Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 09
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「――にゃおおおおおおおおっ!!」
ネコ科の咆哮とともに、その爪先が岩盤を削り始める。機械にも勝る速度と精密さで、硬い岩肌をかき氷の
ように細やかに粉砕し、その破片を絶え間なく後方へ弾き飛ばしていく。左右にしなやかに動く尻尾が、飛
び散る礫を巧みにいなし、後続の3人に当たらぬよう配慮しているのも見事だった。
アシュリーたちは、岩片を避けられるだけの間隔を保ちつつ、同じく四つん這いで、その後をつかず離れず追いかける。
その頭上では、さなの呪符が数枚ひと組となって、まるで複数の人間の、足跡だけを可視化するかのように、天井をぺたぺたと渡り歩き、
沈下しかけた岩盤を点として支えていた。崩落の兆しがあれば、墨の文様が淡く光って補強を施す。
だが、一行が通り過ぎた直後からは、かりそめに保たれていた空間が、まるで彼女たちを追いかけるように連続して崩れ落ちていった。
行軍は、絶望的なほど長く続いた。
掘り進めた先に、新たな空洞へ抜ける手応えはない。空気の流入を告げる微風もなく、ただ瓦礫の密度と、
地底の重圧だけがひたすらに増していく。
閉鎖された空間に、削岩音だけがくぐもって反響していた。
やがて、はちるの動きに明らかな変調が現れる。
肩の上下動が浅くなり、呼吸が深く、苦しげになる。手の運びは徐々に精彩を欠き、鈍重になっていった。
それは単なる疲労ではない。酸素の欠乏と、吐き出した二酸化炭素の蓄積が、その強靭な肉体さえも着実に
蝕み始めていた。
「……う~ん。ちょっとストップするね……」
ついに彼女は手を止め、徹夜明けのように目を細めて呻いた。
耳を刺すような削岩音が途絶えると、洞内は再び、墓場のような沈黙に支配される。
その横顔には、疲労よりも濃い、迷いの色が浮かんでいた。
その気配を、3人はすぐに感じ取った。
ふたたび結界の”かまくら”にこもると、4人は肩を寄せ合い、そっと身を潜める。
岩と土に閉ざされた密室。沈黙を破るのは、護符から伝わる微細な振動と、自分たちの遠慮がちな呼吸音だ けだ。
「……一枚岩じゃなくて、瓦礫だけを掘り続けてこの状況ってことは、崩落が相当大規模だったんだと思う。
下手したら、何kmって単位で考えないといけないかも……ニャス」
現場の最前線を担うはちるが、慎重な口ぶりで状況を告げる。その落ち着いた声は、夜の砂浜に寄せる波のように、
皆の心へすんなりと染み入った。
「生き物の声や風は聞こえる?今」
おせちの問いに、はちるは首を横に振った。
「……じゃあ、次は気を取り直して上だね!」
しかしこの姉妹に限って、おせちにも、他の誰にも不思議と落胆の色はない。
「うん!『ここ掘れニャンニャン大作戦』、セカンドレグのキックオフだね!」
はちるもまた、あっという間に元気を取り戻していた。
心機一転、4人は掘り進む方向を真上へと定める。
まずは砂塵を直接浴びぬよう、はちるだけをかまくらの反対側に、残る3人は彼女に尻を向ける形で四つんばいになった。
はちるが作業を再開すると、その態勢のまま、アシュリーたちも人間離れした膂力を活かして上方へ進む。
――その動作に与えるにはあまりに滑稽なほどの俊敏さで、「はいはい」しながら。
岩の層を掻き崩して生まれた一時的な縦穴を、彼女たちは一心にのぼっていく。
その様は、まるで限られた気泡が、硬質な水の中を垂直に立ち昇っていくかのようだった。
しかし、その行く手が突如として脈打つような熱を帯び始めた。
それは気温の上昇としても、手のひらに伝わる岩壁の温度としても、生命の鼓動のように、はっきりと感じ
取れる。掘り進めていた岩の先端――その表面が、不吉な朱色を滲ませ、うすく明滅を繰り返していた。
……光。
こんな地下の深奥で、人工物によらないそれが現れること自体が、摂理からの逸脱だった。
はちるは思考より先に、本能で危機を悟った。
すると、次の瞬間――
「……?」
額に、ぽたりと落ちる液体の感触。
頬をつたうその熱さに、思わず顔をしかめる。
見上げた先では、岩の裂け目から、赤黒く粘性を帯びた液体が――溶岩が、じわじわと溢れ出していた。
「マグマだああああああ!!」
はちるの絶叫が空間を揺らすと、叫びに応えるように裂け目が一気に広がり、そ
の奥から、灼熱の奔流が、質量を持った太陽のように押し寄せてくる。
「――ッ!」
さなの念が炸裂する。呪符の束が宙を切り、マグマの流路へと殺到した。10数枚の札が瞬時に展開して光の
壁を編み上げ、即席の封印を施す。だが、それはあまりに脆い、時間稼ぎの堰でしかなかった。
「潜れッ!!」
アシュリーの怒声が響く。
もはや言葉を待つまでもなく、4人は天敵に追われる蟻のように、
みずから掘り崩した土砂の隙間へと、恥も外聞もない必死の掘り様で雪崩れ込んだ。
直後、呪符を乱雑に重ねて作られた光の封が轟音とともに砕け散る。
解放された溶融の津波が、無人となった穴をなめ尽くし、あらゆる
ものを原色の熱で塗り潰していった。




