第十三話 心の内
夢を見た。
女の子が泣いていて、笑っていて、死んでしまう夢。
古いビデオのように、かすれたものだったけれど――。
ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ!!!!
「ふぁああ~・・・・」
けろちゃんが朝を告げた。
琶月はベッドから出て、いつものように身支度をする。
「俊祐君!起きてください!!」
「んんー・・・」
俊祐も目を覚まし、いつもの朝が始まった。
外には、見慣れた顔が5つ。
泰人先輩と、陸原先輩と、凪森先輩と、真鶴君、桃真。
みな昨日とは違い、とても明るい、いつもどおりの登校だった。
学校でも、変わらない。
屋上でお昼ご飯を食べた。
磨綺もまざり、楽しいお昼だった。
でもなぜだろう・・・?
どうしても、『自分』がここにいる、という感じがしなかった。
そして、あっという間に放課後。
生徒会室のソファーには、泰人先輩と琶月の二人が腰掛けていた。
「・・・琶月ちゃん?元気ないけど、どした?」
「はっはい!なにもないですよ?元気です!」
作り笑いだというのが、自分でもわかった。
そんな琶月を、泰人先輩はじっと見つめていた。
「ああの、私の顔に何かついてますか・・・?」
「・・・・・・」
うんともすんとも言ってくれない。
さすがに、じっと見られていては恥ずかしい。
「あの、泰人先」
言いかけたとき。
―――ポフッ
そのとき、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「へ!?えっと!?」
理解していくほど、頭に血が上っていった。
泰人先輩は、琶月の頭を自分の胸に抱き寄せているのだった。
「・・・・・・」
「泰人先輩・・・?」
泰人先輩の表情が見えない。
もぞもぞと顔をうごかした。
すると、泰人先輩は言った。
「言ってみ?ためておくのは良くないからな」
「!?」
その一言に、体がはねるように反応した。
鼓動がはやくなる。
今にもいろんなものが溢れてしまいそうで、とても辛かった。
「何を言うのですか?私は何もためていませんよ?」
「じゃあ、何で泣いてんだよ?」
平然と言ったつもりだった。
泣いている・・・?
琶月は自分の頬に触れてみる。
・・・・何も、流れていなかった。
「先輩、私泣いてませんよ?」
「泣いてるだろ」
もう一度確かめてみても、やはり泣いていない。
先輩は何を言いたいのだろうか?
「先輩は、私をからかっているのですか?」
「・・・ちげぇよ」
「じゃあ、どうして私が泣いているだなんて」
「ちげぇよ!!」
「きゃっ!?」
泰人先輩は強く言った。
琶月を抱きしめる力も強くなる。
びっくりしてしまって、おもわず声を出してしまった。
泰人先輩は小さく「ごめん」と呟いた。
「ほら、最近いろいろあったじゃん?いきなり契約とか魔女とか言われたり、敵におそわれたり・・・それでさ、なんか、うん。大丈夫かなって」
「先輩・・・」
泰人先輩は、心配してくれていたのだ。
心が熱くなった。
琶月は、無意識のうちに、心の内を話していた。
「突然よくわからないことを言われて。突然よくわからないものに命を狙われていて。何がなんだかもうわからないんです。今まですごしてきた時間が、生活がなくなってしまって。何を信じればいいのか、これからまた何が起こるのか」
泰人先輩は、そんなあやふやで消えてしまいそうな声をしっかり聞いてくれていた。
そして、自然と涙が溢れてきて。
「こわいんです!これから、また大切なものが消えるんじゃないかって!なぜか記憶が飛んでいて、目覚めたときにはお母さんもお父さんもいなくて!みんななにも話してくれなくて!やっと取り戻した毎日も壊れてしまって・・・!私、どうしたらいいのかわからなくて!」
自分でも、こんなことをいうなんて思っていなかった。
だんだんと、涙でうまく話せなくなっていく。
「・・・なのに!否定せずに、すんなり受け入れてしまう自分がいることがこわくて!」
泰人先輩は黙って聞いてくれている。
最後の最後で琶月は、先輩に問いかけた。
「・・・・『私』って、なんですか?」
そんな震える琶月の声が聞こえる生徒会室の前で、白くなるほどこぶしを握り締めながら震える俊祐がいたことは、誰も知らない・・・・・。