Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 26
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……無辺の自然光が満ちる巨大な地下空間――《緑の空洞》。
その蒼翠の只中に設営されたテントの内でテラリアキングは、ホログラム化された軍事マップにじっと視線を落としていた。
かたわらのシャカゾンビは、腕を組み、高みの見物といった風情でたたずんでいる。
そこへ伝令兵が、キングの進路を阻むように膝をつき、息を切らせて叫んだ。
「総長ォ――!地上で戦ったガキどもが、俺らのケツを追っかけてシマまでブッ込んできやしたッ!
それと並行して、首都じゃあ今ドデカい反乱が起こってます!」
キングの片眉がわずかに動く。
「……あぁん!?」
その返事はすべてをひと息には呑み込めない困惑の色を帯び、部屋を照らす光さえどこか色褪せさせてみせた。
伝令兵は仮面の下の口角を引きつらせながら、さらにまくしたてた。
「こないだのケンカのことをネチネチ言ってきやがった、あの鬱陶しいデモにガキ共が加わって、
本格的なクーデターになっちまったらしいんス!奴ら、不満分子をまとめて引き連れ、王宮に突入――
総長のご家族を人質にしてラバシティを丸ごと封鎖しやがったんです!
もし海底の岩盤をブチ抜くような真似したら、報復に炉塔を爆破して街を地獄に叩き落とすって宣言してます!」
「……嘘だろ!? なんでンな事になってんだぁ! シャカゾンビ、テメエの差し金か!?」
報告が終わった瞬間、部屋全体に響くほどの怒声が漏れる。
「お門違いというものだ。吾輩とて、奴らには煮え湯を飲まされた身。利害は一致しているはずだが?」
しかしシャカゾンビは、煙たそうに彼の敵意をあしらった。
「ちくしょうっ……!」
テラリアキングはゆっくりと両腕を広げ、天井を仰ぐ。外では、草原の上に控える金属の巨獣が、
呼応するかのように巨体をかすかに揺らめかせる。
「目には目を……テロにはテロをってことか……?」
ウェスタンブーツが床板を苛立たしく鳴らす。
「――全軍に伝えろ!
ラバシティに通じる道は全部封鎖ァ!ただしいつでもブッコめるように準備しとけ!
動ける幹部は全員ここに集めろ!これ緊急の集会だ!」
「押ッ忍ッ、ただちに!」
伝令兵が叫び、踵を返して駆け出す。
こうして地下帝国は、地上世界と地下、地下とカルテット・マジコという二重の膠着状態へと突入していったのだ。
……それから数時間が過ぎたわけだが、元より人工の灯火と溶岩の流れに照明事情の一切を託すラバシティの景観は、
まるで凍りついたように変わることがない。
非常事態下であれば、なおさらのことだ。都市全体を包む熱と光は、時の流れさえ拒むかのように、ただ赤黒い明滅を繰り返している。
「……とりあえず、誰も動くに動けない状況を作れたのは良かった。
テラリアキングの『海を干上がらせる』っていう脅し――あれは絶対にハッタリじゃない。
あのワームがいるなら、いつでも実行できるだろうし、そうなれば地上の人類は終わる。そこまでは、たぶん事実なんだ。
……でもね、それはあくまで脅しでしかない。
彼が本当に欲しいのは、死んで乾いた星じゃない。水も緑もある、いまのままの地球だと思うんだ。
たしかに地底人なら、干上がった世界でも生きていけるでしょ。
でもそれじゃ、今の地下帝国と同じものが地上に広がるだけだよね?そんなもののために、
あんな大掛かりなことをするとは思えない。
つまり、彼には地球を荒廃させる考えなんて、元々ないんだ。
彼の目的は、あくまで現状の地球の支配。海を人質にした、壮大な脅迫。
……それが、このゲームの本当の盤面だと思う」
……《マグコア・セントラル》の塔頂。
地底の空気を吸い込み、重々しく吐き出す巨大な排気口。その外縁部は、あたかもキッチンシンクのごとく無機質で、何の装飾もなければ温もりもない、
いわば金属の一枚板の冷ややかさと光沢が支配している。しかし、その殺風景な場所には、屋上広場としての機能も備わっていた。
ふたつの人影が近いところにあった。熱風が、おせちのカーディガンと、テラリアプリンセス――「ヨルシカ」と名乗った――の瀟洒な上着の裾を、
絶えず近い律動で揺らしている。
一方、すこし離れた手すりの上では、アシュリーが膝を掛け、まるで干された布団のように上半身をだらりと垂らし、
逆さまの景色をぼんやりと眺めている。その目は遠くのマグマ川にも、地上のどこかにも焦点を結ばず、何かを思い定めているようだった。
隣では、はちるが手すりに胸を預けて街の様子を心配そうに見下ろし、その傍らで、さなは床にちょこんと座り込み、
保護された奇妙な生命体――マクロブランクの様子を気遣わしげにうかがっていた。脳髄から直接
手足が生えたようなその生物は、触手をせわしなく動かしながら、周囲の構造物や熱風の成分を分析しているのか、何
事かぶつぶつと呟いている。
眼下に広がる都市の混沌は、今となってはひとまずの落ち着きを取り戻しつつあった。




