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手の平の『欠落者』たち  作者: 今木照
入替と消滅
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第五話 憧れ

 2014年 5月 東京都 世田谷区



「『消滅』。」


 彼女が口にしたその症状名はあまりにも抽象的で、あまりにも単純で、そして、あまりにも、あまりにも......


「どう?怖いでしょ?だから、みんなの前で見せたくなかったの。」


 俺は小刻みに震えることしかできなかった。

 しかし、それはさっきまでの斉藤への恐怖心とは違う所からくる震えだ。


「......ごめん、これからは会わないようにするからさ。源の力は私と違って凄いんだから、これからも__」

「かっっっけぇぇぇえ!!!!!」



「!?」



 俺は感情を爆発させ、公園中に響くような大声で叫ぶ。さっきまでの斉藤達への恐怖心なんて吹っ飛んだ。


(消滅!なんてカッコいい響きなのだろうか!!)


 愛日は驚いたように体を硬直させ、目を白黒させた。


「は、はぁ~~??今、『かっこいい』って言った!?」


「そうだよ!!だってだって、めっちゃカッコよくない!?そんな掌光病聞いたことない!!手から目に見えないビーム的なのが出てんの!?」


「......そんな理由で......ほんっと男子ね。大体、この症状を見た人はフツー怖がるし...」


 怖がる?何を言っているんだ?


「なんで?俺を助けてくれた力が怖い訳ないじゃん。」


 俺は愛日の目を真っすぐ見る。

 愛日は何故か少し恥ずかしそうに赤らみ、公園の周りの視線に気まずそうな表情(カオ)を浮かべた。


 だが俺のアタックは止まらない。


「でさ、さっき手の平の延長線上の空気が揺れたように見えたけど!あれはどういうことなの!?あとあと!その消滅で消せるのはどこら辺までなの!?あ!どこら辺ってのは硬さとかのことで、えーと、具体的にはコンクリとか___」


 俺は今頭の中に渦巻いている疑問をひたすらに、身振り手振り愛日にぶつけてみる。しかし、愛日は忙しなく動く俺の肩をつかんで、赤面したまま睨んだ。


「分かったからっ!!一回黙って!!みんなが見てるとこでこの話したくないから、私の家に行くわよ!」


「うん!!....うん?」 


 愛日の、家...?


_____________________________________



 俺はチャリを手で押しながら、愛日のスピードに合わせて歩く。

 家についていったらまた消滅を見せてくれるだろうか。


 ....というか、なんだかんだ女の子の家に行くなんて生まれて初めてだ。

 そもそも、ほとんど友達が居なかった俺からしたら友人の家に行くこと自体初めてなのだが。


 そして、愛日は公園の一件以降なかなか目を合わせてくれなかった。しかも、何故かずっともじもじしている。


「ね、ねぇ、例えばさ....どこら辺がカッコよかった...?」


 愛日がそっぽを向いたまま小声で問いかけてきた。

 それでも愛日が紅潮しているのはバレバレだ。


「うーん、まず名前!()()()()()ってシンプルだけど、必要以上の説明はいらないって感じで滅茶苦茶カッコいいよね!!あと、めっちゃ強い力なのに音とか色とか光とかがないのも渋くてカッコいい!それと、力を使うときの、あの愛日の手の動かし方!スラってゆっくり動かしてるのにその手の平が向けられた先では___」


「すすすすす、ストーーーップ!!もう分かった!十分よ!!」


「え~まだまだ言えるのに~」


 俺を止めてきた愛日は耳の先まで真っ赤で、湯気が出てきそうなほどの赤面だった。実際出てたかもしれない。


 自分から聞いて来たくせに、いざ語られると赤面している。

 ...不覚にも、この時俺は生まれて初めて、同世代の女子を可愛いと思ってしまった。



_____________________________________



「ここが私の家よ、入って。」


「おおーー!立派な家だ~。お邪魔しまーす」


 愛日の家は、「豪邸!」 とまではいかないが、なかなかに立派な2階建ての一軒家であった。

 俺が母親と二人で住んでいる安アパートなんかとは、比べ物にならない。

 ...まぁ最近は一人の時間の方が長いけど。


 玄関に入ると、白を基調としたモダンな内装が目に入った。それと、愛日の香りがした。

 玄関土間から一段上がり、横にスライドさせる扉を抜けるとそこはリビングで、大きなテレビ、ソファー、食卓、その奥には広々としたキッチンがあった。

 かなり広いが、人の気配は感じない。


「愛日、家の人は?」


 愛日は自分のコップと来客用のコップに麦茶を注いでくれていた。


「今日はパパもママも仕事だから居ないの。気にしないでいいわよ。」


 俺はふ~んと頷きながら一枚の写真と目が合う。その写真には、一匹の三毛猫が映っていた。


「猫、飼ってるの?」


「あー、その写真?飼ってたわよ。去年死んじゃったけど。」


 背中を向けていた彼女の表情は分からなかったが、質問を間違えたことだけは分かった。


「あ、そうだったんだ、...なんかごめん。」


「いいって。ソファーの横に荷物置いて、座っていいわよ。」


 愛日は然程気にしていない様子だった。表面上は。


 彼女は麦茶の入った二杯のコップをソファーの横の小さい机において、俺に座るよう促す。俺は言葉に甘えて座ってみるが、なんだか落ち着かない。

 友達の家に行くことすら初めてなのに、それが女子の家だから尚更だ。


 食卓の上に設置している木の時計は、15時を指していた。


「ねぇ、源。よかったら、あなたの話を聞かせてくれない?例えば....学校のこととか。」


 二人の間の静寂を先に破ったのは、愛日だった。

 それも予想だにしていなかった話題に、少し躊躇してしまう。


「俺の話なんて......面白くないよ?」


「そんなことないって。.......けど確かに、自分のことを何も言わずに喋らせるなんて、失礼だったわね。」


 そう言うと、愛日は一口麦茶を飲んでから僕に話をしてくれた。


「掌光病罹患者は、普通の生活を送れない。その形は、きっとたくさんあるのだろうけど」


 そして彼女は、自身の過去を語り始めた...

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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