20話 謁見と報告
数日後
いよいよギルバート領主が叙爵される。
爵位なし貴族からの叙爵(男爵)は王の前に片足を突き王に男爵として認めて貰い誓いをする。
王に男爵とされるまで一言も喋ってはならない。男爵の嫡子は特別に謁見出来ることなっている。(ただし許可なければ喋れない)
謁見の間には多くの爵位持ち貴族が並んでいる。この貴族達の多くは役人(役職者)であり特別扱いとなっている。城に勤めている間は男爵、もしくは準男爵の扱いとなっている。もちろん正式な男爵ではなく仕事上の不都合を無くす為の特別扱いである。
謁見の間に入るまでにも大きな部屋があり、そこには多くの爵位なしの貴族が集まっている。この叙爵を祝うために集まった者達である。
叙爵されジーク・フォン・ギルバート男爵となり王と蒸留酒について話をしている。
そこに宰相の部下である子爵が入ってくる。宰相に小声で報告し、後ろに控える。
宰相「陛下、ギルバート男爵領に関しての緊急報告です。」
陛下「どうした、貴族間で問題でも出たか。」
宰相「さすが陛下でございます。臣は感服いたします。」
陛下「・・・どのような事だ。」
宰相の話は、衝撃的であった。
ギルバート領主不在時に難民が助けを求めてギルバート領に押し寄せる。それをギルバート領は保護に動くがクレイン領の兵が邪魔をしてくクレイン側がギルバート家に宣戦布告した。
ジーク「おお待ちください。我が領地には今兵がほとんどおりません。」
ジーク焦った。優秀な騎士達をこの王都に連れてきてしまっているのだ。そして最大戦力である。自分とレビンまでも王都にいるのだ。これから戦場に駆けつける事は事実上不可能である。そのために不況覚悟で話に割り込んだのだ。
宰相「男爵、落ち着きなされ。話を聞いてから意見を」
宣戦布告を受けたギルバート領主代行の代行補佐である。アルフォード・ギルバートとカイン・ギルバートは領主代行である、イメルダ領主代行から一任され戦場へと向かい見事勝利したという報告であった。
陛下「アルフォードとカインは幾つだ。」ジークを見る
ジーク「カインは今年成人します。今は14歳です。アルフォード10歳となります。」
ザワザワザザワザワ
陛下「ギルバードは兵が精強と聞いていたが子供まで強いのか。」
宰相「陛下それだけはございません。報告によりますとギルバート兵240に対しクレイン兵2000との事です。
ザワザワザワザワザワ
ジークは驚きを隠せなかった、アルとカインが強い事は分かっている。剣の腕前も中々だ。それに魔法まで使う事が出来る。その辺の騎士や兵士など相手にもならないだろう。
だが領軍2000が相手では多少の強さなど関係ないのだ。・・・それを勝っただと。
宰相の報告は続く
「それと決戦前に誓紙が交わされております。教会を立会人として正式な誓紙です。内容は領地を賭けた決戦です。」
陛下「何ッ。」
領地を賭けた戦などほとんどない。いくら名誉だ矜持だと騒いでも領地を賭けた戦などやらない。金で解決が基本である。貴族にとって領地とは自分の命より大事な物である。
宰相「誓紙で内容は確定しております。勝敗が決定したのですから内容に沿って処理すればよいのですが、一つ問題が出てきました。クレイン領とギルバート領の戦いですが、そこにラーク領の領地が絡んでいます。現状ラーク領の領地は半分ほどクレイン領に占領されております。誓紙ではクレイン領となっております。」
陛下「・・・・・・問題だな。」
宰相「ラーク領主はまだ健在でクレイン領と戦争中です。」
ラーク領はほぼ負けが確定していた、後数日もすればラーク領主は降参していただろう。
陛下「ジーク男爵、ラーク領を傘下(寄子)とするか、出来ぬ場合は滅ぼすことを許可しよう。」
ジーク「はっ、最善を尽くします。」
ザワザワザワザワザワザワザワザワザワ
ザワザワが止まらない。衝撃の事実が多すぎて話題が尽きない。
それからの謁見は、伝達事項(大樽蒸留酒)を伝え簡単に終わった。(誰も話を聞いていなかった。)
これがのちに大問題と発展する。酒の恨みは恐ろしい。
ジークたちは城を離れ、宿に戻って来た。
みんな暗い表情をしている。
祖父「レビン、クリスと共に領地に急いで戻れ。騎士は半分連れていけ。」
父「はい。ラーク領の扱いはいかがしましょう。」
祖父「領主が寄子を承諾するならば、・・・領地を返しても良い。」
父「一任していただけますか。」
祖父「すべて任せるぞ。イメルダもカインとアルに戦争を任せたのだ。」
父「私が戻るまでに解決してそうですね。」
祖父「そうかもな。良い息子を持ったな。」
クリス「・・・・・・・」
祖父「それにしても、よく勝てたものだな。」
父「そうですね。早ければこの宿にも報告が来そうですね。」
祖父「そうだな。」
そのような話をしていると本当に早馬が到着した。
ボロボロになった一人の騎士が部屋に入ってくる。
祖父「よくぞ参った。」
騎士「はっ。ギルバート領とクレイン軍は・・・・・・・・・・・」
「「「「・・・・・・・」」」」
祖父「アルはまだ10歳だな、末恐ろしいな。カインも凄まじいな。」
父「それよりもカルロスですな、あの者にあのような才能があったとは。」
2000対240の戦いを聞いたジークたちは背筋が凍り付いた。10歳の少年が領地を賭けた戦いに誘い込みそれに勝利した事実に。
騎士「カルロス殿の演技力は大変なものと噂になっています。」
父「ぶほっ。クククッ、帰ったら実際に演技してもらおう。くくく。」
祖父「そそうだな。くくくっ。それよりもクリス、アルとカインが活躍をした。お前にも活躍の場を設けなくてはなラーク領との交渉を全て任せるぞ。」
クリス「えっ、私が・・・・・やります。やらせてください。」
父はニコニコしていた。
それから夜が明けるまでジーク、レビン、クリスの3人は今後の方針を話し合った。急がないとアルとカインが話を進めてしまうからだ。
祖父「ではそのようにするか。儂はまだ王都に残ってあいさつ回りを行なう。蒸留酒の事で色々とうるさそうだしな。当分王都暮らしに成りそうじゃな。」
父「それならば、屋敷を買いましょう。幸い資金もありますから。男爵家が王都に屋敷もないのかと言われかねません。」
祖父「そうだな。絶対言われるな。」
こうして二手に分かれたジークの王都滞在組とレビンの帰る者達に別れ、翌朝レビンたちはギルバート領に向かった。