Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 27
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「……おせちさん、一言一句、あなたのおっしゃる通りです――」
やがて、ヨルシカがしずかに口を開いた。その声は、一命を賭したあの降参の経験を経て、かえって澄んでいる。
「――あなたの分析には、ただ感服するほかありません。しかし、どうやってそこまでの予測を?」
その問いに、おせちは視線を眼下の街へ落としたまま、淡々と答えた。
「君たちテラリアンは、今ある土地さえ持て余してる。私たちはここへ来るまでに、完全に打ち棄てられた
た地下道をずっと辿ってきたから、そのことは感覚で知ってたんだ――」
彼女はそこでいちど言葉を切り、まだ消火が追いつかずに燃え盛る街の一角へと、その視線を据えた。
「――なのに、テラリアキングは地上の支配を口にする。なら、欲しいものは豊かな自然に決まってるんだよね。
あとあそこ、君を人質に取った場所。謁見の間か何かだったのかな?あそこの緑にあふれた光景を見て確信したよ。……大体はそんな感じの、かんたんな推論だよ。
……あっそうそうそう!最後にこれも。これは偏見だけど、この国はご飯が美味しくなさそう、っていうのもあった」
飄々とした語り口でありながらその芯を食った答えに、王女はふたたびび息を呑んだ。
自分たちが自明としてきた世界の有り様を、この地上から来た少女が、わずかな情報から、より深く、そして正確に看破
していることに。
巨大なファンの、山なりになった斜面を颪のように下ってくる熱風に髪をなびかせながら、おせちは呆れたように言った。
「……でも、その空洞が手に入った時点で、満足しておくべきだったんじゃない?緑豊かで海よりも広い土地なんでしょ?それ以上何を望むのさ?」
プリンセスの口が、動こうとする。返答までに1拍の間があったのは、言葉にできない感情を整理するためだった
のかもしれない。
「私自身、何度も申し上げてまいりました。しかし父の――あの方の覇権主義的な傾向と、国軍を私兵のごとく扱う姿勢は、今に始まったことではないのです。
ひとり娘である私のことは殊のほか大切にしてくださるものの、その一点に関しては、いかにお諫めしても、けっして耳を貸そうとはなさいませんでした。
そうした中で起こったのが、先日のドバイでの事件、そして、いま直面しているこの未曾有の世界的な混乱です。
ひとりの人間として、私はもうこれ以上、黙して父に従うことはできないと思いました。
この身がいかに扱われようとも、同じ地球に生きる者として、地上世界の滅亡だけは、何としても阻まねばならない――
そう、固く心に誓ったのです。
だからこそ、父王を1度は撃退したというあなた方に未来を託す覚悟を、私はあの瞬間に固めました。
ここにあらためて宣言いたします――私欲のために100億の民をも犠牲にしかねぬ父王とは、金輪際、袂を分かちます」
やがて、その声は静かな諦念を湛えながら、ひとつひとつ言葉を選ぶように訥々と紡がれるようになった。
それは、遠く響く哀歌の余韻にも似て、場にいる者すべての胸の奥をそっと満たしていく。
「……海のすべてを受け入れてなお余りある、あの広大な緑の光景こそ、私たち地底人が、いつの日かと夢見続けてきた理想郷――まさしくその結晶だったのです。
本当なら、あの光景にたどり着いたその時こそ、私たちは歩みを止め、心から満ち足りるべきだったのでしょう。けれど……」
その瞳は、今や戦火に遠い、かの地の静かな緑を幻視しているかのようだった。されど、と王女は思う。あの理想郷で
さえ、父の地上に対する渇望を癒すには至らなかったのだ、と。
おせちは何も答えず、ただ唇を固く噛み締めた。熱風が、2人の間の沈黙を弄ぶように吹き抜けていく。




