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山根 源

1963年、インドで手の平が発光する幼児が発見される。

翌年には中国、イタリア、更にその翌年には日本を含む19カ国で手の平に何らかの異常を持った人々が発見された。

世界はそれらを先天性の病気と判断し、第一発見者の症状から『掌光病』と命名する。


2014年、日本、東京。

『入替』の掌光病を持った少年、『山根源』はある日、一人の少女との邂逅を果たすことになる。

その出会いが意味するのは、希望の始まりか、はたまた、混沌の始まりか。



「お前病気なんだから近寄んなよ!ってか学校くんなよな!ギャハハ!!」



痛い。



「やば!山根に触られた!山根菌うつったかも~!」



うつるわけないだろ。



「...そっか、山根、先生が気づいてやれなくてごめんな。...よし、今度あいつらにも話を聞いてみようか。」



知ってたくせに。



「山根君ごめんなさい。」



嫌だよ。



「うん!お前たち謝れたな!偉い!」



偉いわけないだろ。



「...じゃあ次は山根だな!」



....は?



「ほら、どうした?お互い謝って仲良く終わらせよう!」




..................




「...おい、お前さ、なにチクってんの?ねぇ?」



痛いんだよ。



「はぁ。...あのね、お母さん忙しいの。学校のことなら先生に言って。」



言ったよ。...けど、変わらなかったよ。



「......ホント、産むんじゃなかった。」



生まれなきゃ良かった。






.......そうか。



俺以外が、




この『世界』なんだ。






______________________________________________




2014年 5月 東京 世田谷区




「ガシャン!ガシャン!」



サッカーボールが金網に当たる音が、平日の住宅街に響く。

この公園は小さく、隣に家があるせいで音が反響しやすい。


...けれど、音がこんなに響く理由は、それだけじゃない。


俺はバウンドしているサッカーボール拾って、小さな溜息を吐いた。



「はぁ。...やっぱ1人で蹴ってもつまんねぇなぁ。けど優人も小学校だし、俺が学校なんて行ったって、どうせまた...」



俺はサッカーボールの上に座りこみ、小声で呟いてみた。

普通は独り言なんて恥ずかしいこと、しないものだと思う。


けれど結局、この言葉を誰が聞くワケでもないし__




「『どうせまた...』、何なのよ。」




ふと、女の声が聞こえた。


それも、頭の上から。



「うぇッ!?」



ゴッツン!!



驚いて顔を上げようとした拍子に、声の主と盛大に頭をぶつけてしまった。

俺は、一瞬間を置いて襲いかかる頭頂部の痛みに悶絶し、喉の奥から「くぅぅぅぅぅぅ...」と唸り声を捻り出すことしかできない。



「っっいったぁ!...ちょっとあんた!なにすんのよ!いきなり頭突き!?」



一方、頭をぶつけた相手は大袈裟に俺を糾弾しており、大して怯んでいる様子はない。

どうやら俺は、とんだ石頭に頭突きをしてしまったらしい。



「...お、俺だっていてぇ!っていうか、お前がビビらせてきたんだろ!?」



俺は頭のズキズキとした痛みに耐えながら、振り返って声の主を睨みつける。


その声の主は、ランドセルを背負った一人の少女であった。

身長は俺より少し大きいが、歳は俺と同じくらい、小学4年生くらいだろうか。

赤いランドセルを背負い、少し季節外れな手袋をつけた手でおでこを抑えていた。


その少女は涙目で俺を睨み返し、口を開ける。



「はぁ~?別にビビらせてないでしょー!?そもそも、何で平日の真昼間に公園にいるのよ!」



「それはお前もだろ!」



俺が反論すると、少女はムスっとしたような顔になって、何故か右肘を突き出してきた。



「私は早退したんです~!お昼休みに怪我しちゃったから!ホラ!」



彼女が指さした右肘には、二枚の可愛らしい絆創膏が貼ってあった。

その絆創膏に描かれた熊のキャラクターは、ニコニコと俺に笑いかけている。


そして俺は、到底早退できるとは思えないその怪我のレベルに、思わず呆れてしまう。


「はっ!そんな怪我で早退かよ!弱っちぃなぁ!」


この俺の見下した物言いにカチンときたのか、少女はわざとらしく口を尖らせて俺の言葉を否定する。


「弱くないですぅ~!先生が『あなたは繊細だから』って早退させてくれたんですぅ~!」


そう言い終えると彼女はフンっと鼻を鳴らし、俺の前に仁王立ちした。



(こんなヤツのどこが繊細だよ...)



というか、一体なんなんだコイツは...

いったい何が目的で俺に突っかかってきたんだ?


