298話 庶子と嫡男
ロバ突入により子爵軍の陣は大混乱となっている。そのすきに庶子と孤児たちは、弓矢で兵士たちを殺している。
弓もこの戦いの為に工夫されている。庶子はこの戦争に全てをかけていた。男爵家が負ければ一族は皆殺されてしまう例え庶子と言えども助かる事は無いだろう。
庶子「矢が尽きたら突っ込むぞ、いいか絶対にとまるな走り続けろ、いいな。」
「「「「「「はい」」」」」」
そして子爵軍の陣へと突入していく。もう後40Mという距離で孤児と庶子はまた魔道具の爆弾を投げつける。
30個の爆弾が子爵に陣へと吸い込まれていくと同時に大爆発が起こる。
大混乱中の爆発である。300人いた陣は、無傷な者は少ない。
庶子たちはその中に入り込み駆け回る。目指すは子爵只一人の首である。
庶子は自分が目立つように大声をあげながら走り回る一方孤児たちは皆無言で走り敵を斬りつけていた。致命傷にではないが、急所を斬られていく為に動けなくなる者が多く出ている。その為に陣内は悲鳴とうめき声で上官の指示が行き届いていない。
そしてついに庶子は子爵の姿を確認できた。蛇行しながら子爵に向っていく。子爵を守る10人の騎士達は庶子を待ち構える形であった。庶子はこちらに向かってきてくれることを期待したがそううまく物事は運ぶものではなかった。そこで庶子は騎士たちに見えるようにマントを広げた。騎士たちは庶子がマントを広げる意味を理解できなかったが、一人の騎士が叫んだ「ば、爆弾だ。」騎士たちは真っ青になった。先ほどの爆弾の威力を見ている為に庶子がこの場に突っ込んできてならば自爆すると考えてしまったのだ。子爵を守らなければならないがこの場で守る必要はない、騎士たちと子爵はこの場を逃げ出した。庶子は必至に追いかけていく。10人の騎士達は子爵が逃げる方向から微妙にずれていく。狙いが子爵であることは明白で自分の命を守る事を騎士たちは優先してしまっていた。
庶子の狙い通りであった。子爵を守りながら逃げている騎士は二人まで減っていた。
庶子の体力は限界は近い。だがあきらめる訳にはいかないのだ。子爵の首を手に入れるまでは止まる訳にはいかない。
庶子「おりゃーーー。」手投げ用の斧を思いっ切り子爵目掛けて投げつけていた。
斧は子爵の背中に突き刺さる。「ぐうぁ」
走って逃げていた子爵が倒れる。守る騎士たちは何が起きたのかをすぐに理解したが走る事を止める事は無かった。
騎士達は子爵を見捨てたのだ。
庶子は騎士達には目もくれずに倒れた子爵に馬乗りになる。まだ生きているっ子爵は必死に抵抗するが、武器もない状態では碌な抵抗も出来ない。庶子はナイフで子爵をめった刺しにしていた。気づいた時には子爵はもう死んでいた。庶子はハッと正気に戻ると子爵の首を取り高々と挙げる。
庶子「男爵家、ヒローが子爵を打ち取ったーーー。」
大声で叫ぶ庶子につられるように孤児たちも同じに叫び出す。
子爵(大将)が死ねば子爵軍は負けである。どんなに優勢に戦いを進めていようとも大将が殺されてしまえば負けなのだ。
このヒローの名乗りで、男爵軍は一気に勢いづいていく。
そしてこの戦いは男爵家の勝利に終わった。
勝利した男爵軍は、子爵軍の死体から武器屋防具をはきとっていた。その中で男爵と庶子は対面していた。
庶子「父上、子爵の首でございます。」
男爵「よくやった。」
男爵はこの一言のみであった。だが男爵は庶子を嫌って言葉を発せなかったわけではなく。死ぬつもりで戦っていた男爵は、勝ってしまった事で少し混乱していただけであった。
子爵の首をジッと見つめているとやっと現実を受け入れた。
男爵「ヒローよ、本当によくやった。褒美は何が良い。」
子爵「はっ、出来ましたらこれから占領する子爵領の一部でも領地が欲しいです。」
男爵「これから子爵領を攻める・・・・そうだな今ならば子爵領を切り取れるだろう。すぐに支度をせよ。皆の者功績のあったものには褒美は子爵領を与えるぞーー。」
