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手の平の『欠落者』たち  作者: 今木照
入替と消滅
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第二話 有我愛日

前回のあらすじ


『掌光病』を持った少年、『山根源』は学校にも行かず、ただ鬱屈と平日の公園で暇を持て余していた。

するとそこに、名前も知らぬ一人の少女が現れる。

妙に突っかかってくるその少女に、源は学校に行かない理由、つまり、自分が『掌光病罹患者』であることを打ち明けた。

それを聞いた彼女は源を恐れもせずに、「嬉しい」と言う。

彼女の真意とは、一体...?

 2014年 5月 世田谷区

 とある公園にて



「もしかして、お前も掌光病罹患者か?」


 目の前の少女はすでに、両手を体の前にクロスさせて決めポーズを取りかけている。しかし、彼女は先に指摘されてしまうとは思っていなかったらしく、俺の声に反応するとわざとらしくガクリと体勢を崩した。


「ちょっと!今衝撃の告白をしようとしてたところなのに!」


「そんな前振りしてたら誰でも分かるって。...けど、俺初めて掌光病仲間に会ったかも。」


 彼女は、「まぁいいわ。」という感じで自身の髪を振り払う。彼女の黒髪は太陽に反射して艶々と輝いていた。


「まぁいいわ。私も自分以外の掌光病の人と会ったのは初めてよ。それで......あなたはどんな症状なの?」


 彼女は俺に興味津々な様子で問いかけてくる。

 たしかに、同じ掌光病罹患者が揃えば気になることは一つ。

『相手はどんな症状か』


 正直なところ、症状はあまり他人に見せたくないのだが、相手も掌光病罹患者だ。ここは一肌脱いでやろう。

 俺は足元にあったサッカーボールを持ち上げ、彼女に見えるように前に突き出した。


「俺の症状名は『入替(いれかえ)』。例えば、このサッカーボールを......」


 俺の手にあるサッカーボールが、一瞬光る。それは、『まばゆい』と表現するには(いささ)か地味な光り方ではあるのだが、確実にサッカーボールは発光している。

 そして次の瞬間、俺の手の上に乗っている物は、サッカーボールではなく、小さな絆創膏になっていた。


「...っと、こんな感じで、俺が今まで手で触ったことのある物と、場所を入れ替えることができるんだ。だから今回は、家にあった絆創膏とサッカーボールの場所を入れ替えたってことね」


 俺はチラリと横目で彼女の反応を伺う。


「......!!」


 なんと、彼女は目を輝かせていた。しかも、「うわあぁぁ...!」なんて、声まで上擦らせて俺の手の平に釘付けだ。

 今までこの症状を見た人間は大抵、気味悪がるか面白がるかのどちらかだった。理解の及ばない事象を目撃した人間なんて、みんな大体同じ反応になる。

 しかし、目の前の少女は、なんと恍惚とした表情で俺の力に見入っているではないか。これは異常だ。


 ...でも、そんなに良いパフォーマンスだったのだろうか。

 俺は少し気恥ずかしくなり、咳払いをして話題の矛先を相手に向ける。


「ゴッホン!...じゃ、じゃあ次はお前の番な!お前は、一体どんな症状なんだ?」


 俺は冷静を装って訪ねてみた。実際は初めて見る他の掌光病に、内心ワクワクが止まらないが。

 しかし、彼女は俺の言葉を聞くや否や、さっきまでの目の輝きを中断させて、重々しく一息ついてから口を開けた。それも、かなり不機嫌そうに。


 彼女は俺に人差し指を向けたかと思うと、仰々しく物申し始める。


「...アンタさっきから聞いてれば!『お前』って呼び方やめてよね!私には立派な名前があるんだから!!」


 あぁ、何かと思えば、そんな事か。

 まぁ確かに、一応出会ったばかりの人間に、「お前」は失礼か。...いや、コイツも「アンタ」とか言ってるけどな。


 俺はひとまず先方の感情を抑えるために、義務的に名前を尋ねる。


「...えっと、なんて名前なの?」


「私の名前は有我愛日(うがあいび)。『有能』の『有』に、『自我』の『我』で『有我(うが)』。そして『愛する日』と書いて愛日(あいび)!愛日って呼んでいいわよ!小学4年!」


(おぉ、意外と丁寧な自己紹介...!)


 俺は予想外に分かりやすかった彼女の自己紹介に、少し動揺してしまう。


 自己紹介した彼女は、俺より少し背が高く、五月蠅い程活発な少女だ。ほんの少しだけ癖のある髪は腰の上まで伸び、髪の上の方を一部だけ結んでいる。ハーフツインと言うやつだろうか?

 その白い肌とは対照的な漆黒の髪は、一段と彼女の存在感を際立たせていた。彼女の少し茶色がかった瞳はまん丸で、まるで鏡の様な鮮やかさで俺を映している。

 キリっとした眉毛は、彼女の男勝りとも言える溌剌(はつらつ)さをそのまま体現しているようにも見えた。


 ひとまず向こうの容姿を改めて観察した後、俺も慌てて自己紹介を挟む。



「お、おう。俺は山根源(やまねげん)。えーっと、「山」に「根っこ」の「根」で山根。「源」は「みなもと」の源ね。今年で10歳。...あぁ、俺も小4。」


 即興にしては良い自己紹介であっただろう。俺は自分のアドリブ(りょく)に中々感心した。

 一方、俺の自己紹介を聞いた彼女の反応は...


「ふ~ん。掌光病と違って面白くない名前ね!」


 __この女、一回殴ろうか?


 ...いやいや落ち着け山根源!肝心なことをまだ聞き出せていないではないか!


「スゥーッ........それで、えっと、愛日?の症状は?」


 そう。愛日の症状を見ていないのだ。

 俺の質問を聞くと、愛日は先ほどと打って変わって少し暗い表情になった。そして、静かに答える。


「私の症状は、うーん......まだ内緒かな。私のって、源みたいに良いもんじゃないんだ。」


(えっ?ここまで来て秘密?)


 俺は彼女の回答に納得ができなかった。だって俺は見せて、愛日は見せないなんて不公平だろう。


「え、なんだよそれ、俺だって見せたじゃん。愛日も...」


 俺は少し駄々をこねたが、それすらも愛日が遮った。


「はいはい!わーかった!今度見せてあげるから!じゃ~あ~、今度の土曜日、またここに来てよ!」


 彼女は可愛げに手を後ろで組んで片足を放り出した。更に俺の目を見てウィンクまでしてきた。


(ははーん。さてはコイツ、自分のことを可愛いとか思ってやがるな?男子が全員そんな甘い仕草で攻略できると思うなよ!)


「...いいだろう。」


「良かった!じゃあ約束ね!また今度!」


 愛日はそう言うと、足早に公園を後にした。


「何攻略されてんだ、俺....」


 彼女が居なくなった後で、自分の腑抜けた返答に嫌気が差す。


 俺が愛日に抱いた印象は、何個かある。天真爛漫、というよりじゃじゃ馬。良く言えば我が強い、悪く言えば自己中。余計なところまで首を突っ込んでくる。

 ....けど、一緒に居て飽きなかった。それに、俺の掌光病に目を輝かせてくれた、初めての奴。 


 (それと.......)


 愛日が少し先にある歩道橋の上から、俺に向かって大きく手を振っているのが見えた。


 それと、綺麗な人だ。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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