第十一話 その後
あれからさほど時間も経たたないうちに、桃真がきた。
そして、琶月は腰が抜けてしまい、しまいには子供のように泣いてしまった。
「琶月ちゃん、落ち着いた?これお茶だよ。飲んでね」
「・・・ありがとうございます。もう大丈夫です。お騒がせしてすみません」
泰人先輩がくれたお茶はとても温かい。
中を見ると、泣きはらした目をした自分が映っていて、水面はまだ小さく震えていた。
「・・・先輩。あれって一体何なんですか?」
思い出すだけで頭が痛くなる。
泰人先輩は恐くなかったのだろうか?
「さっきのはね、式神っていって、陰陽師さんが使うものなんだけど、って琶月ちゃん。・・・ああ!そっか!記憶がねぇんだもんな」
「・・・?」
勝手に納得されてもわからない。
しっかり説明してほしい、と目で訴える。
すると泰人先輩は、「ごめんごめん」と笑った。
「あのな、妖と契約すると、その妖の記憶を受け継ぐんだ。ま、妖の記憶を見れるってわけなんだけど・・・琶月ちゃんは、契約したことも忘れちまったんだからわかんねぇよなって」
「記憶を、受け継ぐ・・・?」
泰人先輩はうなずいて続けた。
「俺も天狗の記憶を見たからっつーか、天狗に体少し貸したから、風操れたんだ」
「体を貸すって、さっきの先輩は先輩じゃなかったんですか?」
「いや、そういうことじゃなくて・・・いや、そういうことなのか?」
泰人先輩も言葉に困っているようだ。
そのとき、今まで何かを考えているように黙り込んでいた桃真が言った。
「つまり、その天狗も先輩もどちらもいたってことですよね?」
「そうそう!俺の意志でしゃべってたけど、風を操るのをあいつに手伝ってもらったってかんじ!」
「なるほどです。天狗さんは泰人先輩ということですよね?」
「ま、まぁ、そういうことだよな・・・・?」
大体はわかった。
あのときの先輩は、先輩であって天狗さんでもあるということらしい。
実に紛らわしい。
すると泰人先輩は、溜め息混じりに笑った。
「あーあ、とうとう敵も動いちゃったかぁ・・・」
「・・・・」
「・・・・」
その一言で沈黙が訪れそうになったとき。
「姉さーーーーーーん!!!??」
「わわ!俊祐君!?」
戸が勢いよく開かれたかと思うと、俊祐がほわほわした笑顔で抱きついてきた。
・・・かわいい。
母性本能をくすぐる笑顔と汗の匂いで、思わず頭を撫でてしまった。
そんな、喉を猫のようにゴロゴロならしそうな俊祐を、桃真が引き剥がす。
「おい俊祐!そろそろ離れろ!」
「う~姉さ~ん」
首根っこをつかまれた俊祐は、名残惜しそうに口をへの字にしていた。
すると、真鶴と陸原先輩と凪森先輩も帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「・・・・・」
「俊祐君、終わったとたんに走っていかないでよ。僕一人で廊下を歩くはめになったじゃない」
それぞれ一言(?)告げると、ソファーに座った。
「にしても、一気にきたな。いつのまにこんな時間になってたんだ?」
「そうですね~」
そして迷うことなく、泰人先輩はさきほどの出来事をみんなに話すのだった。