第十九話 嘘
「・・・・ぅ、ん?」
琶月の目が覚めてから一番最初に見たのは、心配そうに琶月の顔を覗き込んでいる俊祐だった。
「姉さん!!桃真兄ちゃん、姉さん起きたよ!」
「お、そうか」
桃真の声も聞こえたかと思うと、視界の中に桃真が入る。
「あれ?僕らさっききたばっかりなのに、もう目さめちゃったの?」
「さきほどきたばかりなのに目が覚めたからどうだというのだ」
「いやいや、遊の意見も一理あるぜ?琶月ちゃんのかわいい寝顔・・・」
三人の声が聞こえると、凪森先輩・陸原先輩・泰人先輩も集まってくる。
それ以外は、何も聞こえない。
琶月は一番に疑問が浮かぶ。
「あの・・・真鶴君はどうしたんですか?」
そして琶月は体を起こす。
「真鶴はね、今日はちょっと外せない用事があるんだって。全く姉さんよりも優先される用事があるっていうのがナゾだよね!」
俊祐はぷんすか怒りながら言う。
その姿が妙にかわいらしい。
そういえば、俊祐がホントに怒っているところなどいままで見たことがない。
俊祐はかわいく怒ることしかできないのだろうか。
「用事は用事なんです。怒ることではないですよ」
「んー・・・」
俊祐は不満そうに返事をした。
「にしても、何で私はここにいるんですか~?」
一瞬にして空気がなくなったようなきがした。
☆★☆
琶月達は生徒会室に行き、あのときのことを話した。
「ふぅん。僕がいないあいだにそんなことがあったんだね」
「琶月が水を飲みに行き、途中で桃真に会った。そのあと、見知らぬ男に契約や記憶のことを言われ、意識を落とされた・・・でいいのか?」
「ごめん。俺がついていっていれば・・・」
「姉さん!?ホントにそれだけ!?何にもされてない!?」
琶月は静かにうなづいた。
そして、視線は桃真に集まる。
「桃真君は・・・何を視たんですか?」
みんな、黙って桃真の答えを待った。
桃真は一つ息を吐いて、少しだけ瞳を閉じる。
「俺は、何も視ていない。俺が知っているのは、あの男を見た瞬間までで、何が起こったのかは一切わからない」
それを聞いて、空気の緊張がとけた感じがした。
「そうですか。ってことは、あの人とお話ししたのは私だけのようですね。一つ確かなのは、あの人は三年生で妖に関係があるということです」
「そっかあ。真鶴にも知らせとかないとな。おう、同じ一年の俊祐!頼んだぞ!!」
「おうっす!泰人先輩・・・って、明日の朝絶対会えるじゃないすか」
「だな」
「そうだねぇ」
そしてしばしの沈黙。
切り出したのは桃真だった。
「さ、帰ろうか。もう外は暗いぞ」
「そうですね~。帰りましょう」
そして、静かな廊下をにぎやかに歩いていくのだった。
・・・・琶月は気付いていた。
桃真が『嘘』をついていることに・・・・。