第十七話 未来視し神
「ここはどこだ・・・?」
真っ暗で何も見えない。聞こえない。
冷たい、水の底に沈んでゆくようなかんじ。
一体何がどうなっているんだろうか。
誰も答えてはくれない。
そのとき、俺の耳に初めて音が入った。
『君を、記憶の中へ』
誰がどこで言ったのかはわからない。
その言葉が俺の中で響き、俺の意識は水の底へ沈んでいった。
「―――未来視し神よ。お前も眠るのだな」
私は、未来を視ることのできる『未来視し神』。
私はある男の声で目を覚ます。
「陰陽師殿か・・・。私も、眠くなることはある」
未来視し神は体を起こした。
私はいつのまにか、寝てしまっていたらしい。
ここは寺。
陰陽の血を引くものの家である。
「今、夢を見た」
「へぇ。神も夢を見るものなのだな」
陰陽師は、私のような神を駆除せねばならない。
だがこの陰陽師殿は、逆に助けてくださった。
私はこの方を慕っている。
力になれることには、最大限の力を捧げよう。
幸せを見つけたのなら、その幸せを最大限の気持ちで支えよう。
私は誓った。
「最近 陰陽師殿はあの女子のもとへ行っているようだが、そこまで気に入ったのか?私から見てもあの女子、容姿も内面も魅せられるものがあると思うが・・・。どうも心から信頼できぬ」
そう。陰陽師殿は、ある女子のもとへ会いに行っている。
だが、私はその女子の名を知らない。
・・・陰陽師殿が語らず、私が探ろうとすればごまかすのならば、私は深入りしない。
「僕は、彼女を好いている。この命に代えても守ってみせよう。・・・お前もそのようなことを言うな。僕が好いているのだ」
「わかっている。陰陽師殿がそうおっしゃるなら、私も守ってみせましょう」
陰陽師殿は、恋というものを知ったようだ。
・・・この瞬間までの間、何が起こったのかはわからない。
私は見てしまった。知ってしまった。
彼女は『魔女』。
この世界で一番、穢れに染まった神。
どのような者も、どのような理由があろうとも・・・決して恋心を抱いてはいけない女。
もちろん、私も。
そして、一番赦されないのは陰陽師殿。
だが、彼らは会っていた。
こんなことがバレてしまったら、双方とも他の陰陽師に殺されてしまう。
陰陽師が魔女を殺し、陰陽師の白を示すか。
魔女が陰陽師を殺し、魔女の黒を示すか。
それしか助かる方法はないだろう。
・・・私が見たのは返り血に染まった、魔女だった。
そして、近くに横たわる真っ赤な陰陽師殿と、たくさんの死体。
私の感覚は正しかった。
信じてはいけなかった。
魔女は、真っ赤な陰陽師殿をちらりと見て何かを呟くと、山の中へ走っていった。
陰陽師殿は、本当に死んでいた。
陰陽師殿は、これが叶わぬ恋だというのを知っていたのだろうか。
私は、陰陽師殿の心臓に刺さったナイフを抜き取る。
そして、そのナイフの先端が私の喉に・・・
・・・その先は。
ない。
私が見ていたのは、それだけ。
だから、何が正しいのかわからない。
陰陽師殿は、魔女に惑わされていたのか。
純粋な恋だったのか。
どうか、君に。
私の名前を呼んで欲しい。
そして、私の願いを。
『あのときの真実を・・・あの魔女に恋焦がれた陰陽師が正しかったかどうかを、見つけて欲しい。もしも陰陽師が魔女を消すことを願ったなら、それを叶えてほしい』
――桃真は長い長い眠りから目覚める。