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手の平の『欠落者』たち  作者: 今木照
入替と消滅
2/25

第一話 山根源


「お前病気なんだから近寄んなよ!ってか学校くんなよな!ギャハハ!!」


 痛い


「やば!山根に触られた!山根菌うつったかも~!」


 そんなのないよ


「...そっか、山根、先生が気づいてやれなくてごめんな。...よし、今度あいつらにも話を聞いてみようか」


 知ってたくせに


「山根君ごめんなさい」


 嫌だよ


「うん!お前たち謝れたな!偉い!」


 偉いわけないだろ


「...じゃあ次は山根だな!」


 ....は?


「ほら、どうした?お互い謝って仲良く終わらせよう!」


 ..................


「...お前さ、なにチクってんの?ねぇ?」


 痛いんだよ


「はぁ。...あのね、お母さん忙しいの。学校のことなら先生に言って」


 言ったよ。...けど、変わらなかったよ


「......ホント、産むんじゃなかった。」


 生まれなきゃ良かった


 .......そうか


 俺以外が、


 この『世界』なんだ



_____________________________________


2014年 5月 東京 世田谷区



 ガシャン!ガシャン!


 サッカーボールが金網に当たる音が、平日の住宅街に響く。この公園は小さく、隣に家があるせいで音が反響しやすい。

 ...けれど、音がこんなに響く理由は、それだけじゃない。


 俺はバウンドしているサッカーボール拾って、小さな溜息を吐いた。


「はぁ。...やっぱ1人で蹴ってもつまんねぇなぁ。けど優人も小学校だし、俺が学校なんて行ったって、どうせまた...」


 俺はサッカーボールの上に座りこみ、小声で呟いてみた。普通は独り言なんて恥ずかしいこと、しないものだと思う。

 けれど結局、この言葉を誰が聞くワケでもないし__



「『どうせまた...』、何なのよ」



 ふと、女の声が聞こえた。それも、頭の上から。


「うぇッ!?」


 ゴッツン!!


 驚いて顔を上げようとした拍子に、声の主と盛大に頭をぶつけてしまった。俺は、一瞬間を置いて襲いかかる頭頂部の痛みに悶絶し、喉の奥から「くぅぅぅぅぅぅ...」と唸り声を捻り出すことしかできない。


「っっいったぁ!...ちょっとあんた!なにすんのよ!いきなり頭突き!?」


 一方、頭をぶつけた相手は大袈裟に俺を糾弾しており、大して怯んでいる様子はない。どうやら俺は、とんだ石頭に頭突きをしてしまったらしい。


「...お、俺だっていてぇ!っていうか、そっちがビビらせてきたんだろ!?」


 俺は頭のズキズキとした痛みに耐えながら、振り返って声の主を睨みつける。その声の主は、ランドセルを背負った一人の少女であった。

 身長は俺より少し大きいが、歳は俺と同じくらい、小学4年生くらいだろうか。赤いランドセルを背負い、少し季節外れな手袋をつけた手でおでこを抑えていた。

 その少女は涙目で俺を睨み返し、口を開ける。


「はぁ~?別にビビらせてないでしょー!?そもそも、何で平日の真昼間に公園にいるのよ!」


「それはお前もだろ!」


 俺が反論すると、少女はムスっとしたような顔になって、何故か右肘を突き出してきた。俺はその意図が分からず、反射的に彼女の肘を眺めた。


「私は早退したんです~!お昼休みに怪我しちゃったから!ホラ!」


 彼女が指さした右肘には、二枚の可愛らしい絆創膏が貼ってあった。その絆創膏に描かれた熊のキャラクターは、ニコニコと俺に笑いかけている。

 そして俺は、到底早退できるとは思えないその怪我のレベルに、思わず呆れてしまう。


「はっ!そんな怪我で早退かよ!弱っちぃなぁ!」


 この俺の見下した物言いにカチンときたのか、少女はわざとらしく口を尖らせて俺の言葉を否定する。


「弱くないですぅ~!先生が『あなたは繊細だから』って早退させてくれたんですぅ~!」


 そう言い終えると彼女はフンっと鼻を鳴らし、俺の前に仁王立ちした。


(こんなヤツのどこが繊細だよ...)


 というか、一体なんなんだコイツは...。いったい何が目的で俺に突っかかってきたんだ?

