第十八話 記憶の中の
「・・・あれ?」
桃真は目を覚まし、自分のまわりを見回す。
真っ白なベッド、体重計や救急箱、そして消毒液のほのかなにおい。
そこは、何処からどう見ても保健室だった。
「なんで俺、ここにいるんだ?」
先生はいない。
そのときふと、自分が視たものを思い出す。
「・・・あれは・・・一体・・・?」
『あのときの真実を・・・あの魔女に恋焦がれた陰陽師が正しかったかどうかを、見つけて欲しい。もしも陰陽師が魔女を消すことを願ったなら、それを叶えてほしい』
「・・・未来視し神の、記憶?」
「そうだ」
そのとき、誰も答えてはくれないと思っていながらも口にした疑問に、返事をしたものがいた。
「っ!!?」
桃真は反射的に、その声のしたほうを向く。
いたのは・・・見知らぬ男。
記憶を視る前に、最後に見た男だった。
「うっ!!」
次の瞬間、ひどい頭痛に襲われる。
男が近づいてくる様子を、かすれた視界で見ていることしかできなかった。
「やっと目覚めたと思ったら僕を見て頭痛だなんて、お前も大変だな」
その男の姿を見ているにつれて、蘇ってくるあの出来事。
「琶、月・・・!」
どうして俺は、大事なやつを忘れていたんだ!?
桃真は琶月を必死で探す。
すると、男が目の前まできていて、隣のベッドを隠していた真っ白なカーテンをあけて言った。
「大丈夫だ。こいつも、少し眠っているだけ」
その向こうには、ベッドで横になっている琶月。
本当にすーすーとかわいい寝息を立てて眠っているだけだたため、ほっと胸をなでおろす。
頭痛はいつも間にかひいていた。
「ところで、桃真君。」
男が俺を呼んだ。
どうして俺の名前を知っているのか。
「・・・何者だ?」
「さぁな」
聞いてもきっぱりと言われてしまったため、言葉が出なかった。
少し黙っていると、男が言う。
「お前は、何を視た?」
「!!?」
本当にこいつは、何者なんだ!?
なぜそんなことを聞く!?
なぜ知っている!?
桃真は、その男を睨んだ。
・・・人を睨むのは、久しぶりだった。
そのかいあってか、男は苦笑しながら「そう睨むなよ」と言って保健室のドアに近づいていく。
もう保健室を出るつもりなのだろう。
そして、ドアノブに手をかけたところで、動きがぴたりと止まった。
「・・・僕が何者なのか、一刻も早く知りたそうな感じだな。今言わなくてもじきにわかっちゃうだろうけど、特別にお前には教えるよ」
桃真は何も言わずに、ただずっと聞いている。
すると男は、顔だけ振り向いて・・・
・・・一番のキーワードを言った。
「僕は、君の陰陽師殿」
「!!!??」
そして保健室のドアが、ぎぃと音を立ててから、バタンとしまる。
「陰陽師、殿・・・・」
俺じゃない俺が、しゃべったような気がした。