第八話 軍人キヨマサ───どうやら避難所を守っているらしい……
今世の妹にクロネという仮の名前をあげてからしばらく時間がたった。まだ明るかった近未来都市に夕焼けがさしている。
そろそろ寝床になる場所を探したいんだが、どの建物もボロボロで今にも崩れそうだし、誰か他の人に避難できる場所を聞こうにも、まだ俺たちは生きてる人とはだれとも会っていない。
───戦闘は相当大規模なものだったらしい。だが、建物の壊れ方的に、街に対して弾を撃ったわけではなさそうだ。それならもっとこう……建物の原型がなくなっているはずだ。
何かが建物に突っ込んだとしか思えないような不自然な崩れ方をしていた建物もあったが、肝心の突っ込んだと思われる兵器の姿は跡形もなくなっていた。
そんな廃墟たちに囲まれた道を、クロネとしばらく進んだ時だ。
「あれは?」
少し離れたところに、中から光が漏れている建物があった。ドーム状の屋根が特徴的で、他の建物よりも横に広い……それこそ野球ドームのような建物だ。
もしかしたら、あれが避難所かもしれない。野球ドームや競技場のようなものなら、緊急時の避難所に指定されていてもおかしくないし、何より光があるってことは人がいる可能性が高い。
あそこまでならそんなに離れてないし、日が完全に落ちる前に着けるだろう。
「クロネ、あそこまで歩ける?」
ここまで、結構な距離を歩いた。さすがにクロネも疲れているだろうと聞いてみる。
「大丈夫。あそこまでなら」
そう言って、クロネは俺の手を握る力をほんの少し強めた。まだこの子の表情は掴めないが、やっぱり疲れてるのかな。
「───よっ」
クロネの膝の裏と背中に手をまわし持ち上げる───所謂お姫様抱っこをして、クロネを抱える。
「……おにい、重くない?」
いきなり持ち上げたから、少しぐらい怒るかなと心配したが、特にそういう反応はなかった。───いや、ちょっと顔が赤くなってるかな?
「大丈夫、軽いぐらいだよ」
妹の可愛い側面を見つけて、ちょっと微笑ましく思いながらそう返す。
子供の体に転生したから、クロネを支え切れるか不安だったが、クロネが軽すぎるのか、思ったより簡単に持ち上げれてしまった。
「んじゃ、行こうか」
クロネに、俺の首に手を回すように促してから歩き始める。
日はまだ沈み切ってないが、少し急ぐか。
そう考えて、歩き始めた足を少し速めるのだった。
◇
「思ったより近かったな……」
クロネをゆっくり下ろしながら独り言ちる。
もともとそんなに離れているようには見えなかったが、もう少し時間がかかるものだと思っていた。ドームが想像の倍ぐらい大きかったから、遠近法で近くに見えていたのか……? いやそれだと逆か。
まぁ、さっきまではクロネに合わせて歩いてたから、自分のペースで歩いたら思いの外早く着いたってことだろう。
「クロネ、大丈夫だった?」
「ん、快適だった」
「ならよかった」
そんなに揺らしていないと思うが、早歩きできたから怖がらせたかもと聞いてみたが大丈夫だったらしい。
あれぐらいの距離なら、走りながらクロネをお姫様抱っこしても疲れることはなさそうだなと、新しい体の若さに感動しつつドームの入り口を探す。
やっぱりというか、このドームはスポーツを観戦するための施設らしい。
ドームの壁面に付いていた広告に、装甲を着た人のようなものが銃をぶっ放している写真があった。もしかしたら、剣闘士の闘いのようなスポーツのための建造物なのかもしれない。
───外観は近未来SFなのに、やってることが中世ヨーロッパとは……もしかしたらこの世界の人は血生臭いのが好きなタイプなのかも知れない。
因みに、広告に添えられていた文は解読できなかった。日本語とも他の言語とも違う形の文字だったが、俺はこの文字をどこかで見たことがあった気がした。
「おにい、あれ」
しばらくドームに沿うように歩いていくと、クロネが先のほうを指さした。
クロネが指さした方向に目線を動かすと、入口らしきものと……人がいる。
ガタイのいい男だ。年齢はヘルメットで顔が隠れてるから推測できないが、銃で武装して、時よりきょろきょろと周りを見ている。服も警官がつけるような防弾チョッキではなく、全身を守るような、文字通りの装甲を身に纏っている。
「───ん? そこの君たち! どこから来た!」
敵か味方か分からないので、クロネに目配せして、近くの植木の影に隠れて様子を見ていたんだが、どうやらバレたらしい。
小走りで近づいてくるガタイのいい男は、俺たちに近づきながら銃を背中に隠していた。子供を怖がらせないようにってことなのか、それとも───
「君たちは……避難民───あー、戦いから逃げてきたのか?」
見た目が小学生の俺たちに合わせて言葉を変えた彼は、「ん? あぁ、なに、怪しい人じゃない」と言いながらヘルメットを外した。───明るい赤の髪色が特徴的な、二十代ぐらいの青年の顔だ。
「カイドウ キヨマサだ。この避難所を守ってる軍人だ」
カイドウは胸ポケットから出した手帳を開いて俺たちに見せてきた。警察手帳のようなものらしく、そこには彼の写真と、その下に軍のシンボルのような鷹のような鳥マーク、さらにその下に、何行かにわたって文字が書かれていた。
多分所属してる軍の名前とキヨマサの名前と階級でも載ってるんだろう───
「ん? どうした?」
───全く読めないんだけど。
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