第九話 日常の繰り返しが壊れる
「っ・・・!!??」
「・・・・なんだよこれ!!?」
一瞬、時間が止まったような感覚になり、突如ひどい耳鳴りが二人を襲った。
そして、空間が歪んでいく。
「ぁ・・・ぅ・・・」
耳鳴りは大きくなるばかり。
琶月には何が起こっているのかわからなかった。
イタイ。
イタイ。
ココロノオクガイタイ。
琶月は、頭を抑えながらしゃがみこんだ。
頭が壊れそうだ・・・!!
まず、状況を確認しなければ。
とにかく人を、誰か・・・!
――泰人先輩
かすれてよく見えない目で泰人先輩の姿を探す。
琶月の瞳に映った泰人先輩は、琶月と同様に苦しんでいた。
「た、と・・・せんぱ・・・」
必死に声を出そうとしたが、声という声は出ず。
不安が琶月の心を襲った。
「いった・・い、どうなってっ・・・?」
琶月は泰人先輩に手を伸ばした。
すると。
「・・・っのやろう!!」
泰人先輩は琶月の手をとり、引き寄せる。
次の瞬間。
鋭い風が二人を包み込んだ。
「・・・あれ?耳鳴りが・・・」
「大丈夫だった!!!??」
泰人先輩が琶月に、勢いよく問いかける。
この風に包まれてからは耳鳴りもなくなり、安心できた。
「私は何もありませんでした。泰人先輩こそ大丈夫なんですか?ひどい耳鳴りがありましたけど・・・」
そう答えると、「よかった~!」といいながら、泰人先輩は息をついた。
しかし、この風は一体・・・?
そして、今何が起こっている?
琶月が聞く前に、泰人先輩は答えてくれた。
「この風は俺の力。天狗だよ、天狗。これで俺はせこいことしてたんだよなぁ・・・」
「これが・・・泰人先輩の、力・・・?」
泰人先輩は、寂しそうに笑った。
――すごい。
妖と契約した者は、このような力を手に入れられるのか。
おもわず感心してしまった。
そして、一つの疑問を抱く。
・・・なぜ彼らはこれほどの力を得ていながら『普通』に戻りたいのだろうか?
「泰人先ぱ・・・」
でも、聞けなかった。
だって、あまりにつらそうな顔をしているから。
泰人先輩は、風の向こうをじっとみすえている。
琶月は、ただただその姿を見つめていることしかできなかった。
そして、泰人先輩は言った。
「今、耳鳴りの元凶を見つけた」
「耳鳴りの元凶、ですか・・・?」
私達をこの状況に陥れた張本人がいるというのか。
まさに『普通』ではない。
背筋がぞっとした。
そんな琶月に気付いたのか、泰人先輩は琶月の肩をぽんとたたいた。
「大丈夫。俺がなんとかするから」
泰人先輩の言葉と笑顔は、とても温かくて、心に染み渡った。
でも、泰人先輩は次の瞬間には目つきを鋭くさせていた。
「琶月・・・ちょっと下がってて」
「は、はい」
泰人先輩は目線を変えずに琶月を後ろに移動させる。
・・・しかけるようだ。
琶月はうなづいた。
――そのときの泰人先輩は、その瞳は・・・赤く光ったように見えた。
「・・・・・」
そして、静かに息を吐いた。
すると・・・
ひゅんっ!!
風が風を裂いた。
「!!?」
裂いた部分に小さく穴があき、見慣れた生徒会室の一部が見える。
そこには―――
紙っぺらが一枚、浮いていた。