Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 12
「……急に新パターンの決起集会だな」
アシュリーが、苦笑しながら言った。
「普段こういうのやらないから。1回やってみたかったんだよね」
おせちの口元に、ほんのわずかだけ柔らかな笑みが浮かぶ。
「なるほど、たしかにいいかもな。……ああ、そうだ。母ちゃんやダチを泣かすには、あたしたちはまだ全然早い。それ
に、敵が何もしないうちから勝手にピンチになって死ぬのは、さすがにダサすぎる。
そんなの化石になって見つかったところで墓碑銘も『期待外れのアホ』に決まってるもんな」
そしてアシュリーはふと目を細め、3方向から差し出された拳たちに視線を落とす。
引きかけた己の拳を、口づけのやわらかさで重ね直し、
そのまま、そっと奥までねじ込んでいく。頬を寄せ合う代わりのように。
かくして絶対的な闇は、少女たちの行為を無事に聖別する。
……言葉は不要だった。ただ拳に宿る温もりと、その奥で脈動する決意だけを媒介と
する、原始にして誠実な魂の契り。それは、家族の絆という目に見えぬ概念が、確かな熱を帯びて触れ合う、まさにそ
の先端なのだった。
しかし、おせちだけは、
「ちょっとやめてよ! なんでそんな満足そうな顔するの!?」
本来なら手放しで感慨に浸り続けるべきその時間、まるで誓いが成立したことを今さら悔やむかのように、慌てて拳を引っ込める。
「なんだよ?」
アシュリーが、不完全燃焼の感覚をありありと言葉に乗せる。
「だって、アシュリーがそんな素直だと、いよいよ最終回みたいだし!」
「……人を“地震の時のテレ東”みたいに言うなよ!」
言葉を交わすたびに、張り詰めていた空気が、着実に解きほぐされていく――
そんな時だった。
〈……たち……るでちゅ!?〉
「……ん?今の誰?」
耳の奥をくすぐるような甲高い声に、4人は一斉に顔を上げた。
「さな……お前、まさかもう頭が……!」
同時に、アシュリーが愕然とした顔つきになり、憐れみの目をさなに向ける。
「えっ、わたし!?ちがうよ!?今のほんとに、わたしじゃないもん!」
さなが必死に首を横に振った。
「じゃあ誰の声ぇ!?」
はちるが目を見開き、落ち着きなく周囲を見回す。
「さっきの爆音……あれも考えてみたら人の声だったかも」
さながぽつりと漏らすと、
「なら、もう1回通信できないかな?」
はちるが期待を込めて訊いた。
思い立ったように、さなははちるの通信装置へそっと体を伸ばし、マイク部に口を近づける。
「……あのっ」
そして、祈るように、か細い声を吹き込んだ。
すると、次の瞬間――
〈ブィンッ!……ザザッ……聞こえているかでちゅか!? そこの地下キャンパーの諸君ッ!〉
通信装置が悲鳴のような音を発し、本体が激しく震えはじめる。
電子ノイズの向こうから、神経を逆撫でする金切り声が、鼓膜を直接突き破ってきた。
「うわっ……!」
「うるさっ!!」
4人は、たまらず耳を塞ぐ。
通信の主、それは、脳髄から4本の触手を生やした異形の生命体、マクロブランクに他ならなかった。




