第1話
学園ものです。青春です。
ふんわりイメージの、内気で自信のないクリス(クリスティーナ)と元気いっぱいの明るい親友ベルカが憧れの高校に入学。憧れの人に出会います。
転生少女は今日もご機嫌♪
真新しい制服を身に着けた学生たちが、ぞろぞろと正門を入っていく。今日は、入学式なのだ。
「ねえ、ベルカ。そんなにキャラクターグッズじゃらじゃらつけて、叱られないの?」
「なにゆうてんねん、探偵ポイポイやで。全国的にめっちゃ人気やねんから。これで友達も絶対できると思うわ。あ、クリス!こっちや。クラス発表されてるで!」
「もう、ホントに大丈夫なのかなぁ? あ、ベルタ、待ってよ。この制服ブカブカでなんか動きにくいのぉ。」
クリスこと、クリスティーナ・スミスは、はちみつ色のふんわりやわらかな髪と春霞のような優しい水色の瞳が印象的な女の子だ。見た目同様、おっとりとした性格をしている。それに対してベルタは、夏の空のようなくっきりとした青色の瞳につやつやの黒髪の元気いっぱいの女の子だ。二人は幼馴染だが、どういうわけか、ベルタは祖母の故郷の方言で話すという。
「やった!おんなじクラスや!」
「ほんと、よかったぁ。」
二人は手を取り合って喜んだ。そんなクリスの手をぎゅっと握りしめて、ベルタが真剣な顔になって言う。
「ところで、クラブのことなんやけど。クリスはどこに入部するか決めてる?」
「ううん。まだ入学したばっかりだもの…」
「なぁなぁ。うちと一緒に放送部入ろうよ。」
「放送部?」
ベルタは柄にもなく照れ臭そうにお願いのポーズを見せる。らしくない姿に、クリスは思わずクスっと笑みをこぼした。
入学式が終わって教室に入ると、みんな落ち着かない雰囲気だ。このクラスは魔法が使える生徒を集めたクラスで、2年からは、クリスたちのように将来魔法を使うことを考えていない生徒と、職業上魔法を使うことを考えている生徒に分かれることになる。
「入学、おめでとう。今日から君たちは、この国立魔法学校の仲間だ。みんなで切磋琢磨して、腕を磨いてほしい。」
先生の話は続いていたが、クリスの後ろの席の生徒が、突然ドサリと倒れこんで、クラスは騒然となった。
「大丈夫か? 誰か魔法を使ったのか?」
担任のブラウン先生が、クラスを見渡す。しかし、誰も手をあげる者はいなかった。
『ど、どうしよう。誰も助けてあげないの?息が苦しそう、顔も赤い…この感じ、見たことがある!』
クリスは見かねて倒れた生徒の前にしゃがみこみ、顔色を覗き込んだ。
「あの…。先生、もしかしたら、魔力酔いかもしれません。顔が赤いし、息が浅いみたいです」
「え? …そ、そうか。」
そういうと、ブラウン先生は慌てて名簿を覗き込む。そこには、倒れた生徒の特性が描かれていた。ロイ・ベック。魔法の属性鑑定ができる人物だ。魔力は持っているが、制御の仕方に不慣れな生徒に囲まれた魔力酔いだろう。ブラウン先生は、納得して、ロイを保健室に移動させた。
放課後、隣の席のマリルがクリスに声を掛ける。
「あなた、すごいわね。みんな緊張して他人の事どころじゃなかったのに。でも、どうして魔力酔いって分かったの?」
「えっと、弟も、鑑定の魔力を持っていて、時々あんな風に倒れるの。割とすぐ元気になるんだけどね。」
「そうなのね。私はマリル。マリル・ベイカーよ。あなた、お名前は?」
「クリスティーナ・スミス。友達はクリスって呼ぶの。」
「じゃあ、クリス。これからよろしくね。そういえば 、弟君、鑑定ができるんだって?じゃあ、きっとここに入学することになるのね。」
「ん、多分ね。」
そう言いながら、魔力は膨大なのに感情のコントロールが苦手な、ちょっと生意気な弟を思い出して、小さなため息をついた。両親は、弟だけを贔屓にするわけでもなく、自分も大切に育てられたと分かっているが、弟のように将来が約束されているわけではない自分は、何の役にも立ちそうにない。
