第四話 『マグスアップ』───与えられた力を使う者の為の始まりの祝詞。
「えっと……つまり、これは魔法少女とやらになるためのアイテムで、んで、レイにぃは魔法少女で、しかも敵ってこと……?」
【星の守護者】の魔法少女の力を手に入れてしまった小夜は、奇しくも敵である【星の破壊者】であり兄である俺に、一回も変身することなく正体がバレてしまった。
「そうだ。そんでもって、これと契約した時点で小夜。お前は俺たちに狙われる立場になった」
「……命を?」
「あぁ。殺しに来る」
そして小夜は、敵の魔法少女である俺に、魔法少女について教わっていた。
「レイにぃは?」
「……」
俺は、小夜を守るためにこの力を受け入れた。だから、こいつが星の守護者なら、俺はそっち側に行くべくなんだろう。
だが、こっち側でやらなければいけないことがある以上……
「まだ分からない」
そう言って、返答を先延ばしにするしかなかった。
「ふーん……まあいいや」
兄が敵か味方か分からないというのに、それを「まあいいや」と流してしまえるのは、兄のことなんてどうでもいいと考えてるのか、それとも魔法少女を甘く見ているのか……
「それで!? レイにぃも魔法少女っていうことは、少女になれるんだよね?! 見せて見せて!」
やけに少女の部分を強調して言う小夜には、そんなことより興味があることがあったということらしい。
命より兄の少女姿のほうが重要ってどうなんだ……? まぁ、元々変身する気だったが。
椅子から立ち上がり、小夜のほうを向きながら左手を胸の前に持っていき呟く。
「『マグスアップ』」
左手の小指に付けていた銀色の指輪を可視化させながら変身開始の合図をつぶやくと、指輪から発生した、どこの言葉か分からない字が並んだ青白い光を放つ帯が全身を包み始める。
全身を帯が覆い終わり、自分の体が縮んだことを確認してから、繭のように俺を包んでいる帯だったものを引き裂くようにして外に出る。
直後、生まれたままの姿だった俺の体に、引き裂かれてバラバラになった光の帯が纏わりついてくる。
この間約十数秒。最後に青白い光が服を形作り、俺は【氷の魔法少女】の姿への変身が完了する。
「わぁ……」
変身中は周りが眩しすぎるし、見てはいけないものまで見てしまいそうなので目をつむっているのだが、変身完了と同時に目を開けると、そこには変身前より身長が高くなった小夜が目を見開いて嘆声を漏らしていた。
「かわいい……!!」
そう言いながら俺に抱き着いてくる小夜。そういえばこいつ、昔妹が欲しいって言ってたな。確かに、今の俺の身長なら小夜の妹と言われても何ら不自然じゃないだろう───俺の元の身長は170センチぐらいなのだが、変身すると150センチぐらいの幼女になる。
「離れろ」
ちょうど妹の胸───年相応の大きさだ───に収まる形でホールドされてた俺は、妹だが流石にまずい気がしたので力を入れすぎないように小夜から離れる。
「あぁ……」
……残念そうな顔するなよ。
「それより───」
ロリコンの気がある妹に半目になりながら、机の上に放置されていたブレスレットを小夜に渡す。
「小夜。お前も変身してみろ」
俺が変身したのは、何も小夜に可愛がられるためとか抱きしめられるためとかではない。初変身の時は何があるか分からないからだ。人伝に聞いた話によれば、初めての変身の時に暴走し、他の魔法少女が助けに来るまで暴れ続けた……なんてことがあったらしい。それも一件や二件じゃない。
───因みに、魔法少女の力で破壊された建物や運悪く巻き込まれた人などは、一日経つと何もなかったように元通りになる。これの原理はわからないが、多くの魔法少女は考えないようにしていた。そういうものでしょ、と。
「えっと……」
「それを胸の前に持って来てこう唱えるんだ。『マジカアップ』、と」
小夜が嵌めた金のブレスレットを指さしながら、幼い女の子のものに変わった声で指示する。
「え? でもレイにぃは『マグスアップ』って……」
「細かいことは知らないが、そっちの陣営はそう言うらしい」
そう、【星の破壊者】と【星の守護者】では変身開始の合図の単語が違うらしいのだ。俺にも詳しいことは分からないが、星の守護者から星の破壊者に鞍替えしたあいつが変身の時に言っていたのを聞いたことがあったので知っていた。
「わ、わかった……『マジカアップ』っ!」
そう小夜が変身開始の宣言をした瞬間、小夜の体が光に包まれ始めた。
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※誤字指摘、アドバイス等随時受け付けております。
22/05/04 20:03 一部表現の修正を行いました。
22/05/05 02:31 次話との整合性を持たせるため、一部表現を変更しました。変更前『星の守護者から星の破壊者に鞍替えした奴が変身の時に』→変更後『星の守護者から星の破壊者に鞍替えしたあいつが変身の時に』