Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 38
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残された軍勢は、もはや上官の命令も耳に入らない。
「逃げろ!無理だ、勝てるわけがない!」
「やめろ、来るなぁ!」
恐怖に歪んだ叫びがそこかしこで上がり、彼らは武器を投げ捨て、蜘蛛の子を散らすように四方八方へと敗走を始めた。
統率を失った軍勢は、もう、ただの烏合の衆でしかなかった。
シャカゾンビは、テラリアキングの胸ぐらを掴み上げた。ガントレットの指が、分厚いレザーベストに深く食い込む。
「ワームがやられたぞ! どうするつもりだ!」
だが、キングはその手を荒々しく振り払い、苛立ちを剥き出しにして一喝した。
「構わねぇ!それより、赤い蝋燭を倉庫からありったけ出して、急いで炊け!」
「それが……何になる?」
シャカゾンビの問いには、凍てつくような直感がにじむ。
「紫の蝋燭とは正反対よ。奴らの狂暴性を極限まで引きずり出すフェロモンだ!――もうヤケだ、何もかも巻き込んで地球ごと終わらせてやる!」
狂気に染まったその言葉を聞き終えた瞬間、シャカゾンビの身じろぎがぴたりと止まり、眼窩の光から一切の感情が消
え失せた。
「ふん、くだらん――」
「なにぃ!?」
「カタストロフだけは吾輩の本意ではないと、かねて言っておいたはずだ。その覚悟ならば、ここで袂を分かつまで!
――では、さらばだ!」
言い放つや否や、シャカゾンビはヤギ頭の杖を天に突き上げ、空いた片手を弓を引き絞るように構える。
その刹那の動作から放たれたのは、雷以上の何か。マンションの1棟さえ容易に消し飛ばすだろう禍々しい矢印状の閃光が
キングの全身を呑み込んだ。
「……ぐっ!」
衝撃の瞬間、すべてを白く焼き尽くす閃光が炸裂し、キングの矮躯は悲鳴すら上げる間もなく、黒い煙を纏って地を転
がる石ころのように吹き飛ばされた。
その姿を一瞥すらせず、シャカゾンビはマントを翻し、混乱の只中へと姿を消していった。
「クソッタレぇ……構わねぇ、お前ら、やっちまえ!」
呻くテラリアキングは、虫師の腕に支えられながらも、最後の命令を吐き捨てた。
その号令が、地獄の釜を開く合図だった。
見渡す限りの丘陵地帯に突き立てられた無数の蝋燭へ、一斉に禍々しい火が灯る。赤黒い煙が粘性を帯びて立ちのぼり、
地を這う赤い海のごとく、またたく間に荒野を覆い尽くしていく。