俺は一旦、少女に言い返すのを堪えて、ゆっくりサッカーボールから立ち上がる。

さっきぶつけた頭の痛みは引いてきたが、(これはたんこぶになるな)と確信した。


その直後、俺の右耳に騒々しい声が突き刺さる。


「私は良いのよ私は!アンタはなんで小学校に行ってないのよ!私と同じくらいでしょう!?」


「まだやんのかよこの押し問答...」


俺は一通り口論を終えたと思ってたが、どうやら彼女のターンは続いていたようだ。


...更に、質問の内容が内容だ。

俺が学校に行ってない理由、それを出会って数十秒のこの女には言いたくはない。


なので俺は無理矢理、回答を濁すことにした。



「...別に、行きたくないんだから行かないだけだし。」



しかし、俺のこの回答に納得しないのか、少女は偉そうに腕を組んで牽制をし始めた。


「あーあ!答えてくれないなら学校に言っちゃおうかな~?学校サボって公園で遊んでる人がいますって。」


(ふんっ。)


俺は心の中で、彼女の脅しを鼻で笑ってやった。


俺はわざわざ隣町の公園まで来てサッカーをしているのだ。

だからこの女が自分の学校に報告したとこで、どうせ大した問題にはならないだろう。


.....が、これ以上隠しても面倒くさい未来にしかならなそうである。

俺は苦渋の決断の末、渋々本当のことを言うことにした。


真実を告げれば目の前のコイツも大人しく帰るだろう。


俺は一呼吸置いた後、ため息交じりに口を開いた。



「はぁ....。俺は、手の病気なんだよ。」



この病気の事を人に打ち明けるのは、本当に嫌だった。

それも出会って数分の人間に。


しかし、彼女は俺の言葉の意味がよく分からなかったのか、首を傾げた。


「手の病気って、アンタの手、普通よ?」


彼女は俺の手をまじまじと見て、不思議そうな顔をした。


(あぁ、この女はどこまで察しが悪いんだ...)


俺はそんな彼女に嫌気がさす。


「だから、そういう病気じゃなくて、その.....」


俺はこの女にキッパリと真実を告げてやりたかったが、やはり、どうしても口にすることを躊躇ってしまう。

そんな俺を見て、彼女は再び不思議そうな表情をする。


(あ~もう!手の病気なんて言ったら、普通アレくらいしかないだろ!いい加減理解しろよ!!)


...そして数秒後、ようやく俺の気持ちが届いたのか、彼女は閃いたように大きな声を上げた。




「え!?手の病気って、あんたもしかして『掌光病(しょうこうびょう)』!?」




彼女から発せられたその単語に、一瞬ドキッとしてしまう。


...まぁ俺の口から出さなかっただけマシか。



「...そうだよ、正解。よくわかりました。」



はぁ。やっぱりこの言葉は嫌いだ。



掌光病(しょうこうびょう)

名前の由来はたしか、この病気の第一発見者になった人の症状からだった。

最初は1960年代に数人見つかっていただけだったけど、今では約10万人に1人が生まれ持ってくるとされている病気で、症状は人それぞれ。

共通点は、手の平に何かしらの異常があるということ。

この病気だと診断された人間は、『掌光病(しょうこうびょう)罹患者(りかんしゃ)』と呼ばれている。



そして俺も、その掌光病罹患者の一人だ。



(...さぁ、この女は面白がるか、おびえるか、どっちかな。)



少女は最初、とても驚いていた。まるで伝説の生物を発見してしまったかのような顔で。

しかし、彼女の口元は次第に緩んでいき、遂には声を上げて笑い始めた。



「くっ...、あははははははは!!」



(...なるほどな、面白がるタイプか。こりゃ俺から公園を出た方が早そうだ。)



「...はぁ。」



俺は思わず、ため息を吐いてしまった。

そのため息のおかげで彼女は俺の不愉快そうな表情に気づいたのか、慌てた様子で笑うのをやめて、俺に話しかけてきた。



「ご、ごめんごめん!別に馬鹿にしてたわけじゃないの!」



彼女は申し訳なさそうに弁明をしながら近寄ってきた。

ふわっといい香りがする。



「その~、...ちょっと嬉しくてさ!」



(嬉しい...?)


掌光病罹患者を前に嬉しがるような人間は、俺の考えだと二択しかいない。


重度の掌光病マニア、か、同じ掌光病罹患者。



「そう!何を隠そう私は...!」



彼女はふわりと体を翻し、決めポーズをとろうとし始めた。


その流れで、俺は直感的に彼女の正体を予想する。



「もしかしてお前も、掌光病罹患者なのか...?」



俺が決めポーズをとろうとしている彼女に問いかけると、たまたま目が合ってしまった。



その時、俺の心臓がドクンと鳴ったのが聞こえた。



今思えば、

この日が俺の世界の始まりだったのかもしれない。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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