143話 フェアネル兵対マセル王国軍
フェアネス王国軍の前にはレイボン王国の民が並べられていた。まともな武器も与えらられずに最前線に置かれている。真後ろにマセル王国軍がいるために逃げ出す事も出来ない。
マセル王国軍は、レイボン王国の民をすり潰す気なのだろう。
そこにフェアネス王国軍の中から一人の青年が現れる。
「レイボン王国の民たちよ。我はレイボン王国王子、マイヤードである。レイボンの民たちよ。こちらに走れーー、力の限り走れーーーー。」
このマイヤードの言葉でレイボン王国の民たちは気づいた。前面の敵陣に駆けこめば助かる。敵は敵ではなかったことに気づいたのだった。
「走れーーーーーーーー。」
「「「「うおおおおおーーーーー」」」」
大きな掛け声とともにレイボンの民たちが走る、走る走っている。必死で駆ける民たち、唖然と見送るマセル王国軍であった。
そして一歩遅れてマセル王国軍が、敵に突撃の指示をだした。だがもう遅かった。
レイボンの民たちは駆け抜けてしまう。民と軍の間は100Mも開いていた。
そして、フェアネスの兵たちが前進する。レイボンの民とすれ違う、フェアネスの兵はレイボンの民に対して何もしない。
フェアネスの兵は前進を止める事はしない、そしてマセル王国軍と真正面から激突した。
フェアネス王国兵3000、マセル王国軍5000であった。
フェアネス兵は強い。各王国の騎士にも引けを取る事は無い。強靭な肉体と巧みな剣さばきで相手のT騎士たちを殺していく。
フェアネス王国の兵の半分程度はスキルを持っている。だがもう半分は何のスキルも持っていないのだ。それでも強い。猛訓練で培った能力である。誰にも負けない精神力は世界一だろう。その裏付けが治療魔法なのであった。首さえあれば元通りになる、即死しなければ助かる。これだけでも敵の前に一歩出る事が出来たのだ。
その一歩は大きな違いであった。腰の引けたものと、敵を前にして一歩前に出る事の出来る兵とでは戦場で天と地ほどの違いが出てくる。腰の引けた剣では相手を殺せない。精々傷をつけるぐらいだ。だが前に出る事の出来る兵の剣は鋭い。敵を突き刺し、斬り抜く事が出来る。相手に致命傷を与えていた。
フェアネス兵は3000で5000の兵を殺し切った。生き残りも多くいるが無傷な者はいなかった。
そしてこの強さを目撃したマセル王国軍幹部たちは逃げ出していた。
兵を置き去りに我さきにと逃げていた。
フェアネス王国の兵たちもさすがに追撃は出来ない。一度休憩を挟んでから進軍を開始する。
レイボン王国の王子は兵の強さに身震いしていた。何のスキルもない者達でもここまで強くなることに感動していた。実はこの兵たちは、猛訓練によって身体強化を習得していた。本人たちも気づいていなかった事だ。即死しなければ生き返るなど普通の訓練ではないのだ。異常な訓練なのだ。
そんな訓練を行なえばスキルの一つや二つ生えてくる。
ただスキルオーブを使用していない為にまだ気づいていないだけなのであった。
この戦いは、兵士が主役の初めての戦いであった。兵士たちは大きな歓声を挙げ喜んだ。
マセル王国
王「負けただと、ふざけるなー、ワイバーンのいない軍に負けるだと。この無能者どもがー。」
騎士「陛下、フェアネス王国へは強すぎます。普通の兵ではありません。」
王「ええい、言い訳はいい、勝て、良いな絶対に勝て。勝たなければこの国は終わりだ。どんな方法でもいい、勝つのだ。」
騎士「分かりました。」
騎士は王の前から姿を消す。そして王国からも姿を消していた。
マセル王国の騎士や兵たちも愛国心はあった。だがそれも6か国同盟を結ぶまでであった。マセル王国が6か国同盟の盟主になってから何かがおかしくなっていった。
それまでは多少我儘な事はあるが王としての責務をキチンとこなしていた。
それが盟主になったとたんにおかしくなった。
7連国と9か国に対抗意識だけが成長してしまったのだろうか、マセル王は何かに取りつかれたように対抗意識だけが盛り上がっていた。王だけが異常に盛り上がっていても騎士や兵たちは盛り下がっている。冷静な判断が出来れば今の状況は非常に拙い状況だと判断が出来る。マセル王は城の中から喚いているだけだ。城の外には目をそらしている。
マセル王国の騎士が一人抜けた事が皆に知れ渡る。騎士は身分が高い、貴族とまでは言わないがこの国では高位の者とされる。その騎士が国を捨てた、そして又騎士が一人二人と姿を消していく。兵も一人減り二人減りといなくなっていく。もう誰も何も言わなくなっていた。
数日後には、騎士は殆んどいなくなっていた。兵も故郷に帰った者が多い。王都に家を持つ者が残っている状態となっていた。
もうこれでは戦う事も出来ないだろう。だがフェアネス王国軍が今王都直前まで迫っていた。
王都に残された騎士や兵たちは自分たちが助かる為に王を殺した。
王の悪政を正したとフェアネス王国軍に王の首を持ち込んできた。
驚いたのは総指揮官デラであった。
デラは軍の最後尾にいた。戦闘は専門外の為に最後尾にいたのだが、急ぎ前線に出てきた。
マセル王国王の首を確認した。そしてそのままマセル王国王都に入場を果たした。
デラは、この事実をマセル王国全体に伝えた。事実をそのまま伝えた。王国民がどのような判断をするのかは分からないが、フェアネス王国は事実を伝える。
マセル王国の王は死んだがまだ後継者は生きていた。この国の王子だ。だがこの状況では王子の王位に着く事は無いだろう。王国民が受け入れないし周辺国も受け入れない。
だが王子一人だけは自分が王となると思っている。あの王にしてこの王子であった。
そしてマセル王国に戻って来た騎士たちも王子を指示しなかった。もちろん貴族達も王子を指示していない。日頃の行いがものを言う事だろう。
そうなると次期王をどうするか、デラはアルに相談したが、もう王の当てもないとの答えであった。
困ったデラは、6カ国の婚姻関係を調べた。王族は王族同士で婚姻を結ぶことが多い。このマセル王国も過去に何度か外国と婚姻関係を結んでいる。王家の血を少しだけ継いでいる者を探した。王家の血の濃いものを王にするわけにはいかない。王国民が納得しないだろう。だが全く関係のない者も王には出来ない。そこでもう関係の切れている者で王家の血筋の者を探したのだ。