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転生少女は今日もご機嫌♪  作者: しんた☆
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第6話

 結果的には、クリスのゆっくりのんびりな番組は意外に高評価だった。植物と話すのが趣味というだけあって、植物の気持ちを取り込んだ、季節の花々の情報を織り込みながら、ふんわりしたしゃべり方が癒されると喜ばれたのだ。放送部のメンバーはすっかり有名人になって、最近では、部活の日は放送室前にローランドやアーノルドのファンの子が並ぶほどだった。


「アーノルドのDJ最高だわ。彼女にしてほしい!」

「私は断然ローランドよ。クールでかっこいいわぁ。今日は手紙を書いてきたの。」

「えーダメよ。彼は私が先に目をつけていたのよ。」


 いよいよ人だかりが多くなって、放送室付近は立ち止まり禁止となるほどだった。


 その日も部活にやってきたクリスは、ファンの子たちが言いたい放題話しているのを複雑な気持ちで聞いていた。放送室の扉を開けると、少しでも中を見ようとわっと人だかりができる始末だ。


「「はぁ。。。」」


 ため息が重なって、顔をあげると、部室にはエレナが肩を落として座っていた。言葉には出さないが、思うところがあるのだろうと、クリスは考えた。


『やっぱり、エレナ先輩はローランド先輩が好きなのかなぁ。』


 廊下が騒がしくなってドアが開くと、ローランドが入ってきた。エレナは眉尻を下げてローランドと苦笑しあう。


「あ、そうだ。これ。」

「わぁ、ありがとう!」


 エレナは頬を染めて嬉しそうに何かのチケットを受け取っている。ローランドはそのまま棚の本を取り出して黙読し始めていたが、それを見ていたクリスは、どうしてか、モヤモヤが沸き起こってしまう。もしかして、っと思っていた考えは、クリスの中で確定されていく。

よく考えたら、自分は最近入ったばかりの新入生で、二人にはそれまでに協力してきた時間がある。目を合わせただけで、通じ合うものがあるんだと思うと、クリスは一気にローランドとの距離を痛感した。


 不安がっている後輩を励ますのは、部長なんだから当然だった。私ったら、自分の事をちゃんと見てくれているなんて、大きな勘違いだった。鼻の奥がツーンとなる。


「あの、ちょっと急用を思い出したので、失礼します。」


たまらなくなって、早退する旨を告げると、放送室を飛び出してしまった。そして、校門を抜けると、体中の力が抜け落ちたように、座り込んでしまった。気が付くと、部活動のない生徒たちが不思議そうにチラ見しながら通り過ぎていく。


「はぁ。先輩は私のしゃべり方が割と好きって言っただけだったのに、すっかりその気になって、バカみたい。そうだよ。後輩を励ましてくれただけだったんだわ。」


クリスは気持ちを切り替えて歩き出した。駅までの道を歩いていると、並木がさわさわとクリスに微笑みかける。


「どうしたの?元気を出して。」

「ごめんね。今日は笑顔になれなくて…」


 そんな優しい声にもこたえることが出来ず、自宅までの道を駆けだしていった。


「あれ?クリス、まだ来てへんの?」

「あら、なんか急用ができたからって、さっき帰ったわよ。」

「そうですか。しゃーないなぁ。」

「それより、ベルカの番組、面白いわね。私のクラスでも人気が高いわよ」

「ホンマですか?やったー!」


 憧れのエレナから褒められて、ベルタはご機嫌、のはずだったが、クリスと一緒に喜べないのはなんだか物足りない感じがする。

 部活が終わると、ベルカは駅前のカフェに立ち寄っていた。本当は、今日はクリスとここに来る約束だったのだ。


「カフェ・ブランカか。しゃーないな。うちが先に下調べしといたるか。」


 明るい店内に足を踏み入れると、ちょい悪風のお兄さんと同年代の男の子が出迎えてくれた。


「いらっしゃい。一人?よかったら、こっちのカウンターに来ない?」

「ええの? やった!」

「マリオ、メニューとお水ね。 この店は初めて? よかったらゆっくりしていってね」

「はーい。」


 マリオと呼ばれた男の子が、店長っと呼んでいたので、この人が店長なのか。明るい雰囲気だし、次はクリスを連れて来よう。それにしても、さっきの店長さん、なんだか見慣れた色の髪をしてたなぁ。ベルタがぼんやり店長を目で追っていると、目の前にメニュー表が置かれた。

 

「注文が決まったら教えて…あーっ!これって、探偵ポイポイじゃん!チョーかわいい!」

「ええ、ポイポイ知ってるの?これ、面白いやんなぁ!」

「俺、助手のホイホイの奴、つけてるよ。ほら!」


 マリオと呼ばれたウエイターの男の子は、ズボンの後ろポケットに吊るしているキーホルダーを見せた。


「うわっ!めっちゃ可愛いやん!嬉しいなぁ。ポイポイ仲間に会えるとは思わんかったわ。じゃあ、ケーキセット食べようっと!」

「ケーキセットね。店長、ケーキセット1です!」

「今日な、ホンマは友達と来るつもりやったんやけど、急用ができたらしくて、帰ってしもてん。だから、明日、もう一回来るわな。」

「いつでも大歓迎だポイ!」

「やったぁ!嬉しいホイ!」

 

 ノリのいいウエイターにベルタはご機嫌だった。


 翌日、まだモヤモヤした気分はすっきりしないが、クリスはダンディライアンの世話を理由に自分を励ましながら学校に来た。数日前に席替えがあって、ロイと離れたこともあり、クラスでは穏やかに過ごすことが出来ていた。

 そして、放課後。ベルタと揃って部室に向かうと、またしても、ローランドがダンディライアンに水を与えていた。


「あ、あの。先輩。ありがとうございます。」


俯いたまま通り過ぎようとするクリスに声を掛けてきたのは、意外にもローランドだった。


「ああ、クリス。この前選んでいたブラックキャットのライブが近々あるんだが、知ってるか?」

「え?そうなんですか?!」


 顔を見るのも辛いと思っていたくせに、大好きなバンド・ブラックキャットの名前につられて飛びついてしまった。若干の後悔をにじませた顔にもめげずに、ローランドは続ける。


「しかも、駅の反対側のダイヤモンドホールだそうだ。」

「そ、そんな近くで?!」


 エレナ先輩を誘うのかな。自分がそのライブに行って、向こうで先輩たちに遭遇するのはちょっと辛いかな。クリスの視線はじわじわと下がっていく。


「クリス。どないしたん? なぁ、帰りにおいしいもん食べにいこ。なんか知らんけど、後でゆっくり話聞いたるから。」

「う、うん。」


 その日の部活をなんとかやり過ごすと、ベルタに連れられて、クリスはカフェ・ブランカにやってきた。明るい店内においしそうなスイーツ。クリスは少しだけ気持ちが上向いてきたのを感じられた。


「いらっしゃい。あれ?」


 声を掛けた店長が、じっとクリスを凝視している。その隣で、マリオもなぜか嬉しそうにしていた。



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