「「「「「おおおおおおおお」」」」」
死者の剥ぎ取りが終わると男爵軍はいぞぎ子爵領へと軍を進めていく。
子爵領は子爵が戦死したことで混乱の中にあり、家族は逃げ出すために財産を積み込んでいる最中であった。そこに馬に乗った男爵の騎士達が到着する。
子爵領は戦に負けて兵たちはまだ戻っていなかった為に戦える者が少なく男爵軍の騎士達に蹂躙されていく。騎士たちの後を追う様に兵士たちも追いつき子爵領を占領していった。
男爵は子爵領都を完全に占領すると一旦軍行を停止して兵たちを休ませる。
子爵の屋敷で男爵は、略式の功労賞を行なう。これは後に正式な功労賞を行なうが、戦意を高めるために褒美を出すパフォーマンスであった。それでも褒美の約束事であるために皆期待に眼が輝いている。
男爵「皆、良く戦ってくれた。この戦争の中本当によく戦った。この戦いで一番の戦功はヒローだ。」
ヒローは男爵の前にうな垂れる。
男爵「ヒローよ、改めてよくやった。この子爵領の領都をヒローの領地とせよ。だが子爵領全体の占領が終わった後だ。」
ヒロー「はっ、ありがたき幸せ。」
男爵「第2の戦功は・・・・・・・・・・・・・」
こうして簡略式の褒賞が終わり宴が始まると同時に子爵領の占領の作戦が論議されていく。
男爵「ヒロー、子爵領の占領は3つに分けて効率よく占領していくぞ。」
ヒロー「はい、父上今1500の兵が動く事が出来ますので1500を3つに分けて行きます。」
男爵「うむ、一つはヒローに任せる。儂はもう一つと、(ギロリ)ジョニーお前に任せる。嫡男として武勲を残せ。これは絶対だ。子爵領を占領後には、周りの領地も取っていくぞ。ここで功績を残せなければ跡を継ぐことが出来なくなるぞ。」
男爵にきつい言葉に周りは息を飲む。ヒローが活躍したことで次期男爵家当主が入れ替わるのでは皆固唾をのんで見守っている。だがそんな事は知らないというばかりに嫡男が話し出す。
嫡男「大丈夫ですよ。功績はもう挙げています。」
男爵ほーーっ、どのような功績をあげたのだ。」
嫡男「金を貸しました。」
「「「「「「はっ?????」」」」」」
嫡男「ヒローに金を貸しました。ヒローは小隊の武具、武器を得るために取引をしました。ヒローの武勲の半分を俺に献上する事になっています。」
男爵は嫡男の言葉に唖然としてしまった。
男爵「ヒロー本当か。」
ヒロー「父上、真でございます。この戦いに勝つために兄上と相談しました。子爵の首を取るためにはどうしても魔道具爆弾が必要でした。兄上はその金を工面してくれました。私には兄上に金を返すことが出来ませんが武勲をあげその功績の半分を献上する事となっています。勿論子爵との戦いですのでまだ終わっていません。子爵領全体を占領するまでの功績の半分ですのでこれからもっと上澄みをさせていくます。」
このヒローの言葉で他の諸侯たちは目を輝かせた。子爵領はかなり裕福であり、騎士や貴族が多く住んでいるのだ。さすがに平民たちからの強奪は出来ないが、敵である貴族や騎士たちからは奪う気満々であった。
男爵「ふん、ジョニーお前はいつもそうだ。少しは体を動かせ。」
嫡男「人には得手不得手があります。私は不得手な物は得意な者に任せる主義なので。」
男爵「・・・・・・・」
この嫡男は別に戦えない訳ではない、只戦闘が好きではないと理由であった。
そんな不思議な男爵家はこれから快進撃が始まっていく。
そして数日後には子爵領が全て占領されていた。
約束通り子爵領都はヒローの領地となった。嫡男との約束で半分となっているが、子爵領占領にもヒローは武功を挙げていた。実際にヒローの活躍が無ければ子爵領占領は一月は伸びていただろう。
大活躍をしたヒローは子爵領の3分の1を貰う事になったが領都だけを貰い他は全て嫡男に渡していた。