 俺は一旦、少女に言い返すのを堪えて、ゆっくりサッカーボールから立ち上がる。さっきぶつけた頭の痛みは引いてきたが、(これはたんこぶになるな)と確信した。

 その直後、俺の右耳に騒々しい声が突き刺さる。


「私は良いのよ私は!アンタはなんで小学校に行ってないのよ!私と同じくらいでしょう!?」


「まだやんのかよこの押し問答...」


 俺は一通り口論を終えたと思ってたが、どうやら彼女のターンは続いていたようだ。

 ...更に、質問の内容が内容だ。俺が学校に行ってない理由、それを出会って数分のこの女には言いたくはない。なので俺は無理矢理、回答を濁すことにした。


「...別に、行きたくないんだから行かないだけだし。」


 しかし、俺のこの回答に納得しないのか、少女は偉そうに腕を組んで牽制をし始めた。


「あーあ!答えてくれないなら学校に言っちゃおうかな~?学校サボって公園で遊んでる人がいますって。」


(ふんっ。)


 俺は心の中で、彼女の脅しを鼻で笑ってやった。俺はわざわざ隣町の公園まで来てサッカーをしているのだ。だからこの女が自分の学校に報告したとこで、どうせ大した問題にはならないだろう。

 .....が、これ以上隠しても面倒くさい未来にしかならなそうである。

 俺は苦渋の決断の末、渋々本当のことを言うことにした。真実を告げれば目の前のコイツも大人しく帰るだろう。

 俺は一呼吸置いた後、ため息交じりに口を開いた。


「はぁ....。俺は、手の病気なんだよ。」


 この病気の事を人に打ち明けるのは、本当に嫌だった。それも出会って数分の人間に。

 しかし、彼女は俺の言葉の意味がよく分からなかったのか、首を傾げた。


「手の病気って、アンタの手、普通よ?」


 彼女は俺の手をまじまじと見て、不思議そうな顔をした。


(あぁ、この女はどこまで察しが悪いんだ...)


 俺はそんな彼女に嫌気がさす。


「だから、そういう病気じゃなくて、その.....」


 俺はこの女にキッパリと真実を告げてやりたかったが、やはり、どうしても口にすることを躊躇ってしまう。そんな俺を見て、彼女は再び不思議そうな表情をする。


(あ~もう!手の病気なんて言ったら、普通アレくらいしかないだろ!いい加減理解しろよ!!)


 ...そして数秒後、ようやく俺の気持ちが届いたのか、彼女は閃いたように大きな声を上げた。



「え!?手の病気って、あんたもしかして『掌光病(しょうこうびょう)』!?」



 彼女から発せられたその単語に、一瞬ドキッとしてしまう。...まぁ俺の口から出さなかっただけマシか。


「...そうだよ、正解。よくわかりました。」


 はぁ、やっぱりこの言葉は嫌いだ。


掌光病(しょうこうびょう)

 名前の由来はたしか、この病気の第一発見者になった人の症状からだった。最初は1960年代に数人見つかっていただけだったけど、今では約10万人に1人が生まれ持ってくるとされている病気で、症状は人それぞれ。共通点は、手の平に何かしらの異常があるということ。

 この病気だと診断された人間は、『掌光病(しょうこうびょう)罹患者(りかんしゃ)』と呼ばれている。


 そして俺も、その掌光病罹患者の一人だ。


(...さぁ、この女は面白がるか、おびえるか、どっちかな。)


 少女は最初、とても驚いていた。まるで伝説の生物を発見してしまったかのような顔で。しかし、彼女の口元は次第に緩んでいき、遂には声を上げて笑い始めた。


「くっ...、あははははははは!!」


(...なるほどな、面白がるタイプか。こりゃ俺から公園を出た方が早そうだ。)


「...はぁ。」


 俺は思わず、ため息を吐いてしまった。そのため息のおかげで、彼女は俺の不愉快そうな表情に気づいたのか、慌てた様子で笑うのをやめて俺に話しかけてきた。


「ご、ごめんごめん!別に馬鹿にしてたわけじゃないの!」


 彼女は申し訳なさそうに弁明をしながら近寄ってきた。ふわっといい香りがする。


「その~、...ちょっと嬉しくてさ!」


(嬉しい...?)


 掌光病罹患者を前に嬉しがるような人間は、俺の考えだと二択しかいない。重度の掌光病マニア、か、同じ掌光病罹患者。


「そう!何を隠そう私は...!」


 彼女はふわりと体を翻し、決めポーズをとろうとし始めた。その流れで、俺は直感的に彼女の正体を予想する。


「もしかしてお前も、掌光病罹患者なのか...?」


 決めポーズをとろうとしている彼女に問いかけると、たまたま目が合ってしまった。その時、俺の心臓がドクンと鳴ったのが聞こえた。


 今思えば、この日が俺の世界の始まりだったのかもしれない。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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