表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

有我愛日との出会い

前回のあらすじ


『掌光病』を持った少年、『山根源』は学校にも行かず、ただ鬱屈と平日の公園で暇を持て余していた。

するとそこに、名前も知らぬ一人の少女が現れる。

妙に突っかかってくるその少女に、源は学校に行かない理由、つまり、自分が『掌光病罹患者』であることを打ち明けた。

それを聞いた彼女は源を恐れもせずに、「嬉しい」と言う。

彼女の真意とは、一体...?


2014年 5月 世田谷区

とある公園にて




「もしかして、お前も掌光病罹患者か?」



俺の目の前の少女はすでに、両手を体の前にクロスさせて決めポーズを取りかけている。

しかし、俺に先に指摘されてしまうとは思っていなかったのか、俺の声に反応してわざとらしくガクリと体勢を崩した。


「ちょっと!今衝撃の告白をしようとしてたところなのに!」


「そんなフリしてたら誰でも分かるって。...けど、俺初めて掌光病仲間に会ったかも。」


彼女は、「まぁいいわ。」という感じで自身の髪を振り払う。

彼女の黒髪は太陽に反射して艶々と輝いていた。


「まぁいいわ。私も自分以外の掌光病の人と会ったのは初めてよ。それで......あなたはどんな症状なの?」


彼女は俺に興味津々な様子で問いかけてくる。

たしかに、同じ掌光病罹患者が揃えば気になることは一つ。


『相手はどんな症状か。』


正直なところ、症状はあまり他人に見せたくないのだが、相手も掌光病罹患者だ。

ここは一つ見せてやろう。


俺は足元にあったサッカーボールを持ち上げ、彼女に見えるように前に突き出した。


「俺の症状名は『入替(いれかえ)』。例えば、このサッカーボールを......」


俺の手にあるサッカーボールが、一瞬光る。

それは、『まばゆい』と表現するには(いささ)か地味な光り方ではあるが、確実にサッカーボールは発光しているのだ。


そして次の瞬間、俺の手の上にはサッカーボールではなく、小さな絆創膏が乗っていた。


「俺が今まで手の平で触ったことのある物と、場所を入れ替えることができるんだ。だから今回は、家にあった絆創膏とサッカーボールの場所を入れ替えたってことね。」


俺はチラリと横目で彼女の反応を伺う。



「......!!」



なんと、彼女は目を輝かせていた。

しかも、「うわあぁぁ...!」なんて声まで上擦らせて、俺の手の平に釘付けだ。


今までこの症状を見た人間は大抵、気味悪がるか面白がるかのどちらかだった。

理解の及ばない事象を目撃した人間なんて、みんな大体同じ反応になる。


しかし、目の前の少女は、なんと恍惚とした表情で俺の力に見入っているではないか。

これは異常だ。


...でも、そんなに良いパフォーマンスだったのだろうか。

俺は少し気恥ずかしくなり、咳払いをして話題の矛先を相手に向ける。


「ゴッホン!...じゃ、じゃあ次はお前の番な!お前は、一体どんな症状なんだ?」


俺は冷静を装って訪ねてみた。

実際は初めて見る他の掌光病に、内心ワクワクが止まらないが。


しかし、彼女はさっきまでの目の輝きを一旦中断させ、一息ついてから口を開けた。

それも、かなり不機嫌そうに。


彼女は俺に人差し指を向けたかと思うと、仰々しく物申し始める。



「...アンタさっきから聞いてれば!『お前』って呼び方やめてよね!私には立派な名前があるんだから!!」



あぁ、何かと思えば、そんな事か。

まぁ確かに一応出会ったばかりの人間に、「お前」は失礼か。

...いやコイツも「アンタ」とか言ってるけどな。


俺はひとまず先方の感情を抑えるために、義務的に名前を尋ねる。



「...えっと、なんて名前なの?」



「私の名前は有我 愛日(うが あいび)。「有能」の「有」に「自我」の我で「有我(うが)」、名前は「愛する日」と書いて「愛日(あいび)」!愛日って呼んでいいわよ!小学4年!」



(おぉ、意外と丁寧な自己紹介...!)


俺は急な自己紹介に少し動揺してしまう。


自己紹介した彼女は、俺より少し背が高く、五月蠅い程活発な少女だ。

ほんの少しだけ癖のある髪は腰の上まで伸び、髪の上の方を一部だけ結んでいる。

ハーフツインと言うやつだろうか?

その白い肌とは対照的な漆黒の髪は、一段と彼女の存在感を際立たせていた。

彼女の少し茶色がかった瞳はまん丸で、まるで鏡の様な鮮やかさで俺を映している。

キリっとした眉毛は、彼女の男勝りとも言える溌剌(はつらつ)さをそのまま体現しているようにも見えた。


ひとまず向こうの容姿を改めて観察した後、俺も慌てて自己紹介を挟む。



「お、おう。俺は山根 源(やまね げん)。えーっと、「山」に「根っこ」の「根」で山根。「源」は「みなもと」の源ね。今年で10歳。...あぁ、俺も小4。」



即興にしては良い自己紹介であっただろう。

俺は自分のアドリブ(りょく)に中々感心した。


一方、俺の自己紹介を聞いた彼女の反応は...



「ふ~ん。掌光病と違って面白くない名前ね!」



__この女、一回殴ろうか?


...いやいや落ち着け山根源!

肝心なことをまだ聞き出せていないではないか!



「スゥーッ........それで、えっと、愛日?の症状は?」



そう。愛日の症状を見ていないのだ。

俺の質問を聞くと、愛日は先ほどと打って変わって少し暗い表情になった。

そして、静かに答える。



「私の症状は、うーん......まだ内緒かな。私のって、源みたいに良いもんじゃないんだ。」



(えっ?ここまで来て保留?)

俺は彼女の回答に納得ができなかった。


だって俺は見せて、愛日は見せないなんて不公平だろう。


「え、なんだよそれ、俺だって見せたじゃん。愛日も...」


俺は少し駄々をこねたが、それも愛日が遮った。



「はいはい!わーかった!今度見せてあげるから!じゃ~あ~、今度の土曜日、またここに来てよ!」



彼女は可愛げに手を後ろで組んで片足を放り出した。

更に俺の目を見てウィンクまでしてきた。

(ははーん。さてはコイツ、自分のことを可愛いとか思ってやがるな?男が全員そんな甘い仕草で攻略できると思うなよ!)



「...いいだろう。」


「良かった!じゃあ約束ね!また今度!」


愛日はそう言うと、足早に公園を後にした。



「何言ってんだ、俺....」



彼女が居なくなった後で、自分の腑抜けた返答に嫌気が差す。



俺が愛日に抱いた印象は、何個かある。

天真爛漫、というよりじゃじゃ馬。

良く言えば我が強い、悪く言えば自己中。

余計なところまで首を突っ込んでくる。


....けど、一緒に居て飽きなかった。

それに、俺の掌光病に目を輝かせてくれた、変な奴。 



それと.......



愛日が少し先にある歩道橋の上から、俺に向かって大きく手を振っているのが見えた。




それと、綺麗な人だ。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

よろしければ評価、感想もお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