Issue#03 I I Dreamed A Dream CHAPTER 3 19
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『麺屋 穴もたず』が姿を消してから、いく晩かが過ぎた。
夜、通りを挟んで向かい合うふたつの店舗。そのあいだに横たわる舗道には、光と影、生と死を分ける境界線そのもののような趣きがある。
片や、ハヤカワの店からは、命そのものの営みを思わせる温かな照明と、香ばしい醤油の匂い、さらには人々の弾むような談笑が溢れてくる。
対照的に、『穴もたず』が入っていた雑居ビルの1階には、光さえ届かず、あらゆる音や気配が吸い込まれていくような虚ろな闇が広がるばかりだ。
その闇のすぐ脇、アシュリーとおせちは、寒さに肩を寄せながら、白い息を吐いて立っていた。
「……監視しようにも、敵は思ったより周到だね。あの店の常連客を追えば、何かわかると思ってたけど……この調子じ
ゃ、その人たちも、もうこの街にはいないのかもしれない」
おせちが、空っぽの店舗が宿す底なしの虚無を見やりながら、わずかな諦めを漏らす。
「なら、片っ端から当たるしかないか。
不動産屋とか、引っ越し業者とか……この界隈で夜逃げ同然に消えたヤツがいないか、地道に探ってみるしかないな」
アシュリーは、苛立ちを隠しもせず、雑居ビルの低い外壁に目を向ける。
と――
ふいに、路地の入り口に見覚えのある作業着姿の男が現れた。
先日、あの『穴もたず』で恍惚の表情を浮かべていた常連客の男だ。
男は、もぬけの殻となった店舗を残念そうに一瞥すると、ため息をつき、
観念したような足取りで、ハヤカワの店の暖簾をくぐっていった。
あわててLEDのスタンド看板に身をひっこめたアシュリーとおせちは、上下に顔を並べて、
気配を消しながら店内の様子をじっと窺う。長いようで、短い30分弱。
やがて、あの男は再び姿を現した。だが、その表情に、以前見せていた満足の影はみじんもない。むしろ、眉間に皺を寄せ、何か腑に落ちないものを噛みしめるように、どこか苛立ちを滲ませながら店を振り返っていた。名残惜しげに『穴もたず』の跡地へと視線を送り、それでも未練がましく肩をすぼめて夜の繁華街から遠ざかっていく。
その背中を見送ると、アシュリーは唇の端に皮肉な笑みを浮かべる。
「……決まり、だな。北海道に行く前に、まず地元の”コイツら”シメとくぞ」
おせちは、静かに首肯した。
男が求めていたのは、人間社会の“美味”ではない。あれは「クマ人間」の本能にだけ響く、
特別な餌だった。――それは、論理的に導き出せる唯一の結論だった。
ふたりはすぐに動き出す。
カルテット・マジコの面々が影のように集合し、獲物の背を追い、都市の雑踏へと紛れ込む。
屋上から屋上へと音もなく飛び渡るイムノとホットショット。
地上では、群衆に紛れて気配を断つミーティス、闇にその身を溶かすスヌープキャット。
4人の動きは、まさに緻密な“狩り”の連携そのものだった。
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