第十二話 恋のキューピットはファミレスに
2017年7月 東京 世田谷区
前回から1週間後...
「ごめ~ん源、待った?」
現在時刻は12時4分。待ち合わせの時間は12時だったが、俺もさっき着いたばかりだから何も言えない。
「いや、実は俺もさっき着いたばっか。そんじゃ、行こっか」
俺は愛日と並んで、待ち合わせ場所だった駅前から歩きだす。
愛日の私服姿は、夏という事もあり肌色が多く、とても目に良いものであった。
「ねぇ源、お昼ご飯を誘ってくれたのは嬉しいんだけどさ、...なんでアンタの学校の知り合いとの食事に、なんも関係のない私も行くわけ?ちょっと気まずいんだけど」
愛日は俺についてきてくれるものの、不満を垂らしている。
それもそうだ。俺は昨日突然、愛日を昼食に誘った。しかも、俺の中学の知り合いが他に二人来るという昼食に。
正直、俺が愛日の立場だったら絶対に断るであろう。何故友人のそのまた友人が二人もいる場所にご飯を食べに行かなくてはならないのだ、そんなの気まずくなるだけだろう。
実際、愛日も最初は断った。しかし、俺のみすぼらしい程の頼み込みで、昨日ようやく了承を得たのだ。
俺がなぜここまでして愛日を誘ったか?
それは、今日の昼食が、来たる「隅田川花火大会Wデート計画」の顔合わせになっているからだ!!
つまり今日集まるのは、俺、優人、優人の彼女、そして愛日だ。
ここで少しでもお互いの親睦を深めて、来たる隅田川花火大会に備えようという、俺と優人の寸法だ。
「いや~、確かに最初は少し気まずいかもしれないけど、一人は明るい奴だから大丈夫!もう一人は、実は俺も会ったことないんだけど...」
信号が目の前で赤になり、俺と愛日は足を止める。ふと愛日を見ると、彼女は分かりやすく口を「は」の字に開けて、目を細めていた。
「もう一人は会ったことがないって、どういうことなの?ホントーにどういう集まりなのよそれは!」
俺は弁解することができなかったので、疑問が止まらない愛日をなだめながらそそくさと足を進めた。その間も愛日からの質問攻めは止まらなかったが、俺はのらりくらりとできる限り真相を隠しながら歩く。
「よ、よーし!ついた!一旦中に入ってから説明するから、一旦、な?」
僕たちがたどり着いたのは、駅から徒歩5分ほどのファミレスだった。ここで優人と優人の彼女が先に待っているので、そこに合流する手筈だ。
俺は一旦愛日を落ち着かせて、店のドアを開く。店員に「待ち合わせです」と伝えて、店の中を歩き進める。
愛日も少し緊張しているのか口数が減って、俺にピッタリとくっついてきた。...可愛い。
しばらく歩いていくと、奥の方の席に見慣れた男と見慣れない女性の二人が座ったテーブルを見つけた。優人たちだ。
「おーっす優人」
「ちょっと遅刻じゃねーかー?源くぅん」
俺は空いていた手前の席に座り、その横にちょこんと愛日が座った。ふと、目の前に座る優人の彼女と目が合ってしまう。黒髪ボブの彼女は目が合うのと同時に、小さくニコっと笑顔を見せた。
「あ、はじめまし__」
「ちょっと待ったぁ!!」
俺が反射的に挨拶をしようとすると、優人が声を張り上げて遮ってきた。その大声に反応して、俺の横に座っている愛日がビクリと体を震わせた。
「いち早くこの気まずい関係を脱したいのは分かるぞ源。だがしかし!お前だけ抜け駆けをしてしまうのはテンポというモノが崩れてしまうだろう!一旦、源達はドリンクバーでも頼みなさい。話はそれからだ」
優人はやけに張り切って、長々とした台詞を一息で言いきった。俺は呆れ、優人の彼女は苦笑いをし、愛日は驚きを浮かべて沈黙した。
俺たちは優人の主張通りドリンクバーを頼んで、愛日と共にソフトドリンクを注ぎにいった。二人の席が見えなくなったところで、愛日は俺に耳打ちをしてきた。
