ上げながら、焦りに満ちた声が漏れる。
「――でもダメだ!間に合わねぇ、間に合わねぇっっ!!……チクショウ、ここのグラフはAIに丸投げ、証拠写真は拾い物、
とにかく中身はからっぽでも見栄えだけはよくしとけ!」
冷や汗が首元を伝う中、画面いっぱいにフリーフォントで“CONFIDENTIAL”のスタンプを叩きつけて、
「ボス、レポートは“3秒後”に出来ます!――いや、もう出来た体でいけ!」
そう息巻きながら、カーディBはUSBメモリをクチバシで引き抜くと、焦燥に駆られた羽音を響かせつつ、大広間へと舞い戻っていった。
「これがその情報だ!――内容は保証するぅ!」
首を振りながら吐き捨てるように、USBメモリを石のテーブルに投げ置く。
テラリアキングはそれを無言で拾い上げると、隣に控える部下へ雑に手渡した。
受け取った手下は、それを地底製のタブレットへ素早く挿入する。
石製の筐体の背面には、とろろ昆布めいた精密な溝が走っていて、
機械は、まるで技術の古代と未来を混交させたようなもののように見えた。
ローブの胸元をほのかに照らす青白い光の中、部下はしばらくのあいだ黙々と検分を続け、やがて特に異を唱えることもなく頷いた。
それを視界の端で捉えたテラリアキングは、ふてぶてしく足を組み直し、腰に差したスパナをカチャリと鳴らす。
「……はは、いいだろ!『10億ドル』で買ってやろ」
その瞬間、石のテーブルの上には奇妙な静寂が降り立ち、取引成立を告げる電子音がひときわ孤独に響いた。
カーディBは小さく羽を跳ね上げ、シャカゾンビも思わず声を重ねる。
「「本当か!?」」
「1月で1000億ドルを稼ぐ勢いがある奴にとっちゃ、10億ドルなんてモン誤差だろうしな!」
そう言ってテラリアキングは、拳をテーブルにどんと置き、豪快に笑い飛ばした。
その言葉に、石椅子を囲むテラリアンたちもどっと沸く。
胸をなで下ろしたカーディBは、地底人たちの視線の届かぬ背面――そこの羽毛を一斉に逆立てる。
自分がでっち上げたレポートがはたして本当に役に立つのか、
それはすくなくとも今この場において、誰にも知る術がなかった。
「じゃ、今日のところはここまでだ。1週間に1回は連絡を寄越せよ……期待してるぜ!」
テラリアキングの号令とともに、地底人の軍勢は直管エンジンの轟音と砂煙をまき散らしながら、
みずからの手で大地に刻んだ荒野を逆流していく。
その川のように長大な列は、地平線の彼方にぽっかりと口を開けた巨大な闇の穴へと、ことごとく収まっていった。
……やがて、場には再び静寂が戻る。
その沈黙を破ったのは、カーディBだった。
「……まずいことになりましたね、ボス」
「まったくだ。これは我が人生における、確実に“第3の危機”よ――」
さすがのシャカゾンビも、この時ばかりは本気で落ち込んだ様子を見せる。
「ウルジクスタンでオールラウンダーに本気で滅ぼされかけたとき、
そして……奴の娘に“新鮮な海底暮らし”を強いられた時以来のな。
あれはもう願い下げだ。深海のよくわからんサメに鼻を齧られ、塩水で脳天がスースーする暮らしなんぞ、2度とゴメンだ」
「でもボス、今回ばかりは冗談になりませんよ? 借金取りなんて地上だけでも手ごわいのに、地底からも追ってくるなんて……」
プロディジーが不安げにぼやく。
「金、どうすんだよ……オレら、汗水たらして真面目に働くとか絶対無理だぜ?」
ハヴォックも腕を組み、頭を抱えた。
「そうだな……今は、とにかくカネの算段を立てねばならん」
シャカゾンビは思案顔をつくりながらも、すでに内心では次の1手を固めている。
(……しかし、一概にこの状況も悪いとは言えまい。たったひとつの機転で、
ガキどもと地底人の潰し合う芽が生まれたのだからな。
今はむしろ、『災い転じて福となす』と考えておくべきだろう)
その時ふと、彼はカーディBの方へ目をやり、ごく僅かな眼差しの変化で合図を送る。
カラスは即座にその意図を察し、ちいさく頷いた。
「まさかボス、地道に働くとか言い出さないですよね……?」
プロディジーが皿を覗き込みつつ尋ね、
「それができりゃ、こんな山奥で世捨て人なんてやってないっての!」
ハヴォックが投げやりに吐き捨て、
「ねぇ、どうするんです?」
カーディBも、場の空気に乗りつつ不安を口にする。
シャカゾンビは、ひと呼吸おいてから静かに応じた。
「なに、答えは至って簡単だ。
この世界には、吾輩たちのような無法者だけに許された『禁断の選択肢』がある。
つまり――すでにその額を持っている連中から、根こそぎ奪い取ってしまえばよいのだ――」
そして、忌々しさとほのかな愉悦を帯びた声音で、しゃれこうべの身を小さく揺らす。
「……幸い、1人のビリオネアとは比較的容易に接触が可能だ。
吾輩がかつて仕えた国家――ウルジクスタンの元大統領、イスマイル・トゥラベコフ。その長男カリムよ。
奴は司法取引に応じたことで一族の中で唯一逮捕を免れ、今や石油利権で贅を尽くす身となったが、
人間としては、正直なところ『スカタン』、『ボンクラ』――、
西側の諜報機関に『うっかり供述し忘れた』秘密をちらつかせてやれば、すぐにでも交渉の場を用意させられよう」
「まーたろくでもない計画だな……」
カーディBが翼を腕のように組んで、呆れ声をこぼす。
「なるほどな、さすがボス!」
プロディジーが快哉を上げ、
「……じゃあ、さっそく電話を!」
ハヴォックが広間の片隅にある通信台から受話器をつまみ上げ、駆け寄ってくる。
カバの獣人が手にすれば、そのごつく肉厚な掌のなか、人間用の白い電話機など玩具にしか見えない。
ハヴォックはそれをシャカゾンビの眼前に差し出し、どこか待ちきれない様子で言葉を継いだ。
「……さあボス、かけ時と見たら、迷わず一発いきましょう!」
石の広間には、一瞬だけ緊張と期待が交錯する。
シャカゾンビは仰向けに置かれた受話器をじっと見つめ、場の空気をじわりと噛みしめたのち、口を開いた。
「……よし、始めるとしよう。吾輩たちの大博打をな。
ファーストベットから、ひとつの敗北も許されぬこの特別なゲームを……」
その宣言とともに、乾いたコール音が石の広間に響き渡る。
闇と光の交錯する空間で、無法者たちの新たなる賭けが、静かに幕を開けた。