第四話 その力の名は
前回のあらすじ
『有我愛日』の掌光病を見るために土曜日の公園まで自転車を走らせた、『山根源』。
辿り着いた先の公園では、自分には持ちえない楽し気な光景が広がっていた。
一時は張り裂けるような孤独感に苛まれ混乱しかけた源だったが、愛日の笑顔によって何とか落ち着きを取り戻す。
しかし、今度はそんな二人を見て、ある少年達が近づいてくる。
それは源が通っていた学校で、いじめの主犯格をしていた少年、『斉藤』とその取り巻き達だった。
源の脳裏に、思い出したくもなかった苦痛の日々が蘇る。
2014年 東京 世田谷区
公園にて...
「あれ?なんか騒いでる奴いると思ったら、源じゃ~ん!へっへっへっへ!!!」
鉛のように重くなった頭を精一杯動かして声のする方に向けると、そこには案の定、想定していた声の主が居た。
それは俺が学校に通っていた時に、一番目立っていじめをしていたクラスメイト、斉藤とその友人達であった。
「な、なんで斉藤が、ここに......」
「何呼び捨てしてんだよ。『斉藤君』だろ?」
斉藤は自転車にまたがりながら周りの仲間たちに目配りをして、それに気づいた金魚の糞たちも笑い声をあげた。
「いや~!こんなとこに不登校の源がいるとはな~。いつもここに居んの?ってか、病気は治ったのかよ?へっへっへ!!」
コイツの笑い声は思わず耳を塞ぎたくなる。
学校でのあの毎日が蘇ってきてしまうから。あのゴミみたいな日々が。
斉藤はひとしきり笑い終えると、俺の横に座っていた愛日の方に目をやった。
「あれ~?横の女子、まさか友達なの?...そこの女子~!コイツ掌光病だから、近寄んない方がいいよ~!!」
俺は思わず拳を握った。怒りで拳を握った、と言いたいところだが、俺の中に根を張っている感情は恐怖だ。
この手がみっともなく震え出さないよう、俺は力強く拳を握る。
せめて愛日は巻き込みたくないと、俺は彼女の方を振り向く。
振り向いた先に居た愛日は、貫くように真っすぐ斉藤達を睨んでいた。そして視線を外さないまま、彼女は俺に向かって小さく呟く。
「源、あんたが学校に行ってない理由がなんとなく分かったわ。」
愛日はそう言うとベンチから立ち上がり、お尻を軽くはたいた。俺は何とか彼女を連れて、公園の奥の方からどこかに逃げようと考えた。
しかし、実際に愛日が取った行動はそれとは真逆で、なんと彼女は斉藤達の方へ歩みを進めだしたのだ。
俺は慌てて愛日を止めようとする。
「あ、愛日...!あの真ん中の奴は柔道やってて喧嘩が強いんだ!ここはもう、俺の掌光病で__」
俺は羞恥心なんて忘れて、愛日の腕を引こうと必死に手を伸ばした。しかし、彼女の細い腕は風の様にするりと俺の手をよけ、遠ざかっていく。
すると一瞬、愛日が振り返って俺と目を合わせた。
「アンタ、私の『力』が見たいんでしょ?」
(力...)
彼女が症状のことを力と言ったのは、わざとだと思う。けれど、その一言はあまりにも心強く、俺の中に根付く恐怖が揺らぐほどの希望にすら見えた。
愛日はその一言を告げると、再び視線を斉藤達に戻し、歩き始める。
一方斉藤も、近づく愛日に気づいて、ニヤニヤしながら口を開く。
「ん、なに?怒ってんの?あ~こわっ!逃げよっかな~!!」
斉藤はそう言いつつ、自転車にまたがったまま動こうとしない。
やはり腕っぷしに自信があるのだ。ましてや女子相手に、アイツは絶対に引き下がらないだろう。
愛日は奴らの数メートル手前で立ち止まった。
そして手の平を斉藤の自転車の方に向け、空を撫でるように横に動かす。
急に見慣れぬ動きをする愛日に警戒したのか、斉藤の表情が僅かに動いた。
「な、なんだコイツ?もしかしてコイツも掌光病?けどなんも__!!うお!?」
ガッシャーン!!!
唐突に、斉藤の自転車が倒れる。
...いや、正確には自転車の下の部分が消えていた。
理解が追い付かないのは斉藤達だけでなく、俺もだった。
次に愛日は、こけた斉藤を見下し、容赦なく右の手の平を突きつけた。その手の平を目にした斉藤は、情けなく顔を青ざめた。
「うぇ!?はッ!?ヤっバい!逃げろ逃げろ、速く!!殺される!!!」
斉藤の顔はものの数秒で真っ青になり、自転車の残骸を放り捨て急いで立ち上がった。そして、先に逃げていった取り巻き達を追いかけるように、全速力で走り去っていった。
愛日はその不格好な背を3秒ほど見届けた後、くるりと身を翻して俺に近づく。公園の奥では、何かトラブルがあったことに気づいたサッカー少年達がこちらの様子を伺っていた。
「愛日、今のって...」
俺は今、目の前で起こった現象を理解しきれていないまま、彼女に質問をした。愛日は周りの混乱など意に介さないように、俺と目を合わせないままただ淡々と答える。
「うん。あんま人が居る所で見せたくなかったけど、これが私の力。」
そして一呼吸置くと、今度は俺の目を見つめ返して、小さく口を開けた。
思わず彼女の茶色がかった大きな瞳に、吸い込まれそうになる。
「症状名は、消滅」
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