「ちょっと、あの男の人なんかすごいテンションだけど、大丈夫なの?」
「あー、うん。アイツはいつもあんなだから気にしないで。彼女の前だから少し張り切ってんのかもだけど。...ははは」
俺は苦笑いしながらグラスに烏龍茶を入れ、その横で怪訝そうな顔をした愛日がリンゴジュースを入れていた。
俺達がドリンクを片手に席に戻ると、早速優人が口を開いた。
「よし、場も落ち着いたところで自己紹介と行こう」
愛日はリンゴジュースを飲もうとする手を止めたが、俺は遠慮することなく烏龍茶をごくごくと飲み続けた。
「俺の名前は、黒江優人。源のご友人の有我さんとは初めましてだね」
優人は愛日の方に目をやる。愛日は少し驚いたような顔で目を見開いた。
「あれ、私のこと知ってるの?」
「まぁ、源から噂はかねがね...」
優人がわざとらしく、チラリと俺に視線を送ってきやがる。その言葉を聞いた愛日がズンっと顔を俺に近づけ、静かに詰め寄る。
「源~?変なこと言ってんじゃないでしょうねぇ?」
「...言ってません」
俺は優人のせいで目線を泳がさざるを得なかった。
「はは、まぁこれからヨロシク。...じゃあ次は源、自己紹介どうぞ!」
優人は意外にも簡潔に自身の自己紹介を終わらせて、自己紹介のバトンを俺に渡した。俺は不意を突かれたが、優人の台詞を思い出しながら口を開いた。
「お、おう。えっと、名前は山根源です。優人の彼女さんとは、学校が同じだからもしかしたら会ってたのかもしれないけど、とりあえず初めましてかな?」
俺が言い終えると、優人の彼女もペコリと会釈をしてきた。一目見た時から思っていたが、彼女からは何と言うか気品のようなものを感じる。優人に不釣り合いな、上品な女性である。
自己紹介を終わらせた俺は、愛日に視線を送る。俺の視線の意味を受け取った愛日は、やはり少し緊張した面持ちで口を開いた。
「じゃ、じゃあ次は私の自己紹介をするわね!私の名前は、有我愛日。愛日って呼んでね!...えーっと、黒江君と、その彼女さん?とは初めましてね。学校は隣の区の女子校に通ってるから、多分会ったことは無いわよね。...あー、何の集まりかは正直知らないけど、よろしく!」
愛日は愛日なりに上手く自己紹介を終わらせたようだ。俺の正面に座る優人の彼女はパタパタと小さく拍手をしていた。そしていよいよ、最後の一人になった。
三人の視線が、最後の一人である彼女に集まる。
「...はい、私の番ですね!名前は『馬酔木真紀』と言います。馬に酔に木で、あせびって読むんです。『あせび』でも『まき』でも好きなように呼んでもらって結構です!山根君と愛日ちゃんは初めましてだけど、よろしくね!」
彼女、いや、馬酔木さんは、テキパキと一言一句はっきり発音し、最後は可愛らしい笑顔で締めくくった。
馬酔木さんは小柄で、黒髪のストレートなボブヘアがよく似合う女の子だ。どこか儚さすら感じてしまう彼女が、このずさんな優人と付き合っていると言っても、多くの人たちは信じることができないであろう。俺ですら今も疑っている。
と、ここで俺の中に一つの疑問が生まれた。
「...あのさ、馬酔木...さんは、俺と愛日が掌光病罹患者だって知ってるの?」
一応、優人は俺が掌光病罹患者だと知っているし、愛日が掌光病罹患者だという事も伝えてある。もし、その事実を優人が馬酔木さんに言ってないのなら、一応知ってもらうべきだろう。
...けれど、やはりそれを知ったら、馬酔木さんが怖がるのだろうか。
「ええ、知ってますよ。」
馬酔木さんはさも当然かのように笑顔で返答した。しかも、俺の不安が滑稽だったかのように、その声は堂々としていた。
しかし、俺の横に座る愛日の表情は、微かに曇っていた。
続く
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