「クリス、帰ろ!明日はクラブ見学があるから、一緒に回ろな!」
「う、うん。」
クリスは、目の前のこの夏空色のきれいな青い瞳を持つ少女が大好きだ。何か、自分を卑下するような思考に陥ると、どこからともなく声を掛け、底抜けに明るい笑顔をくれるのだ。
家に帰ると、クリスはさっさと自分の部屋に飛び込んだ。実は、クリスには特殊な能力がある。それは、部屋のベランダに並べられた多種多様な植物たちと話をすること。今日も待ち構えていた草花たちが一斉にクリスに声を掛ける。
「クリス、お帰り!ねえねえ、学校はどうだった?」
「新しい友達はできそう?」
そんな彼らの質問に一つ一つ丁寧に答えるのが、クリスのご機嫌なひと時だ。クリスが帰ってくると、草花たちは生き生きと咲き乱れ、ベランダが一気に華やぐのだ。
「ヴィオラ、そろそろ肥料を入れようか?」
「そうね、最近少し疲れやすいわ。季節が変わったのね。」
「ねえねえ、クリス。少しすっきりしてくれない?花が次々咲きすぎて、暑苦しいの。」
「まぁ!ジュリアンは花盛りね。今のうちに花がら摘みをしてあげるわ。」
草花と話しているうちに、肩の力が抜けて行く。そっか、私、緊張してたんだ。ふうっと小さなため息をついて、自室を振り返る。中に掛けてある魔法学校の制服に、明日からの出会いを思い描いてみた。
ベルタは放送部に行くって言ってたけど、私にできることなんてあるのかなぁ。
次の日、ベルタと連れ立って学校に行くと、校舎の入り口に真っ赤な花束を抱えた男子生徒が立っていた。
「うわ、なんや、あれ?」
「花束を持ってるみたいね」
「いや、それは分かるけど。誰か好きな人にでも渡すんかなぁ?勇気あるよなぁ。朝っぱらから」
呆れるベルタの横で、クリスは苦笑いを浮かべた。あんなものを公衆の面前でもらう方が恥ずかしい。相手の子が大変だ。近づいていくと、男子生徒は昨日倒れたロイだと分かった。
「おはよう。」
二人がロイの横を通り過ぎようとすると、すっとクリスの目の前にロイが立ちふさがった。
「クリスティーナ。昨日は助けてくれてありがとう。これ、僕の気持ちなんだ。受け取ってくれ!」
「は、はぇ?!」
驚きすぎて声が上ずったクリスを、ベルタが庇った。
「あのさぁ、こんな人前で、しかも朝っぱらから、やめたってよ。この状況で受け取れる女子なんか、いてないよ。まあ、せいぜいこのぐらいやな。」
そういうと、花束の中から一本だけ抜き取って、クリスに渡した。
「こいつの気持ちらしいから、とりあえずもろたって。はい、この話はこれでおしまいや!あ…」
ベルタがクリスに花を一本渡そうとして気が付いた。クリスは驚きすぎて目に一杯涙をためていたのだ。
「わ。ご、ごめん。泣かないで!困らせるつもりじゃ…」
「ほら、クリス!大丈夫やから」
後ろから同じクラスのクロエも登校してきた。クロエはベルカの隣の席の生徒だ。
「ベルタ、クリス、おはよう!あれ、その花束どうしたの?」
「ロイがクラスに飾ろうって言うて、持って来てくれたんや。」
「へぇ、ロイ、ありがとうね。私、生けてあげるよ。ほら、かして!」
クロエが花束をもってさっさと行ってしまったので、その場はなんとか治まりを見せた。
「クリス、ごめんね。だけど、昨日助けてくれたこと、すごく嬉しかったんだ。」
「う、うん。」
はぁーっとため息をついてベルタが割って入る。
「ごめんな、ロイ。この子、コミ障やから、こういうの、特に苦手やねん。許したってな。ほら、クリス、行くで」
「う、うん。あの…。ありがとう。」
クリスは握りしめていた一本の花を見つめて、そっとつぶやくと、ベルタに引っ張って行かれた。それを見送ったロイは、胸のあたりを抑えて座り込む。
「や、やばい。かわいすぎる!」
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