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清純が好きでしょ  作者: msm
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貪欲と清純と愛と

「桃ってほんとにおもろいよね。そーゆーとこだいすきだわ!ww」


白くて綺麗な歯を見せながら、愛は大きく口を開いて笑う。そしてわたしはありがとう、と笑って返す。

おもしろいといわれるのは初めてではないけれど、確かに嬉しいという感情が脳を支配している。

自分のセンスを肯定された。自分のセンスで他人が喜んでくれた。そんなことは昔じゃありえなかったから。




あまり良い家庭環境のもとでうまれたわけではないと自分でも思っている。

癇癪持ちの酷い母。無愛想な父。通称”デキ婚“生まれの私は、昔から肯定されることがなかった。


殴りかかってくる母親。止めもしない父。大泣きする私。泣いても笑っても真顔でも怒られるだけの日々。

それと比べて、我が子を愛おしそうに見つめる母親、すきなものをかってあげる父親、きらきらの友達。

自分とは全く違う親を、環境は昔からずっと、ひどく羨ましがっていた。


幼稚園の頃の記憶はほぼない。殴られていたのか、怒鳴られていたのか、なにもわからない。

たまに機嫌の良かった母がわたしにプリキュアのおもちゃを買ってくれたことだけ覚えている。

小学生の頃の記憶はすこしある。機嫌の良い母親を見極めることが出来ずになんども殴られ何度も怒鳴られた。冷凍食品まみれのパサパサなお弁当を母親が昔使っていた汚いリュックにいれて遠足に行った。周りの子のリュックはもっと綺麗で可愛かった。

友達の家へ遊びに行った。友達のお母さんはとってもやさしくて、親切で、こんなにもちがうのかと衝撃を受けた。

機嫌のいい時にたくさんわがままを言った。言いすぎると殴られた。

物を投げられて体を壊した。髪の毛が一部分生えなくなった。

何も食べられなくなって、たまに作ってくれるご飯を残して殴られた。

小学生の時は助けを求めようと、思い切って友達に相談したことがある。小学五年生の頃だったと思う。

家族が怖いの。お母さんが殴ってくる。助けて。そう言ったけれど、友達は困った顔をして何も言わずにそっと私から離れていった。

そして中学生の今。少しずつ扱いに慣れたけれど、やっぱり怒られる。

助けを求めることが無意味だと知ったあの日から、私は友達にたくさん嘘をつくようになった。友達が幸せそうな家族の話をするから、私も乗っかって、やってもいないこと、されてもきないことをたくさん話した。

「私の両親は離婚している。」「私の両親は毎日喧嘩している。」と愚痴を吐いてくる友達もいた。でも私は自分より酷くない癖に弱音を吐くな、と思って適当な同情をしている。

自分の性格がここまで悪いのは環境のせいだと、成績が伸び悩んでいるのは環境のせいだと、そう言い聞かせて毎日生きている。



肯定されることが私の救いであり、生きがいであった。



「ねー、次どこいく?もうここ飽きたんだけどww」

「それなー。カラオケでもいく?」

「あー、ありあり!今空いてんのかな。」


腰掛けていたベンチから勢いよく立ち上がり、近くのカラオケボックスへと足を運ぶ。


「てかさー、この前お母さんとカラオケ行ったんだけど___」


愛はお母さんと非常に仲が良く、よくお母さんの話をしてくれる。

愛はお母さんのことが大好きだし、きっと愛のおかあさんも愛のことが大好きなのであろう。羨ましく感じてしまう。


愛はわたしにはないものをたくさん持っている。

流行りの服、割と最近めなスマホ。メイク道具。彼氏。とか、まさにみんなが憧れる理想の女の子!みたいな感じの子。

そんな愛と仲良くなったきっかけは中学一年生の頃、たまたま同じクラスの同じ班になって、しゃべりかけてきてくれたのが大きな理由だった。

入学当初から圧倒的なビジュアルの良さにざわつかれていた愛は男女関係なしにみんな見惚れていたし、上級生までも教室へ覗きにくるレベルだった。

成績もまぁまぁよくて、運動もできて、という部分はさらに愛の人気に拍車をかせた。


愛に褒められることが嬉しくて、こんな自分と一緒に入れくれるのがうれしくて。だから私は愛のことが大好きだった。


でも、

もし私が愛になれたら、愛の家で生まれたら、と考えると

愛のことをふと、殺したくなる。


やっぱり愛のことは嫌いだ。私を肯定するだけの人間であり、それ以上それ以下もない。











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