２６９話 コルテア王
リバーズ男爵夫人は今や時の人となっていた。
コルテア王国からローマン帝国に鞍替えし、資金援助とゴーレムの派遣をもぎ取ったとコルテア王国内（王都以外）で話に登らない日はないほど注目を集めている。
そんな中で男爵夫人の妹たちも動きが激しくなっている。ギルバート家から資金援助と人が領地にやってきて一気に寂れてしまっていた町や村が活気に満ちてきている。
この３姉妹の領地の発展をコルテア王国内の貴族達は羨望の眼差しで見ている。自分たちも早くこの恩恵にあずかりたいと連日、ひそかにリバーズ男爵夫人の代理のダンクの元を訪れている。
ダンクはまだ結婚はしていないが、リバーズ領の全てを切り盛りしている。
コルテア王国貴族の対応も重要なのだ、一番重要なことは川（運河）として港の建設と街道整備である。
運河としてこれから活用していくうえで街道整備は最重要となっている。各地に道を作り物資を広範囲に輸送するためにゴーレムと人で街道整備を行なっている。コルテア貴族達も街道整備に領民を出稼ぎに行かせることで資金を得る事が出来ている。
この街道整備の出稼ぎ領民たちは、かなりの好待遇とされている。賃金もそうなのだが食事が美味く、量も多い事で困窮しているコルテア王国民にとってかなり重要な事であった。
そんな領民感情もあり、コルテア貴族達の企ては加速していた。リバーズ領の隣接している領地は勿論、妹たちの領地の周りと西地域一帯の貴族達がローマン帝国に鞍替えする事になっている。
ローマン帝国としては、あまり鞍替えしてほしくはないのだ。折角コルテア王国を属国として従わせている事が出来てこれ以上問題を作りたくはないのが本音であった。通常ならばダメだの一言で終わるのだが、今回はアル達がらみという事で静観している。
アルたちも一気にコルテア王国からの鞍替えは拙いという事になり、ワンクッション置く事にしている。
そのワンクッションはリバーズ男爵夫人である。この男爵夫人をローマン帝国の子爵に格上げして鞍替え希望のコルテア貴族達を従わせることにした。
ようは、コルテア王国内でローマン帝国派を作りその者達にコルテア王国を牛耳らせることにしてしまったのだ。
今やコルテア王国貴族の約半数がこのローマン帝国派となっている。他の貴族達も時間の問題だろう。
コルテア王国王城内で、コルテア貴族達が集っていた。コルテア王が貴族達を集め引き締めをしようとしているのだ。コルテア王国はローマン帝国の属国となったが、王はまだ反撃の機会があると思っている。王国として今は苦しい時であるが、コルテア王国貴族が一丸となっていずれローマン帝国に一矢報いると思っているのだ。その為にコルテア王は貴族達に対して一層の王国に忠誠を誓わせるためである。
そんな思惑も今の貴族達は、何ら響くものは無かった。
コルテア王国を敬え、王家を大事にしろ、税を納めろと戦時中と何ら変わりのない事を繰り返すだけであったからだ。
コルテア王国の今は資金が無い事で貴族領に対して何ら援助などは一切ない。直轄領でさえ資金不足であり、人手不足な状態なのだ。貴族領に構っている状態ではないのである。
王家と貴族の間に深い溝が生まれている。そんな事を全く気付く事ができない王であるために、貴族達はコルテア王国に対して貴族領の支援要請を一斉に突きつけた。
貴族達は王家に対して王国法を盾に援助要請を出していた。
コルテア王国法では、資金難などの場合一時的にコルテア王国が資金援助を行なう事が、王国法で明記されている、貴族達の要請は法にのっとったものであり正当な物であったが、コルテア王国貴族の半数以上がこの要請を出してきたのだ。一家だけでも資金援助など出来る状態ではないコルテア王国王は貴族に対して激怒した。
この集めりで、王国が一丸となり打倒ローマン帝国をもう一度確認するための物であり、貴族達の支援要請の場ではないと王は自分勝手な考えで貴族達をけなしている。
貴族達は、冷ややかな目で王とその側近たちを見ていた。
王「貴様らは、愛国心が足りないようだ。貴様ら全員謹慎せよ。追手沙汰を下す。下がれ。」
貴族「陛下、我らの要請は受理されるのでしょうか。」
王は、この貴族の一言でまた激怒してしまった。こいつは何を言っているのかと思っていた。
「受理するはずが無かろう、余の言葉を聞いていなかったのか。」
貴族「聞いておりました。王国法にあります資金援助の要請です。陛下の感情とは別物ですので。」
王「・・きき貴様、余が法であり、余の考えがコルテア王国の意志である。」
この一言はさすがに拙いと持ったのか王の側近たちが言い訳をしていく。
怒りで我を忘れている王を側近たちは必至に宥めている、その一方で貴族達に要請は検討する事が伝えるが正式な要請を受理したいが、今は王があの状態であるから受ける事が出来ないと必死で貴族達を説得している。
貴族達は、コルテア王国法に基づいての援助要請であり、正当な物だと主張していく。側近たちも城内の役人たちも貴族達の要請はもっともなことで受理しないなどありえない事であることは十分理解しているのだが、王が怒り心頭なこの場所で王の意に反する行動がとれないのだ。それに今の王の宣言は法の上に王があると言っているのだ。
この王と貴族達のにらに会いは何とか側近たちの説得で解散となった。
王は解散となってもまだ怒りが収まらなかった。
王「あの者達は、余の気持ちが分からんのか、ローマン帝国を打倒しなければコルテア王国は終わりなのだぞ。馬鹿なのか、領地は全て召し上げだ。代官を派遣しろ。」
側近「陛下、お待ちください。代官派遣など出来ません。人も金もないのです。」
王「何とかせよ、王国民から臨時の税を取れ。其れで賄え。」
側近「陛下、もう無理です。戦争も終わり臨時の税を取る根拠が存在しません。」
王「余が、臨時の税を取ると言っているのだ。王国民は従う義務がある。違うか。」
側近「陛下、少し冷静になりましょう。今は感情が高ぶっていらっしゃいます。この事は後日話しましょう。」
側近の一人が王を諭すように語ったが、それが王の感情を又刺激してしまった。王はこの側近を斬り殺してしまったのだ。驚いた他の側近たちは王を取り押え、睡眠薬を飲ませていた。
側近たちも色々と対策をしている。今のコルテア王は感情の上下が激しく、自分で制御できていない事は側近たちは分かっていた。戦争に負けた事でその感情の起伏を抑える事が出来なくなっているようだ。元は名君と言われるほどの者であったが、この戦争に踏み切った事で少し壊れてしまっていた。自分の判断が間違っていた事と今のコルテア王国の貧困が王を追い込んでいたのだ。
