Issue#02 I UNDERTALE CHAPTER 5 06
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マクロブランク 人間形態 ラフスケッチ(4話以降の姿)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740#5
「~~ッ!!」
脚の感触は、獣の毛皮を逆撫でしたときのようにざらつき、
熱のある柔肌の上を、無数の細脚が一斉に這いまわる。
硬質な棘を備えた足が、関節や脇腹、衣服の縫い目を確かめるように潜り込んでくる。
腹部は柔らかく膨れ、小刻みに波打ちながら、皮膚に無言の接触を与えていく。
まぶたや唇にまで這い寄る触角。口をつぐみ、目を閉じていても、なお“在る”という感覚が消えてくれない。
かゆみと、微細な痛覚だけが、終わりなく降り注ぐ雨のように彼女たちの全身を叩いていた。
列は果てしなかった。さなは、まぶたを固く閉ざし、口を引き結んでただひたすらに沈黙を守る。
おせちは、息を止めたまま、震える手で抜くか否かを迷いながら、ガンブレードの柄をお守りのように握りしめた。
「……が、我慢しろ、抜けるまで動くな……っ!」
最も胆力を持つアシュリーだけが、唇を噛み締めながらでも声を発することができた。
「ホットショット」の異名を持つ彼女でさえ、この状況では火を使うことを選べなかった。
天井はもろい。着火すれば、崩落は避けられないだろう。
いま彼女たちは、音も火も、ただの「死」へと直結する世界に生きているのだ。
地を這う密集した脚の音、翅が擦れ合う際のこまやかな振動、
そして湿り気を帯びた殻が皮膚に触れるたびに残していく、言いようのない不快感。
それらの感覚が、耐えがたく引き延ばされた数10秒――あるいは数分にも錯覚されるほどの長さで、
ひたすら彼女たちを包み込んでいた。
そして、ようやく。
列の尾を引く最後の虫影が、彼女たちの来た道の奥へと消え、
あの流動体のような列は、完全に闇へと呑まれていった。
洞内に、ふたたび息の詰まるような静寂が取り戻される。
しばらく、誰も口を開きはしなかった。全員がただ、肌にこびりついた忌まわしい感覚――それがいまだ現在進行形であるかのような錯覚に、
黙して耐え続けていたからだ。
「……行ったね――」
最初に声を出したのは、おせちだった。
だがその声も低く、慎重だった。
「――とにかく。何が起きても、大声は絶対にナシで行こう。
こんな地底だよ?天盤が崩れでもしたら、さすがに私たちでも無事じゃ済まない」
と、彼女は仲間に釘を刺した。
「……CIAがさ、旧道のデータならあるって言うから入ってみたけど……
そりゃ誰も使わないわけだ」
アシュリーが虚脱した調子でぼやく。
「……うん……」
はちるはうつむいたまま、気の抜けた返事を漏らした。
顔色はまだ青白く、さきほどの出来事の残響――いや、むしろその渦中に、まだ囚われているかのようだった。
「ま、私はここで悪くなかったけどさ。”記念品”が拾えたし」
気を取り直すかのようにおせちは、ポケットから、ゲームソフト「ET」の砂まみれになった
カートリッジをすっと取り出し、かすかなにやつきと共に撫でてみせた。
「あっ、それ行く時拾ってたやつ!」
さながぱっと反応する。
「まさかアラモゴードの埋め立て地の近くがそうだなんてさ。灯台下暗しってやつだよね。
廃棄業者の人、あんな穴ほじくるくらいなら、最初からそっちに捨ててればよかったのに」
……1982年末、世界的な大ヒット作となった映画『E.T.』の熱狂の中、アメリカの大手ゲームメーカー、アタリは大きな賭け
に出る。わずか5週間という、異例の突貫工事で公式タイアップゲームの開発に踏み切ったのだ。
しかし、その拙速は裏目に出た。完成品はおよそゲームと呼べないほどの内容に乏しい代物で、発売と同時に市
場からは「史上最悪のクソゲー」という評価を浴びせられる。
またたく間に巨大な不良在庫と化したカートリッジは全米各地の倉庫に溢れ、会社の経営を圧迫していった。進退窮まった
アタリが下した最後の決断は、やがてビデオゲーム史に残る伝説となる。
同社は、350万本とも言われる在庫の一部、実に72万8000本(ただしこれには、『パックマン』など他の売れ残りも
含まれる)をニューメキシコ州アラモゴードの砂漠へ輸送。そして、深く掘った穴にそれらを投棄し、
コンクリートを流し込んで永久に封印したのである。
この一連の出来事は、後に「アタリショック」と呼ばれるビデオゲーム業界の大不況を象徴する事件として語り継がれ、
真偽不明の都市伝説として多くの人々の記憶に刻まれていった。
「お前、レゲー好きだもんな。帰ったら――どれだけのクソゲーか、みんなで味わってみるか?」
アシュリーは、嘲りとも悪戯ともつかぬ感情を滲ませ、口角をゆるく歪めた。
「うん、うちのアタリ2600が、カートリッジスロットを乾かして待ってる。
――ま、とにかく、今は先を急ごう」




