Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 39
プロディジーとハヴォックが思うシャカゾンビのいいところは
過去の部下と自分たちを比べるような怒り方は絶対にしないところ
「なんだ、この煙――ッ!?」
蟲を手綱で操る身である以上、抗いようもなく煙幕へと突入したホットショットが叫ぶ。
やがて、赤い煙のカーテンを突き破って現れたワームの群れは、その姿を清浄な大気に晒した瞬間、豹変した。
装甲の節々が憎悪に満ちた赤光を灯し、統制の取れていた動きは痙攣的な暴威へと変わる。
その凶暴な意志は、手綱を通じて衝撃波のように少女たちを襲った。
「っうぇ!すごい匂いだよ、これ……!」
煙の中から身を出したスヌープキャットは鼻を押さえ、目に涙を浮かべて呻く。
彼女の獣の五感には、煙の強烈な刺激がより強烈に襲いかかっていた。
「はちる、大丈夫?」
隣のワームの背で、ミーティスが心配そうに叫ぶ。
「だいじょうぶ、だけど……これ、虫を狂わせるフェロモンかも!」
スヌープキャットは鼻をこすりながら答えた。
「ああ、なんかヤバくないか?ワームが――」
ホットショットが疑念を口にしかけたところで、
「言うことを聞いてない感じがするっ……!」
イムノが短く補う。
「ダメだ!全然こっちの操縦が通じなくなった!……おい、直れ、テレビッ!45度の角度だ!」
飛翔して距離を取ったホットショットが、ワームの巨大な頬へ怒りの飛び蹴りを叩き込む。だが、金属の巨体は意にも
介さず、甲高い咆哮と共に岩盤を砕き、ただ破壊の衝動のままに暴れ狂った。
「ワームが、完全におかしくなっちゃった!」
ミーティスの悲鳴が、荒れ狂う金属の海に呑まれる。彼女たちのコントロールを完全に振り切った怪物の群れは、ただ
破壊の衝動に身を任せ、一帯を極限のカオスへと変えていた。
「ダメだ、いったんゲートまで撤退しよう!このままじゃ、ワームたちが空洞の天井ごと食い破る!」
イムノが雷のソイルを蹴って跳躍し、空気を切り裂くように叫んだ。
「ゲートまで逃げてどうするんだ?ここで踏みとどまるしかないんじゃないのか!」
火の玉となったホットショットが、すぐそばを飛び抜け様に、手を真上に伸ばしたミーティスの体を吊り上げ、ドッキング飛行の体勢に入る。
「ゲートの暴走を利用するんだよ! テストの失敗を思い出して!あれを意図的に起こして、この空洞をワームもろとも質量で埋め尽くすんだ!」
イムノが、思考よりも早く指示を返す。
その背後、昇降機へと向かうテラリアキングが、1度だけ足を止めた。
側近に支えられながら、彼はゆっくりと顔を上げる。暴走するワームの群れを、逃げ惑うカルテット・マジコを、そし
て《緑の空洞》の広大な天蓋を、生涯忘れまじ光景としてその目に焼き付けた。
その口元に浮かんだのは、敗北者のものではない。
すべてを道連れにする者だけが見せる、歪んだ満足の笑みだった。
「――ハッ、小娘どもが。これで、あのワームを制御する術はなくなった」
滑り出した密室の扉が閉じる直前、彼は乾いた独白を吐き捨てる。
「いずれ奴らは、この空洞を喰らい尽くし、脆弱な天蓋にも牙を剥く……。結局、俺が手を下さずとも、勝手に地獄は出
来上がるってわけだ。じゃあな、小娘ども。――干からびた世界で、また会おうぜ」




